研究の紹介

川から海へ流れて行く「濁質」や「砂」の研究


鵡川、沙流川の濁質流出 ALOS:2006年8月26日(JAXA提供)



鵡川河口部の干潟消失、海岸侵食 (大束ら,2008)



浮遊土砂サンプラー



ガンマー線スペクトロメーター


       

 最近、ゲリラ豪雨のように短時間に大量の雨が降ることが多くなってきています。短時間でも集中して雨が降ると、直径が数マイクロメートルといった非常に細かい土粒子である「濁質」の生産量が多くなり、写真の鵡川・沙流川のように、濁りによる河川や海への影響が懸念されます。
 これとは反対に、「砂」のような「濁質」より大きな粒のものが少なくなると、鵡川河口部の写真のとおり、干潟の消失や海岸の侵食などの問題が起きます。干潟の消失は、渡り鳥の貴重な生息地が失われることを意味し、海岸の侵食はいうまでもなく、国土の消失を意味しています。
 このように、一概に土砂が多ければ良い、少なければ良いということではなく、「濁質」や「砂」の量のバランスを取らなければ、流域や海域の適切な環境を保全することはできません。
 従来はこの検討を行うため、直径が0.1 mm程度以上の大きさの土砂だけを扱ってきましたが、実際には「濁質」のような非常に細かい土粒子の方が圧倒的に大きな割合を占めています。このような微細な土砂は、地表面が侵食されて川の中に一旦とりこまれると、一気に海まで到達し、沖合に拡散してしまいます。
 このため、微細な土砂についても、何らかの手段を使って観測する必要があります。この問題を解決するため、微細な土砂に含まれる「放射性物質」の種類や量が生産地毎に異なることを利用し、土砂が「どこで生まれ」、「川をどのように流れ」、「海にどのように堆積」するかを研究しています。
 実際には、写真の「浮遊土砂サンプラー」と呼ばれる筒状の器具を川の流れに沿って設置し、流れてくる「濁質」や「砂」を採取し、さらに、「ガンマー線スペクトロメーター」という装置を使って、採取した試料の「放射性物質」の種類と量を測定しています。


(問い合わせ先:寒地土木研究所 水環境保全チーム)

水理水質モデルの開発と緩衝林帯の機能評価


流出モデルの概念図



水質モデルの概念図



河畔緩衝林帯効果の評価手法 (仮想の流域データの作成)



河畔緩衝林帯の効果のシミュレーション結果 (流域末端の流量、濃度、負荷量)


       

 牧草地が大型の農作業機械で踏み固められると、地表面の水の浸み込み易さ(浸入能)が低下し、降雨時に表面流が発生して肥料等の水質負荷物質が河川へ流出しやすくなります。これに対し、河川沿いに浸入能の高い緩衝林帯(以下、河畔林)を配置することで河川への水質負荷物質の流出を低減させる手法があります。当研究チームでは、緩衝林帯の効果を評価するため、草地〜河畔林〜河川の降雨時の流出過程を計算する水理水質モデルを開発しました。ここでは、モデルの概要と当モデルを用いて河畔林の水質浄化効果を推測した結果を紹介します。
 まず、降雨時の水の動きを計算する流出モデルは、図−1のようにしました。解析する範囲を10mの正方格子に区切り、表面水と地下水について、各格子間の水移動を逐一計算していくものです。パラメータの設定によって、牧草地は雨が地中に浸み込み難く、逆に林地は浸み込み易いといった土地利用の特性を表現することができます。次に、雨が地表面や地中を移動していく過程での水質負荷物質の動きを計算する水質モデルは図−2にようにしました。地表の水質負荷物質は、雨の打撃により雨水に取り込まれ、さらに雨が地表を流れる時に流出します。また、低濃度ですが雨にも水質負荷物質が含まれます。これらをモデル上の発生負荷としました。発生負荷は、地表の植物等によるろ過、土壌によるろ過や吸着等によって低減されるようにしました。解析の対象とした水質項目は窒素です。窒素は適量であれば生態系に必要ですが、過剰になると、アオコの発生など水環境に悪影響を及ぼします。
 上記モデルにより、草地流域に河畔林を整備した場合の水質浄化効果を推測しました。まず、現況を基準として、河畔林を整備した場合を想定した仮想の流域データを作成します(図−3)。林帯幅は実際の事業で整備している河畔林と同程度の片側30mとしました。この2つのデータで降雨時の解析を行い、流域末端から流出する水質負荷物質の量(以下、負荷量)を比較すると、その差は河畔林の効果と考えることができます。解析の結果、河畔林が無い場合に比べて流量、濃度ともにピークが小さくなり、負荷量も大きく削減されることが明らかとなりました(図−4)。複数の流域で検証した結果、流域の規模や雨量にもよりますが、河畔林を配置することで、降雨時に流域から流出する窒素量が3〜5割程度削減されると推測されました。


(問い合わせ先:水利基盤チーム)