新潟試験所ニュース

研究ノート

妙高・幕の沢における雪崩発生と気象・積雪観測

1. はじめに

 表層雪崩の発生を予測するためには、雪崩が発生する条件を知る必要があり、そのためには雪崩の発生事例と発生に至るまでの気象や積雪データを蓄積することが必要である。しかしながら、一般に雪崩が発生する山岳地域では気象や積雪観測が困難であり、詳細なデータはなかなか手に入らない。また、人里離れたところでは雪崩の発生時刻を知ることも容易ではない。そこで、2000年2〜4月、雪崩が頻発する妙高山麓の幕の沢末端付近(標高約820m)に雪崩発生検知システム(飯倉他、2000)を設置して雪崩発生時刻と規模を自動的に記録するとともに、近くで連続的に気象観測をし、1週間毎に積雪断面観測を行った。観測の詳細は新潟試験所ニュース(2000.8月号)を参照されたい。

2.雪崩の発生

図-1 雪崩発生検知システムで記録した震動データ

図−1  雪崩発生検知システムで
記録した震動データ

 消雪後に 回収した検 知システム のデータを 図−1に示し た。これは、 雪崩の衝突 によって生 じた震動が パルス数と して記録さ れたもので、この記録から2月16日16時13分に雪崩が発生したことがわかった。このシステムは雪崩の規模を4段階で判断でき、記録された雪崩の規模は最大級のレベル4であっ た。この他に雪崩の記録はなかった。
 4月になって幕の沢に入ってみると、雪崩の衝撃を捉える検知ポールは折れ曲がって積雪中に埋没していた。周囲の積雪には自然積雪のような層構造はみられず、雪崩によるものと考えられた。おそらく2月16日の積雪を記録したのと同時にポールは折れ曲がり、その後積雪中に埋没したと考えられる。そのため、これ以降の雪崩は、発生していたとしても検知できなかった。

3.気象・積雪観測結果

 図−2に2月の24時間 降雪深と日最高気温を 示した。14 日に低気圧 が日本付近 を通過、日中の気温が 2.2℃まで上昇した後、強い冬型の気圧配置となり寒気が入った。関山における15日〜16日にかけての24時間降雪深は88pで、今冬期最高であった。
 図−3は2月18日の積 雪層構造である。矢印 の層は14日の表面と推 定できる。すなわち、 気温上昇により積雪が 昇温した後、寒気が入 って表面温度が低下し たため、こしもざらめ が形成されたと推察で きる。この上の約150 cmに及ぶ厚い新雪層は 図−3は2月18日の積 雪層構造である。矢印 の層は14日の表面と推 定できる。すなわち、 気温上昇により積雪が 昇温した後、寒気が入 って表面温度が低下し たため、こしもざらめ が形成されたと推察で きる。この上の約150cmに及ぶ厚い新雪層は14日以降の降雪によるものと考えられる。

図−2 24時間降雪深と日最高気温 図−2 24時間降雪深と日最高気温
図−2 24時間降雪深と日最高気温

図−3  2/18の積雪層構造
(+は新雪、□はこしもざらめ、/はこしまり、
●はしまり、○はざらめ雪を表わす。)


4.斜面積雪の安定度

図−4 斜面積雪安定度の時間変化

図−4 斜面積雪安定度の時間変化

 新潟県などの本州の豪雪地帯では気温が氷点下で大雪が降った場合、顕著な弱層がなくても降雪中やその直後に表層雪崩が発生することが多いといわれている(Endo,1992:遠藤、1993: 納口、1992)。2月16日に幕の沢で起きた雪崩も大雪の最中に発生した。そこで、不安定な新雪の崩壊によってこの雪崩が発生した可能性について考察した。
 雪崩の発生評価には、Roch(1966)が定義した、積雪の剪断強度(SFI)を剪断応力で除した値が安定度(SI)として広く使用されている。ここでは遠藤(1993)の方法を用いて、安定度を計算した。幕の沢の最大斜度と同じ40度の斜面について、2月15〜16日に観測された降雪強度(3kgm-2hr-1)を用いて計算した結果、 安定度は降 雪開始後か ら急低下し、 Pelra(19 77)が表層 雪崩の発生 基準として 与えた1.5 を下回った (図−4)。つまり、2月16日の雪崩は、新雪層が崩壊して発生した雪崩であることが示唆された。

5.集水管内酸素濃度低下方法の現地試験

 本観測から以下のことがわかった。
(1)雪崩発生検知システムのデータから、2000年2月16日16時13分に幕の沢で大規模な雪崩が発生した。
(2)強い冬型気圧配置による2月15〜16日
の大量降雪の結果、安定度の小さな新雪層が形成され、表層雪崩を発生させたと考えられる。
(3)2〜3月に行った積雪断面観測では、顕著な弱層はみられなかった。
             
参考文献
(1) 遠藤八十一、1993: 降雪強度による乾雪表層雪崩の発生予測. 雪氷、55、114-120.
(2)Endo, Y., 1992: Time variation of stability index in new snow on slopes. Proceedings of the Japan-US. workshop on snow avalanche, landslide, debris flow prediction and control, 1991, Tsukuba, sponsored by Sceience and Technology Agency of Japanese Government, 85-94.
(3) 飯倉茂弘、河島克久、遠藤徹、藤井俊 茂、2000: 振動センサを利用した 雪崩発生検知システムの開発. 雪 氷、62、367-374.
(4) 納口恭明、1992: 積雪のN-indexについて.雪崩の内部構造とダイナ ミックスに関する基礎研究.文部省科学研究費成果報告書. 54-48. (4) Pelra, R., 1977: Slab avalanche measurements. Canadian Geotechnical Journal 14, 206- 213.
(5) Roch, A., 1966: Les declenchements d avalanches. Int. Ass. Sci. Hydrol. Publ. No.69, 182-192.

(文責:竹内)

実験施設紹介

(リングせん断試験機)

写真−1 すべり面(猿供養寺地すべり)

写真−1 すべり面(猿供養寺地すべり)

  地すべり斜面には、移動する土塊と移動しない土塊との間に写真−1に示すすべり面があり、このすべり面には極薄い(数mmの場合もある)粘土(すべり面粘土)が存在しています。また、地すべりは、重力による土塊の滑動力が、その力に抵抗するすべり面粘土のせん断強さより大きくなった時に発生します。したがって、地すべりの発生を防止するためには、常にすべり面のせん断強さを滑動力より大きくしておく必要があり、そのために地すべり防止工事が行われています。
 この地すべり防止工事の量は、地すべりの滑動力に対する抵抗力(せん断強さ)を、その工事によりどの程度補強する必要があるかを求め決められます。その際には、すべり面のせん断強さを予め求めておく必要があります。写真−2に示すリングせん断試験機は、このための試験機の一つです。
 また、すべり面のせん断強さは、図−1に示すように地すべりの移動の増大に伴いピーク強さ→完全軟化強さ→残留強さへと変化し低下が起こります。この3種類のせん断強さを求めるためには、すべり面粘土を大きな移動量でせん断する必要があります。このため、試験は、図−2に示すリング状に成形した供試体を用いて行います。
 現在、新潟試験所では、この試験機を用いて積雪地域地すべりの発生機構を解明のため
の基礎研究を実施しております。


写真−2 リングせん断試験機 図−1 すべり面のせん断強さ
図−1 すべり面のせん断強さ
図−2 リングせん断試験の供試体
写真−2 リングせん断試験機 図−2 リングせん断試験の供試体

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