一般的な再滑動型地すべりの発生原因は、雨水や融雪水の地すべり斜面への地下浸透であり、その発生機構は、現地観測や実験により確認されています。しかしながら、このような地すべり発生機構は、長い場合数百年に一度単位で移動を繰り返す風化岩地すべり及び崩積土地すべりなどにはそのまま適用できません。その理由として、同じ気象条件の中で、粘質土地すべりは年単位で移動を繰り返すのに対して、風化岩地すべり及び崩積土地すべりは長い場合数百年に一度単位で移動を繰り返すことがあります。年単位で移動を繰り返す地すべりの移動は、地下水位の上昇によるすべり面のせん断強さの低下により生じますが、長い場合数百年に一度単位で移動を繰り返す地すべりの移動は、そのこと以上にすべり面のせん断強さが低下した場合にのみ生じることになります。このことから、後者の場合は、すべり面のせん断強さが低下する原因として、地下水位の上昇の他に、長期的なすべり面のせん断強さの低下について考える必要があります。
3.長期的なすべり面のせん断強度低下機構
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図-2 スメクタイト含有量とφr'との関係(濱崎ほか) |
長期的なすべり面及び地すべり土塊のせん断強度の低下機構として、以下に示すことが考えられます。
千木良は、地すべり地外における細粒泥岩主体の堆積性軟岩のボーリングコアを用いて化学的風化に関する研究を行っています。この研究では、泥岩が炭酸によって不均一溶解することを実験で確かめ、空気中の酸素や二酸化炭素を含んだ雨水が地下浸透して、特に風化が進んだ層で泥岩と化学反応し、泥岩中の緑泥石を消失させスメクタイト(粘土鉱物の一種)の量を増加させているとしています。そして、このことを、第三紀層に地すべりが多く発生している原因の一つとしています。
この他、守随は、泥岩の風化によりスメクタイトの量が増加することについて、第三紀層地すべりにおける調査から、移動にともないすべり面の粘土分が増加すること、また、その結果、すべり面が明瞭な不透水層となり地下水が滞留し、すべり面粘土と地下水との接触が定常的になることにより、スメクタイトの生成が進行することを明らかにしています。
これらの研究から第三紀層地すべりでは、その土塊内に地下水の作用によりスメクタイトの量が時間の経過とともに増加することが分かります。
また、スメクタイトの量と土の内部摩擦角φ'の関係については、玉田、濱崎ほかなど多数の研究があります。この中で、濱崎ほかは、図−2に示すようにすべり面粘土のX線回折結果からスメクタイトの含有量を求め、内部摩擦角φr'は、スメクタイトの含有量の増加にともない小さくなる傾向があることを示しました。
これらの研究から、土の内部摩擦角は土のスメクタイトの含有量と密接な関係があり、スメクタイト含有量の多い土では、内部摩擦角が小さい値を示すことが明らかになりました。
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