新潟試験所ニュース

研究ノート

第三紀層地すべりの発生機構

図-1 地すべりの形分類 (渡による)

1.まえがき

 わが国は、国土の75%が山地であることや地質的に脆弱な地域が広く分布すること、豪雨や梅雨、融雪などの気象的に非常に厳しい条件下にあることなどから、地すべり災害が毎年多発しています。そこで、今回は、特に地すべり災害の多い地層である新第三紀層地帯(特に新潟、山形、長野、富山の泥岩が分布している地帯)に発生している第三紀層地すべりの発生機構について紹介します 

2.地すべりの形分類と地すべり運動の継続性

 図−1には、渡による地すべりの形分類を示しました。地すべりは、移動土塊の風化度により、岩盤地すべり、風化岩地すべり、崩積土地すべり、粘質土地すべりに分類されます。表−1は、渡による地すべりの形分類と地すべり運動の継続性について示したものです。地すべりは発生後も停止と滑動を繰り返し、形が変化して行きます。また、地すべりが滑動を繰り返す時間間隔(継続性)は、各形により異なります。岩盤地すべりでは突発的であり、風化岩地すべりではある程度断続的であり、崩積土地すべり及び粘質土地すべりでは断続的となります。


表-1 地すべりの形と運動の継続性(渡による)
地すべりの形分類 地すべり運動の継続性
岩盤地すべり 短期間突発的
風化岩地すべり ある程度継続的(数十年〜数百年に一回)
崩積土地すべり 継続的(5〜20年に一回程度)
粘質土地すべり 継続的(1〜5年に一回程度)

 一般的な再滑動型地すべりの発生原因は、雨水や融雪水の地すべり斜面への地下浸透であり、その発生機構は、現地観測や実験により確認されています。しかしながら、このような地すべり発生機構は、長い場合数百年に一度単位で移動を繰り返す風化岩地すべり及び崩積土地すべりなどにはそのまま適用できません。その理由として、同じ気象条件の中で、粘質土地すべりは年単位で移動を繰り返すのに対して、風化岩地すべり及び崩積土地すべりは長い場合数百年に一度単位で移動を繰り返すことがあります。年単位で移動を繰り返す地すべりの移動は、地下水位の上昇によるすべり面のせん断強さの低下により生じますが、長い場合数百年に一度単位で移動を繰り返す地すべりの移動は、そのこと以上にすべり面のせん断強さが低下した場合にのみ生じることになります。このことから、後者の場合は、すべり面のせん断強さが低下する原因として、地下水位の上昇の他に、長期的なすべり面のせん断強さの低下について考える必要があります。

3.長期的なすべり面のせん断強度低下機構

図-2 スメクタイト含有量とφr'との関係(濱崎ほか)

 長期的なすべり面及び地すべり土塊のせん断強度の低下機構として、以下に示すことが考えられます。
 千木良は、地すべり地外における細粒泥岩主体の堆積性軟岩のボーリングコアを用いて化学的風化に関する研究を行っています。この研究では、泥岩が炭酸によって不均一溶解することを実験で確かめ、空気中の酸素や二酸化炭素を含んだ雨水が地下浸透して、特に風化が進んだ層で泥岩と化学反応し、泥岩中の緑泥石を消失させスメクタイト(粘土鉱物の一種)の量を増加させているとしています。そして、このことを、第三紀層に地すべりが多く発生している原因の一つとしています。
 この他、守随は、泥岩の風化によりスメクタイトの量が増加することについて、第三紀層地すべりにおける調査から、移動にともないすべり面の粘土分が増加すること、また、その結果、すべり面が明瞭な不透水層となり地下水が滞留し、すべり面粘土と地下水との接触が定常的になることにより、スメクタイトの生成が進行することを明らかにしています。
 これらの研究から第三紀層地すべりでは、その土塊内に地下水の作用によりスメクタイトの量が時間の経過とともに増加することが分かります。  
 また、スメクタイトの量と土の内部摩擦角φ'の関係については、玉田、濱崎ほかなど多数の研究があります。この中で、濱崎ほかは、図−2に示すようにすべり面粘土のX線回折結果からスメクタイトの含有量を求め、内部摩擦角φr'は、スメクタイトの含有量の増加にともない小さくなる傾向があることを示しました。
 これらの研究から、土の内部摩擦角は土のスメクタイトの含有量と密接な関係があり、スメクタイト含有量の多い土では、内部摩擦角が小さい値を示すことが明らかになりました。

バリ島のライステラス
図ー3 粘土のせん断特性

 以上のことから、第三紀層地すべりでは、すべり面及び地すべり土塊のせん断強さの長期的低下機構として、地すべり移動にともなう物理的風化に よるすべり面粘 との関係(濱崎ほか)土の粘土含有量の増加や、空気中の酸素や二酸化炭素を含んだ雨水の地すべり斜面への地下浸透にともなう地すべり土塊の化学的風化によるスメクタイト量の増加などにより、すべり面及び地すべり土塊の内部摩擦角φ'が小さくなることが推察されます。また、再滑動型地すべりの発生機構として、短期的には地下水位の上昇によるせん断強さの低下などがあり、長期的には前述したようにすべり面粘土の内部摩擦角φ'が小さくなることがあると考えられます。

4.第三紀層地すべりの発生機構

研修生と筆者
図ー4 第三紀層地すべりの発生機構

 第三紀層地すべりの発生機構を考える場合に必要なすべり面粘土のせん断特性として、前述したことの他に、以下に示すことがあります。
 図−3は、すべり面粘土のせん断試験における変位とせん断強さ との関係を示したものです。すべり面粘土のせん断強さは、変位の増大に伴いピーク強さ→完全軟化強さ→残留強さへと低下し収束します。この残留強さは、試験したすべり面粘土の最も小さいせん断強さです。
 この他、中村ほかにより、すべり面粘土を残留強さに達するまでせん断した後、せん断を停止し再圧密して再びせん断した場合、せん断強さは幾分回復することが明らかになってきました。この回復強さは、有効応力の大きさに依存し、直接的には残留せん断面の状態が反映されます。 また、回復強度の発現は、試料(<420μm)中のスメクタイトなどの配向性粘土鉱物含有量が少なく、かつ石英及び砂(20〜420μm)の含有量が多い程大きくなる傾向があります。
 図−4は、以上のすべり面粘土のせん断特性をもとに考えられた第三紀層地すべりの発
生機構です。初生地すべりは、地質構造運動などによる斜面地盤のゆるみ→雨水などの斜面地盤への浸透による地盤の風化→スメクタイトの蓄積と内部摩擦角の低下→豪雨、融雪などによる間隙水圧の増大→斜面地盤のせん断強さの低下、により発生すると考えられ、その後、地すべりは、移動に伴う斜面形態の変化による斜面安全率の増加で停止します。
 移動が停止した後、すべり面粘土中のスメクタイトや砂などの含有量の多少によりせん断強さが回復する場合は、更に斜面安全率が上昇し地すべり発生時の気象条件程度では地すべりが発生しなくなると考えられます。再び地すべりが発生するためには、更に地すべり土塊の風化が進む必要があります。このような地すべり発生機構は、地すべり土塊の風化が進んでいない岩盤地すべり、風化岩地すべり、崩積土地すべりが該当すると考えられます。
 一方、地すべり土塊の風化が進んだ崩積土地すべりや粘質土地すべりでは、すべり面粘土中のスメクタイト含有量が増加し砂の含有量が減少しているため、せん断強さの回復は少ないと考えられます。したがって、これらの地すべりの発生機構は、豪雨、融雪水などによるすべり面の間隙水圧の増大→すべり面のせん断強さの低下による地すべりの再滑動→移動に伴う斜面形態の変化による斜面安全率の増加→移動停止、というサイクルを繰り返す形となります。

5.あとがき

 第三紀層地すべりの発生機構について、最近の研究成果をもとに考察した結果を紹介しました。地すべり発生機構の解明は、地すべり防止の基本となるものです。新潟試験所では、今後も地すべり発生機構について研究を進めて行く計画です。 

  (文責:丸山)
   
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