雪崩・地すべり研究センターたより

【17年度研究成果】

1.光ファイバーセンサによる地すべり挙動調査(重点プロジェクト)

 近年、頻発する豪雨・地震等に伴う斜面災害から生命・財産を守るために、防災施設の整備に加えて、発生した災害を最小限にくい止める減災技術の積極的な推進が求められています。土砂管理研究グループを中心に、この社会的ニーズに応えるために重点プロジェクト研究として「のり面・斜面の崩壊・流動災害軽減技術の高度化に関する研究」を平成14年〜17年度の4カ年で実施しました。当センターでは、光ファイバセンサ(以後光FSとする)を用いた地すべり斜面の調査・監視技術を開発しました。

図−1 直交配置法による光ファイバ直接埋設方法
図−1 直交配置法による光ファイバ直接埋設方法
 
図−2 FBG方式光ファイバ伸縮計
図−2 FBG方式光ファイバ伸縮計

 光FSは、光ファイバに入射させた光パルスの一部が生じた引張ひずみ等により戻ってくる反射光を利用してひずみ量等を計測でき、測定方式にはB-OTDR(Brillouin Optical Time Domain Reflectometor)、FBG(Fiber Bragg Grating)があります。これらは、1本の光ファイバにセンサと長距離のデータ伝送の機能を持ちさらに、複数地点における連続計測も可能で電気式センサにはない機能を有します。当センターでは、地すべり挙動が顕著でない時点で対処できるように、光FSの特性を活用し、格子状に地中埋設する直交配置法を考案しました(図−1)。この方法は積雪期も計測でき、移動杭測量に比べて面的挙動を迅速に把握できる上、ブロック区分も可能でしたが、引張ひずみが1%を超えると破断し、圧縮ひずみにも対応できない欠点がありました。そこで、光FSとコイルバネまたは板バネの機械的メカニズムを組み合わせた地中埋設型伸縮計を開発し伸縮及び圧縮量100mmまで観測可能となりました(表−1)。また、実用化においてコスト面についても、FBG方式(図−2)はアナライザーが大幅に安価になり、多数の伸縮計を連続して設置する場合、従来型伸縮計より優位になりました(表−1)。これらの光ファイバ伸縮計は、盛り土斜面や河川堤防の挙動監視にも有効であり、現地で耐久性等を確認した上で普及を図る予定です。

表−1 開発した光ファイバ伸縮計
表−1 開発した光ファイバ伸縮計

 

2.地すべり抑止アンカー工維持管理に関する調査(終了課題)

 地すべり防止工のひとつであるアンカーの維持管理のために、アンケート調査による地すべり地におけるアンカーの点検状況及び、6箇所の地すべり地において目視によるアンカーの破損実態を調査しました。また、簡便にアンカーを点検する方法として、振動を利用したアンカー群の調査方法について検討しました。
  その結果、アンカーの点検はほとんどが遠望目視により1年に1回程度で行われていることが分かりました。目視による破損実態調査では、アンカー頭部保護工の破損(写真−1)やアンカー施工斜面内に湧水が認められる場合がありました。また、植物に覆われて点検ができない事例が多く認められ、点検等を配慮した計画や設計の必要性を感じました。
  図−1は独立受圧盤に振動計を設置し、アンカー荷重と卓越周波数を計測した結果です。アンカー荷重が大きくなると卓越周波数が大きくなっていることが分かります。このことから、振動を計測することにより、アンカーに作用している荷重が推定できる可能性があることが分かりました。しかし、振動計を地すべり土塊に設置し、土塊の振動からアンカー群に作用している荷重を評価することは難しいことが分かりました。

写真−1 アンカー被災状況
写真−1 アンカー被災状況
図−1 アンカー荷重と卓越周波数の関係
図−1 アンカー荷重と卓越周波数の関係

 

3.雪崩予防の高度化と抑止効果に関する調査(国土交通本省受託課題:終了課題)

 現在の雪崩予防工の計画・設計は、スイスのガイドラインをもとに、我が国の積雪データを補正して行われていますが、雪質が異なるために雪圧算定など課題も多く、また樹林の予防効果等は評価されておりません。現地計測により雪圧、グライド量データの収集、積雪特性を考慮したより効率的な設計手法の検討と予防効果の評価を目的としております。調査の概要は表−1、表−2のとおりです。

表−1 鉛直型予防柵・スノーネット計測概要
工程 道県名 計測地 施設諸元 主な計測項目
鉛直型予防柵 北海道 積丹町 柵高3m 柵に作用する雪圧(黒菱6mのみアンカー荷重)
青森 鰺ヶ沢町 柵高2.3m
秋田 稲川町(湯沢市) 柵高3.4m
山形 東根市 柵高2m
長野 白馬村 黒菱 柵高4m、6m
みそら野 柵高4m
岐阜 春日村(揖斐川町) 柵高2m
スノーネット 北海道 稚内市 ネット高2.5m アンカー・支柱荷重
長野 白馬村みそら野 ネット高4.4m
()は現在の市町名
 
表−2 樹林の雪崩予防効果に関する観測概要
県名 観測地 種別 観測項目
新潟 妙高村(妙高市)
土路
樹林地・無林地 積雪断面観測
雪圧 受圧板に作用する雪圧
積雪移動量 ・グライドメータによる計測
・計測孔による計測
長野 安曇村(松本市)
乗鞍
樹林地・無林地 同上 同上
()は現在の市町名

 表−1に示す鉛直型予防柵の雪圧計測(写真−1)については、近年の少雪の影響もあり白馬村黒菱のみで有効な計測ができました。図−1に計測された雪圧の経時的変化を示します。
 図−1によると、柵の端部・中央部ともに柵の上部ほど大きな雪圧が作用していることが分かります。
 また表−2に示す樹林帯の雪崩予防効果の評価に関する観測では、以下のことが分かりました。現地で積雪状況を確認したところ、妙高、松本ともに樹林地では樹冠からの落雪等による積雪表面の凹凸化や、融雪期の樹木周辺では輻射熱による融雪が促進されることにより、無林地と比べ雪崩発生の抑止に寄与する状況となっていました。しかし雪圧・積雪移動量計測については、受圧板に雪圧が作用しなかったことや、全層雪崩・大きなグライド移動発生等により、有効な観測ができなかったシーズンも多くありましたが、観測データによると樹林地・無林地ともに同程度の値を示しており、樹林の効果は確認できませんでした。

図−1 鉛直型予防柵(黒菱;柵高6m)の雪圧計測結果(平成11−12年冬期)
図−1 鉛直型予防柵(黒菱;柵高6m)の雪圧計測結果(平成11−12年冬期)

 今後は本研究の成果を踏まえ、鉛直型予防柵の雪圧係数設定の検討や樹林効果の集落雪崩対策への反映手法について検討する必要があります。

写真−1 雪圧計測状況(鉛直型予防柵)
写真−1 雪圧計測状況(鉛直型予防柵)

 

【18年度研究テーマ】

戦略研究−豪雪時における雪崩危険度判定手法に関する研究

  平成18年豪雪により、集落、旅館及びスキー場を雪崩が直撃する災害が頻発し、雪崩の危険から長期にわたる住民の避難及びアクセス道路寸断による孤立などが、全国で多発し社会的に大きな問題となりました。一方、雪崩災害を未然に防止する対策工事の整備は遅れており、それを補うソフト対策については危険区域の設定及び発生時期の予測手法は精度の高くありません。このため住民の避難及び交通路通行規制の判断が難しく、また広域に大豪雪が発生した場合の雪崩に対する危険箇所点検及び応急対策にあたっては、多くの課題があることが分かりました。そこで当センターでは今年度から戦略的研究として、以下の内容について調査・研究を始めています。

雪崩危険度判定手法に関する研究(イメージ図)

(1)GISを活用した斜面形状及びその時点における積雪状況等を考慮した危険区域設定手法の検討
(2)リアルタイムな気象情報などを活用した雪崩発生の危険度評価手法の検討(レーダー降水量・アメダスデータ・道路気象情報等)
(3)豪雪時の危険箇所点検手法の事例整理と点検時の状況(積雪及び降雪、斜面規模、雪崩タイプ、アクセス条件)に応じた点検手法の検討
(4)応急対策の手法の検討・提案

 この研究により従来からの雪崩発生・動態に関わる基礎的な研究とともに、現場でただち直ちに活用できる技術の開発に積極的に取り組みます。

調査例(レーザープロファイラーによる調査)


【道路雪害研究特集 No.2】
下村忠一氏顔写真

道路における雪対策の課題

はじめに
 道路の雪対策は、昭和31年に雪寒法が制定されてからであり、およそ半世紀を費やしている。その当初の雪国では、都市圏との交流は少なく雪が降れば自宅で過ごす時代でもあった。この制度が制定されて以来、それに基づく「雪寒事業」が実施され、道路整備の進行と共に冬期道路交通確保が図られ活力のある雪国へと変貌を遂てきた。しかし、近年では、少子高齢化や過疎化に伴い冬期バリアや家屋周辺等の生活空間における雪処理能力の低下など新たな課題が生じてきた。また、現状の財政状況を考えた場合、現在の水準を大幅に上回る投資は困難な状況にあり、より効率的な事業の実施を図ると共に、既存の道路等を可能な限り有効に使用するための様々な工夫を図って行く必要がある。
 これらの点を考慮し平成15年9月に雪道懇談会が開かれ雪対策の抱える問題点、今後の取り組み等について提案された。ここでは、雪対策に関する課題の概要と、雪問題を取り組む上での課題等について述べる。

写真−1
写真−1
 
写真−2
写真−2

1.新たに提案された雪対策の課題等
懇談会において7項目の課題が提案された。その概要を以下に紹介する。
1)冬期における安全なネットワーク確保
 わが国の除雪区間は数万キロに達している。これらの道路は、毎年冬になると積雪により幅員の減少や豪雪・雪崩(写真−1)などにより交通途絶が余儀なされる。このため広域的な経済活動に大きな影響を与えている。本課題では、これら道路の円滑かつ確実な交通確保を目指し検討を行うものである。
2)日常生活空間の安定した通行機能確保
 冬期において日常生活を行う上で道路の常時確保は必要である。特に、緊急車両の交通確保は重要である。これらの道路の安定した交通等の確保を目的に実施するものである。
3)雪国特有のバリアに関する課題
 歩道に雪が積もり凍結等が発生するとスリップ等により歩行者障害が発生する。特に高齢者や身体障害者等にとっては大きなバリア(写真−2)になる。平成12年に交通バリアフリー法が施行されてから、雪国でも雪国特有のバリア(冬期バリア)対策が行われるようになった。ここでは、除雪の充実、融雪施設の整備等のハード面の対策と、情報等を利用(誘導支援等)したソフト面の対策から効果的な歩行者空間確保を図るものである。
4)雪国の冬期観光や地域づくり支援
 雪国は一般に暗く辛いイメージがある。このイメージを払拭し地域の活性化を図るため、雪国の多様な文化、伝統と地域資源を利用した有効的な地域作りを行うものである。
5)気象情報等の一元化と情報提供
 気象等の情報は、道路利用者、道路管理者にとって欠かすことの出来ないものとなっている。しかし、現状では各機関が独自に実施しているケースが多く、広域的な情報を入手することは難しい。また、データが統一されていない場合が多く、利用しにくい等の問題もある。
 ここでは、これら情報を一元的に整備し、広域的で、かつ、リアルタイムな情報を入手すると共に、利用しやすい情報として充実を図るものである。
6)新しいニーズに対応した技術開発
 最近の冬期道路管理は、経済性、少子高齢化、そして環境等を考慮した検討が必要になっている。このため、より有効かつ経済的な対策を考えた場合、新しい技術の開発が重要になる。その一つに凍結防止剤の削減、融雪施設等から排出されるCO2の削減等がある。
7)冬期道路管理の効率化
 予算の抑制、少子高齢化等により労働人口の減少の中、冬期道路管理の効率化を図る必要がある。また、道路の有効利用を図るためには地域住民の協力が不可欠である。これらに対応するための課題として、下記の項目がある。
 (1)雪寒事業の評価
 (2)サービスレベルの設定
 (3)コスト縮減
 (4)アカンタビリティに関する課題

2.雪問題を解決するための基礎的な検討
 道路の雪対策に関する調査は、雪崩を始め凍結対策等の多くの課題について古くから実施してきた。しかし、雪は気象の変化等により雪質が時間と共に変化するため、現象解明には数多くのデータが必要になる。自然現象は、同じ事象を再現することは難しく、解明するためには長期化することが多い。
 これらを解決するためには(1)組織等を含めた体系的な調査研究体制の充実。(2)これら現象を把握するための有効的な機器の開発。(3)過去に実施した成果の有効利用(調査方法は殆ど変わっていないため、データの利用が可能と思われる)等の検討が必要である。

表−1 気象別による雪害の概要
表−1 気象別による雪害の概要

3.地域別による雪対策の課題
 前出の通り雪は気象等により、その性質は大きく変化する。このため、発生する雪害も様々である(表−1)。また、雪害の程度は、雪の量、道路の沿道状況、道路構造等によって異なる。たとえば、気温の低い北海道と北陸のように比較的暖かい地方と比べた場合、凍結では、その発生時間とか、種類、すべり摩擦が違うとか、積雪深が多い地方では除雪方法、その速度に差が生じる。雪崩の場合は、暖かい地方では比較的重い雪質のため、その規模、速度等に違いが生ずる。このように地域により災害現象は様々である。したがって地域ごとの調査、対策方法等の検討が必要になる。

あとがき
 道路部門で実施した雪氷調査の概要、その思い出、今後の検討課題等について三回のシリーズで紹介してきた。新潟試験所の長い歴史の中で、道路部門が実施した調査・研究は、十分とは言えないが、道路を対象にした雪氷研究の初期として、その役割は十分果たしたものと思う。
 道路と雪に関する調査は、他機関で実施されることになったが、雪は気象、地域により大きく異なる。極め細かな雪対策等を行なうためには、それぞれの地域に適した調査方法等を確立すると共に、研究体制等の充実を図り雪氷研究の発展を願うものである。

下村忠一(元新潟試験所長、現(株)アルゴス副社長、(社)雪センター技術顧問)



BACK NEXT

News Top