研究の紹介

液状化現象とは?−メカニズムと液状化被害−


液状化の発生メカニズム


液状化による河川堤防の被害 (阿武隈川)

液状化によるマンホールの被害 (千葉県浦安市)

 平成23年3月に発生した東北地方太平洋沖地震では、震源から遠い東京湾沿岸、霞ヶ浦周辺、利根川流域等を含む広い範囲で液状化による被害が発生しました。液状化現象のメカニズムは以前から明らかとなっていますが、今回の地震によって改めて液状化現象に注目が高まっていることから、液状化とその被害の発生メカニズムについて紹介します。
 液状化のメカニズムを図とあわせて説明します。ゆるく堆積した砂がゆっくりと外乱を受けると、粒子どうしのかみ合わせが変化し、体積が縮みます。このような砂層が地下水位より深い位置にあり、砂の粒子間が水 (間隙水という) で満たされている場合、体積が縮むのと同時に間隙水が外に排出されます。ところが、地震によって短時間に何度も揺すられた場合、砂の体積が急激に縮もうとしますが、間隙水の排出が追い付きません。この場合,砂の粒子が間隙水中に浮いた状態になり、砂の強さが急激に低下し、時には砂が液体のような状態になります。ただし、地震が終われば間隙水の排出が進むので、抜けた水の分だけ地盤が沈下しますが、ほぼ元通りに安定します。これが液状化と呼ばれる現象です。地下水位より深い位置のゆるい砂層で起こりやすいことが知られています。
 東北地方太平洋沖地震による土木構造物の液状化被害の例として、河川堤防と下水道施設の被害の写真を示します。河川堤防については、液状化が生じることで、地盤が堤防の重さを支えることができなくなるため、堤防に沈下などの変形が生じます。もし、沈下によって堤防の高さが河川水位よりも低くなってしまうと、堤内地に河川水が浸入し、大きな二次災害を起こしてしまいます。また、マンホールなどの埋設物で中に空気が入っているものは、見かけの重量が小さいため、液状化が生じると浮力によって浮き上がります。マンホールなどの下水道管路に浮き上がりが起こると、下水の流下能力に支障をきたしたり、道路交通の障害になったりします。
 液状化による被害は、例えば昭和39年新潟地震、平成7年兵庫県南部地震など、これまでも数多くの地震で起こってきました。このため、土木研究所では、液状化の発生を予測する方法、液状化の影響を受ける土木構造物の対策方法に関する研究を継続的に行っています。
 現在は、東北地方太平洋沖地震による液状化被害の実態の把握、液状化発生の予測方法の検証等を行っているところです。また、今後は、これまでに研究開発を行ってきた液状化の予測技術、対策技術について、さらなる合理化を図るための研究を進めていきたいと考えています。

(問い合わせ先:土質・振動チーム)

ハタハタ産卵場造成の取組
 〜消失した産卵場を人工海藻によって機能回復〜


ハタハタ

-1 日本海側ハタハタ漁獲量の推移

写真-1 人工海藻とハタハタの卵塊


写真-2 人工海藻に産卵するハタハタ

 ハタハタは冷水性の底棲魚類で、水深150〜300mの泥や砂の海底に生息しています。沿岸水温が10℃以下になる11月頃に生殖巣が成熟して、沿岸の海藻に産卵します。一般的に産卵や稚魚の成育の場となる藻場は、この30年の間に全国で4割減少(H22水産白書)し、各地で様々な影響がでています。北海道日本海側の漁獲量は、1970年代は1,000t程度でしたが、1983年以降、急激に減少しています(図−1)。日本海側では、磯焼け現象の進行により、ハタハタの産卵場である大型海藻(ホンダワラ類)が減少したため、ハタハタの産卵環境が悪化したことが一つの原因と考えられています。
 ハタハタの産卵環境を回復するためには、@ハタハタの産卵場となる大型海藻群落の育成・増殖、Aホンダワラ類の代替として人工海藻の設置などが考えられます。@の対策は短期間では困難なため、水産土木チームではAの人工海藻に着目して研究を進めてきました。人工海藻は、@ハタハタの産卵のために海中で自立できること、A波の力に耐えられることが必要です。そこで、寒地土木研究所が所有する、海底において往復する水の流れを再現できる「任意波形振動流発生装置」を使って人工海藻を開発しました。日本海側に位置する北海道増毛町の雄冬漁港に人工海藻を設置して調査したところ、多くの産卵が確認されました(写真−1)。
 ハタハタの産卵は、産卵回遊ルートにおける水深、水温及び波浪が深く関係しています。水産土木チームでは、平成22年12月の調査でハタハタの産卵シーンの撮影に成功(写真−2)し、同時に波浪、流速、水温等のデータも取得し、産卵場の物理環境の解明に努めています。今後も現地調査を重ねてハタハタの産卵環境の研究を行うことで、他の地域における人工海藻の設置適地を提案することが可能になると考えています。

(問い合わせ先:寒地土木研究所 水産土木チーム)