新潟試験所ニュース

研究ノート

図-1 主側線縦断面図
写真-1 λ型雪崩予防柵(妙高村)

新型雪崩予防柵の雪圧計測

1. はじめに

雪崩予防施設は発生域に設けられ、斜面積雪のクリープ・グライド運動を阻止して表層・全層雪崩の発生を未然に防止しており、予防柵が古くから用いられています。通常予防柵は写真-1のようにコンクリート基礎の上に骨組み(主柱・支柱)をλ型に組み合わせ、その上に格子材(クロスビーム)を横に配 置した形状が一般的です。しかし、基礎掘削の面積が大きく床堀土砂の流出や樹木の伐採を伴い、環境・景観への影響があることや、高標高部の斜面など積雪深の大きい所では施工性が悪いなどの欠点があります。

図-2 ニューラルネットワークによるすべり面形状推定結果
図-1 設計条件

 このため、最近ではスイスで用られているスノーネットや新しいタイプである鉛直型(自立式)雪崩予防柵の試験施工が各地で行われています。これらの施設は前述の問題を解決するとともに、資材重量の軽減など施工性やコスト縮減に寄与すると期待されますが、日本の雪質や積雪深・地形条件に適合する設計手法がありません。このため、施工箇所において構造物にかかる実際の雪圧計測を行っています。また、樹木も雪崩予防効果を持っていますがその定量的な効果は不明で、予防施設施工時には伐採することが多いため、施設と併用することで、環境に負荷を与えない効果的・経済的な予防施設についても検討しています。今回は鉛直型予防柵の雪圧計測結果について報告します。

2.鉛直型予防柵の設計基本手法

 従来型のλ型予防柵にかかる雪圧計算はスイス指針の手法に準拠していました が、豪雪年等に破損や転倒する事例があり、日本の雪質に適合させるべく調査が行われ、グライド係数を5割増し(本州の場合)、さらに柵上部での荷重を見込んだ雪圧算定手法がすでに作成されています。鉛直型予防柵にかかる雪圧算定の考え方は基本的に同様で、雪圧の合力を柵の垂直・鉛直成分に分解し、地上部においては片持梁、根入部は弾性床上の梁モデルとみなしています(図-1)。

図-2 鉛直型予防柵の雪圧計測地

3.雪圧計測

 平成7年度より白馬村黒菱で雪圧計測を開始し、10年度からは県の協力を含め図-2の7箇所において調査を継続しています。計測は受圧板(0.43m2)を柵の端部及び中央部にそれぞれ上部から下部まで4〜5枚配置し、各受圧板に3個のロードセルを取り付けその合力を雪圧としています(写真-2)。
 暖冬傾向で柵の上部まで積雪がない箇所が多いですが、白馬村黒菱では地形の影響で毎年柵を覆うほど多量の降雪があります。ここには標高1,430〜1,490mの東向き斜面に6m柵86基、最上部は4m柵が11基設置されていて雪崩を予防しています(写真-3)。なお、6m柵は自立柱のみでは杭径・重量が大きくなるためアンカーを併用しています。
 図-3にH12/H13の気温・積雪量と雪圧計測結果を示します。受圧板は上部より1〜5とし、雪圧計算は (1)指針による積雪深から積雪密度を計算する手法と、(2)現地で6冬期積雪断面観測を行って算出した平均積雪密度を用いて行いました。

写真-2 鉛直型予防柵の雪圧計測(白馬村黒菱) 写真-3 鉛直型予防柵群
図-3 鉛直型予防柵にかかる雪圧の推移

 雪圧のピークは他の地点と同様に最大積雪深時より遅れて出現します。その後雪圧が急激に減少しますが気温上昇による受圧板周辺の融雪によるものと考えられます。以後積雪深が減少しているにもかかわらず再び雪圧が上昇し2回目のピークを迎えますが、積雪のグライド・クリープが活発になったものと思われ、4/19に行った柵周辺の積雪断面観測では積雪深3.5mで、谷側にある積雪層が柵より分離し下方へ移動しているのが観察できました。以後受圧板周辺の融雪が進み4月下旬に雪圧はなくなりますがアンカーには雪圧の反力がみられ、他の柵部材には依然雪圧がかかっていることを示しています。
 図-4に過去5冬期の実測雪圧/計算雪圧の最大値を示します。計算雪圧は上記(1)としました。雪圧は中央列より端部、下部より上部が大きくかかる傾向にあります。集落雪崩対策指針(案)では、設計時に柵の辺縁部及び上部にかかる計算雪圧((1)の方法)の割増(それぞれ2,1.5倍)を行っており、ほぼ割増の範囲内に入っていますが、年によって雪圧のかかり方が異なり、一部は割増範囲に収らない場合もあります。ただし、現況の施設においては数基の柵の格子材最上部にゆがみが見られるだけで、特に主柱などに顕著な異常はみられませんでした。
 さらに、他の6地点の3冬期の調査では、積雪が柵の上部までなく、雪圧は下部・端部に大きくかかる傾向にありました。以上より現状では図-5のような荷重が想定できます。

図-4 実測雪圧と計算雪圧の比
図-5 鉛直型予防柵にかかる雪圧の概念図

4.おわりに

 雪崩予防施設は、冬期間のみ機能するもので、無雪期には施設だけが目立っています。高標高部で積雪深の大きいところでは、木が生育するのは困難で施設による対応が主と考えられますが、渓谷沿いの集落など低標高で積雪深が大きくない場合には、予防施設と樹木のもつ雪崩予防効果を組み合わせて景観に配慮しつつ構造物の規模も減じることが可能です。H12/H13に妙高村で行った落葉樹林の予防効果調査では、杭としての予防のほか無林地との積雪層構造の違いなどがみられましたが、今後はこのような計測を継続し、定量的な樹木の効果と施設とを合わせた予防機能についても検討する予定です。

(文責:秋山)

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