研究の紹介

北方海域の生物生産性を向上させる取り組み

図-1 直轄漁場整備事業実施箇所
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図-2 スケトウダラ日本海北部系群の移動経路
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図-3 湧昇のメカニズム(水産庁)
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図-4 スケトウダラを頂点とした食物連鎖

  排他的経済水域における水産資源の生産力を向上させ、水産物の安定供給の確保を図ることを目的に2007(平成19)年から直轄漁場整備事業(フロンティア漁場整備事業)が開始されました。図-1に示すように、日本海西部海域では、アカガレイ・ズワイガニを対象に保護育成礁の設置と、マイワシを対象とした湧昇流発生マウンド礁の整備が行われ、長崎県五島西方沖でもマアジ・マサバ・マイワシを対象に湧昇流発生マウンド礁の整備が行われています。

  北海道の主要な水産資源の1つにスケトウダラがあります。しかし、その漁獲量は著しく減少しており、1997(平成9)年に「海洋生物資源の保存及び管理に関する法律」に基づくTAC(Total Allowable Catch=漁獲可能量)制度の対象種に指定されて、漁獲が数量的に管理されています。図-2はスケトウダラ日本海北部系群の移動経路です。この図の成育場となる北海道留萌地域沖合に位置する武蔵堆周辺は、スケトウダラの優良な漁場として知られ、この魚種を対象とした直轄漁場整備事業の候補地として有望視されています。

  当海域における漁場整備の工法として、1)湧昇流発生マウンド礁、2)餌料培養礁、3)保護育成礁が考えられます。

  1)湧昇流発生マウンド礁は、表層の栄養塩が枯渇して基礎生産が抑制される対策として、図-3に示すように湧昇流を発生させて底層に豊富に存在する栄養塩を表層へ供給することにより、海域全体の基礎生産量を増大させることを目的とした施設です。このことにより食物連鎖を下支えする植物プランクトン(図-4)が増えるため、スケトウダラの増肉と減耗率の低下を図ることができます。なお、湧昇流発生のための流れが底層に存在することが工法選定の条件となります。2)餌料培養礁は、スケトウダラの餌となる動物プランクトン等の小型生物を増加させることで、餌料環境の改善と効率的な摂餌を可能にすることを目的とした施設です。3)保護育成礁は、スケトウダラの棲家となり、補食生物からの隠場の提供や漁獲回避により幼稚魚の保護を目的とした施設です。

  これらの工法選択と適地の選定を行い事業の基本方針を決定するために、対象魚の資源状況に加えて、漁場周辺の流れ等の物理環境、生物生息状況と餌料環境、基礎生産の周年の傾向、海底の微地形の状況等の調査研究を進めていきます。



(問い合わせ先:寒地土木研究所 水産土木チーム)