新潟試験所ニュース

研究ノート

非塩化物型凍結防止剤の開発と薬剤散布効果比較試験


1.はじめに

 わが国では、平成2年度にスパイクタイヤによる粉塵問題を解決するため、「スパイクタイヤ粉じんの発生の防止に関する法律」が施行されました。それ以降、積雪寒冷地においては、冬期路面管理のため、塩化物型凍結防止剤の使用量が年々増大しており、道路構造物・車両への塩害や動植物等道路周辺環境への悪影響が懸念されています。このため、環境に優しく効果の持続性がある新たな凍結防止剤の開発とその効率的・効果的な散布方法の確立が望まれています。

2.非塩化物型凍結防止剤の開発

図-1 凍結防止剤の鋼板に対する乾湿繰返しによる腐食試験

※mdd:mg/dm2/day 腐食速度1日当り1dm2当りの腐食減量
図-1 凍結防止剤の鋼板に対する乾湿繰返しによる腐食試験(数値が小さいほど、腐食の進行が小さい)

 土木研究所では、平成12〜14年度にかけて民間薬剤製造会社3社と共同研究により環境に優しい非塩化物型凍結防止剤(酢酸ナトリウム)の開発を実施してきました。なお、その効果は、室内試験によると塩化物型凍結防止剤(塩化カルシウム)と同等(凝固点・融氷量・路面のすべりやすさを表すすべり摩擦係数)であり、鋼板に対する腐食性(図-1)やコンクリートへの影響等が塩化物型凍結防止剤と比較し、小さいことが確認されました。


3.薬剤散布効果比較試験

1)試験方法
 新潟試験所では、平成14年度(平成15年1月〜1月)に国土交通省関東地方整備局長野国道事務所管内の一般国道18号長野県信濃町野尻地先において、今回開発した非塩化物型凍結防止剤(酢酸ナトリウム)と国道へ実際に道路管理者が薬剤散布している塩化物型凍結防止剤(塩化カルシウム)との薬剤散布効果比較試験を実施しました。なお、試験は7回延べ69時間実施し、すべり摩擦係数の計測(写真-1)及び路面詳細観測(写真-2)により薬剤散布効果を調査しました。
 なお、両薬剤の散布は、道路管理者が実際に薬剤散布を行う方法で計測箇所(酢酸ナトリウム区間と塩化カルシウム区間)に同時散布を行っています(写真-3)。

写真-1 路面すべり測定車によるすべり摩擦計測状況 写真-2 雪氷路面上の路面詳細観測状況
写真-1 路面すべり測定車によるすべり摩擦計測状況 写真-2 雪氷路面上の路面詳細観測状況
写真-3 薬剤散布車による凍結防止剤散布状況  
写真-3 薬剤散布車による凍結防止剤散布状況  

2)試験結果

式−1、2

表-1 開発した薬剤の散布後の即効性・持続性
  即効性 持続性
第1回目調査 0.95 0.90
第2回目調査 0.85 0.96
第3回目調査 1.02 1.00
第4回目調査 0.96 0.99
第5回目調査 0.73 0.82
第6回目調査 1.02 0.91
第7回目調査 0.89 1.08
平均値 0.92 0.95

 薬剤散布効果の比較では、すべり摩擦係数を用いて、式-1,式-2により即効性及び持続性を求め、塩化カルシウムの値を基準に評価しました。表-1に開発した薬剤の即効性・効果の持続性を示しました。各項目の平均値は、塩化カルシウムの方が僅かながら上回っていますが、即効性0.92・持続性0.95(酢酸ナトリウムの方が高い評価の場合も認められた)は、薬剤散布効果としては、酢酸ナトリウムと塩化カルシウムは、ほぼ同等程度と判断されます。図-2は、散布効果比較試験結果の一例です。両薬剤散布後の路面状態は、多少の相違は認めらますが、全体的にはほぼ同等な状態と判断出来ます。

図-2 第3回調査結果
図-2 第3回調査結果(すべり摩擦係数と路面性状の時系列)


 この他、酢酸ナトリウムは、「酢っぱい」臭いを感じる物質のため、実際に薬剤散布直後に臭気試料採取を行い、臭気計測を実施しました。表-2は、臭気判定士が歩道上で最も臭気を感じた時の空気の分析結果です。試料から微量な酢酸が検出されましたが、臭気指数は10未満であり、この値は、一般的には特に臭気で問題になるものではないと考えられます。

表-2 酢酸ナトリウム現道散布時の臭気計測結果
試料採取日時 酢酸濃度(ppm) 臭気濃度 臭気指数
平成15年2月20日19時〜21時 0.012 10未満 10未満
平成15年2月27日0時 0.006未満 10未満 10未満
※臭気濃度・臭気指数
 条例において、悪臭物質の測定法として嗅覚測定法を採用している地方公共団体では、敷地境界・排出口で規制基準を設けている。条例で定められている最も厳しい基準値は、臭気濃度10・臭気指数10である。
 臭気濃度は、臭いのある空気を無臭の空気で臭気が感じられなくなるまで希釈した場合の当該希釈倍数。
   臭気指数=10×log臭気濃度

4.おわりに

 今回の薬剤散布効果比較試験は、限られた場所、時期及び薬剤散布での比較であり、更なる現場検証が必要であると考えています。
今後は、酢酸ナトリウムの特徴を生かした散布箇所及び散布方法等の提案に向けて研究を実施していく計画です。

 (文責:小林)
   

新連載 試験地の風景 その1.秋山郷


 秋山郷は苗場山西方の新潟県津南町・長野県栄村を流れる中津川沿いの集落の総称です。ここは、鈴木牧之が雪国の生活を紹介した「北越雪譜」や、「秋山紀行」に紹介されており、民俗学の対象になっていますが、街の中心部より車で50分程度かかるため、現在でも秘境という雰囲気があります。
 前号の研究ノートで紹介したとおり、この周辺では積雪に起因する土砂の生産・流出について観測を行っています。このうち、鳥甲(とりかぶと)火山は非対象山稜で東斜面の侵食が著しく、一部は絶壁をなしており第二の谷川岳の別名をもっています。谷川岳といえば、日本三大岩場である一ノ倉沢の岸壁が有名ですが、いずれの箇所も雪崩地形(アバランチ・シュート)が発達し、積雪が雪渓状に残っています。鳥甲火山は崩壊地も多いため、多くの砂防堰堤が設置されています。
鳥甲火山 左のピークは白倉山、右は鳥甲山(10/14撮影) 谷川岳・一ノ倉沢(8/29撮影)
鳥甲火山 左のピークは白倉山、右は鳥甲山(10/14撮影) 谷川岳・一ノ倉沢(8/29撮影)
(文責:秋山)

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