研究成果の紹介

ダム湖・湖沼等の低酸素層の改善
     〜 底層部へ酸素を供給! 〜

            

気体溶解装置の構成

気体溶解装置の構成
淡 → 濃 : 酸素濃度が高い

 比較的水深が深い湖沼や貯水池などでは、夏には表層部の水が暖められ、底層と大きな温度差が生じる事例が多数確認されています。この状態では、表層と底層の湖水の混合がほとんど起こらないため底層では酸素不足状態となり、生物の生存環境に影響を与えるだけでなく底質からの栄養塩溶出を促進するなど、湖沼環境に様々な悪影響を与えることが知られています。
 このため、酸素不足状態を改善する目的で、湖水全体を強制循環したり底層水の空気曝気を行うなどの事例がありますが、これらの手法は、湖水を大規模かつ強制的に循環させるため大きなエネルギーが必要になるとともに、下層部から上層部へ栄養塩を供給してしまう可能性があり、また、酸素供給能力が十分でないため溶存酸素濃度が容易には上昇しない等の問題を抱えています。

 本研究では、底層部のみに効率的に酸素を供給することを目標とし、水温の変化や酸素不足状態を水温計や溶存酸素センサ等によって監視しながら、純酸素により高濃度とした酸素水を底層にのみ供給するシステムを開発しました。
 ダム貯水池における実証実験によって、夏期の水温躍層を破壊することなく底層部のみへ酸素供給を実現できること、また、底層部の溶存酸素濃度を10mg/L程度ほどに回復させることができることを確認しました。また、酸素供給により底質からのリン溶出を抑制できることも明らかになりました。

 現在は、底層の貧酸素化問題を有しているダム貯水池等に本システムを適用し、現場での効果の確認や運転管理方法の検討を行っています。



(問い合わせ先 : 水質チーム)

大規模地震に対する道路擁壁の耐震設計法


軽微な被害例

大きな被害例

模型実験の様子

 擁壁とは、盛土や切土などの人工斜面や自然斜面において、土砂の崩壊を防ぎ、道路空間を確保するために設ける人工構造物です。擁壁の施工方法は様々ですが、構造の特徴に応じて『道路土工指針−擁壁工指針』により耐震設計がなされています。

 一方で、近年、大規模な地震が相つぎ、擁壁の被害により道路交通に影響を及ぼす事例も見られています。2004年新潟県中越地震による被害を例に見ると、大規模地震による擁壁の被害として、軽微なものでは、壁面の亀裂、沈下や隆起、擁壁本体のふくらみ、傾斜などが挙げられます。また、大きな被害としては、擁壁が滑って崩れたり転倒の被害が挙げられます。既存の擁壁の設計では大規模地震の影響が考慮されていない場合がほとんどであり、大規模地震に対する適切な設計法の開発が急務です。

 このような背景から、大規模地震に対する擁壁の合理的な耐震設計を確立することを目的として、擁壁の地震被害事例の整理、地震時の擁壁の変形や崩壊の様子を調べるための模型実験、地震時の擁壁の変位量や道路に生じる段差を求めるための数値分析を行いました。

 本研究の成果は近く改訂予定の『道路土工指針』に反映されますが、ポイントは以下の通りです。
(1)耐震性能と耐震性能を満足しうる道路ならびに擁壁の限界の状態の整理
(2)擁壁の現行の耐震設計法では、過大な設計となることを確認
(3)大規模地震に対して、軽微な変形や損傷などをある程度許容するような設計方法を概成
 本研究により、新しく構築する擁壁の耐震性が向上し、既設の擁壁についても必要に応じて適切に耐震診断や耐震補強がなされることが期待されます。



(問い合わせ先 : 土質・振動チーム)