新潟試験所ニュース

研究ノート

非塩化物型凍結防止剤を用いた現地実証試験

1. はじめに

 積雪寒冷地においては、冬期の降雪や路面凍結による交通事故を防止し、円滑な交通の確保を図る目的で、塩化物型の凍結防止剤が散布されています。近年スパイクタイヤの使用規制を契機として、凍結防止剤の散布量が年々増加傾向にあり、塩化物型の凍結防止剤散布による道路構造物や植物への悪影響が懸念され、環境に優しい非塩化物型凍結防止剤の開発が求められています。
 本試験では、環境に優しく持続性のある凍結防止剤の実用化を目的として、新井市道において、既存の塩化物型凍結防止剤と非塩化物型凍結防止剤の散布効果に関する現地実証試験を合計5回実施しました。その中で、事前散布効果(路面が凍結する前に事前に凍結防止剤を散布した場合の効果)を目的として実施した「第5回現地実証試験」結果について報告します。

図-1 主側線縦断面図
図-1 現地実証試験の計測位置(10地点)と散布区間

2.試験方法

 本試験は表-1に示す時間帯に、新潟県新井市道十日市長森線(長森地先から上八幡地先までの2.4qの区間)において、凍結防止剤(塩化物型として塩化ナトリウム、塩化カルシウムの2種類、非塩化物型として酢酸化合物系のA〜Fの7種類)の散布効果を、路面すべり測定車によるすべり摩擦係数の計測結果及び現地観測員による測定結果(雪氷面温度、路面残留薬剤濃度、目視による路面状態等)から評価しました。
 試験は夕方から翌朝にかけ、新井市道十日市長森線を通行止めにして実施しました。路面すべり測定車によるすべり摩擦係数の計測(写真−1)では、上記9種類の凍結防止剤散布効果を図-1に示す現地実証試験の計測位置において毎正時に測定しました。なお、通過交通による凍結防止剤の攪拌効果を期待するために、普通自動車5台を試験準備時間帯と試験開始から試験終了までの時間帯に試験区間(2.4q区間)を連続して一方向に走行させ続けました。また、凍結防止剤は、散布量を40g/m2とし、17時20分に散布しました。この他、第5回現地実証試験(事前散布効果試験)では、凍結防止剤D区間の試験材料が不足していたため散布せず、無散布区間として摩擦係数のみを計測しました。


表-1 試験実施日
回数 観測 調査日時 調査時間(時間) 天候
第1回 開始 平成13年2月12日17:00 12.0 曇り
終了 平成13年2月13日 5:00
第2回 開始 平成13年2月15日20:00 9.0 晴れのち曇り
終了 平成13年2月16日 5:00
第3回 開始 平成13年2月25日17:00 13.0 雪のち曇り
終了 平成13年2月26日 6:00
第4回 開始 平成13年2月26日14:00 9.5 雪のち晴れ
終了 平成13年2月26日23:30
第5回 開始 平成13年3月11日15:00 14.0 雪のち晴れ
終了 平成13年3月12日 5:00
合 計 57.5  

写真-1 すべり測定車によるすべり摩擦係数測定 写真-2 凍結防止剤散布状況

図-2 ニューラルネットワークによるすべり面形状推定結果
図-2 気温、時間降雪量及び雪氷面温度の経時変化 
(3月11日17:00〜3月12日4:00)

図-2 ニューラルネットワークによるすべり面形状推定結果
図-3 わだち部非わだち部の路面状態の経時変化
(3月11日17:00〜3月12日4:00)

図-2 ニューラルネットワークによるすべり面形状推定結果
図-4 すべり摩擦係数の経時変化
(3月11日17:00〜3月12日4:00)

3.試験結果

(1) 気象状況
 第5回現地実証試験(事前散布効果試験)を実施した3月11日は、試験開始直後の17時から22時にかけて時間降雪量1p未満の断続的な降雪がありましたが、その後は晴天となり放射冷却が卓越していました。また、気温は試験開始直後である17時に-0.2℃であったものが、時間の経過とともに低下し、試験終了時の4時には-4.5℃となりました。

(2) 路面温度
 路面温度(雪氷面温度)は、図−2に示すように、凍結防止剤散布前の17時にはすべての区間において0℃〜1℃程度であったものが、気温の時間変化に追従する形で低下する傾向にあります。その中でも塩化ナトリウム散布区間の路面温度は、その他の区間の路面温度と比較して、凍結防止剤散布後の18時に路面温度が大きく低下しています。これは、凝固点降下作用によるものと考えられます。

(3) 路面状態
 無散布区間の路面状態は、図−3に示すように、試験開始後2時間程度の間、わだち部および非わだち部ともに湿潤状態にあったものが、気温及び路面温度の低下とともに雪氷路面状態となっていることが分かります。一方、凍結防止剤を散布している各区間については、わだち部と非わだち部で時間経過にともなう路面状態に差異が認められるものの、無散布区間より2時間程度は湿潤状態(写真−4)を長く保持している傾向にあることが分かりました。また、わだち部における雪氷厚は0〜0.5pでした。

(4) すべり摩擦係数
 無散布区間のすべり摩擦係数は、図−4に示すように、試験開始後2時間程度の湿潤状態では0.41〜0.74で推移しましたが、路面状態が雪氷路面に変化した後は0.14〜0.30で推移しています。一方、凍結防止剤を散布している各区間では、各区間でばらつきが認められるものの0.29〜0.78で推移し、無散布区間と比較して0.15〜0.48程度高いすべり摩擦係数が確保されていました。このとから、酢酸化合物系の非塩化物型凍結防止剤を散布した区間は、既存の塩化物型凍結防止剤を散布した区間と同程度のすべり摩擦係数が確保されていることが分かりました。

4.おわりに

今後は、路面状況・気象状況の異なるケースでデータの蓄積を図るとともに、道路構造物や沿道環境への影響を考慮した、非塩化物型凍結防止剤の散布について検討していく必要があると考えます。

写真-3 路面の状態 写真-4 路面の状態
(文責:林)

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