研究の紹介

寒冷地域における河川津波被害の防止・軽減技術に関する研究

 2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震により発生した津波は、東北地方の太平洋沿岸に大きな被害をもたらしました。この津波は、北海道沿岸域にも到達し、港湾の施設に大きな被害をもたらしました。また、太平洋、オホーツク海、日本海にそそぐ全道の河川に、津波の河川遡上が確認されています。北海道の河川は、冬期の12月下旬頃から4月上旬頃にかけて凍ります。凍った河川を結氷河川といいます。今回の津波は、北海道の結氷河川を遡上し、結氷河川の氷を破壊し、様々な現象を引き起こしました。

 一つはアイスジャムと呼ばれる現象です(上段左写真)。これは、結氷河川の氷が割れて下流で詰まり、流れをせき止める現象で、河川の水位を急激に上昇させます。比較のため、同地点における通常時の写真(上段右)を示しています。積雪等により河川巡視が困難で現状把握が容易ではない時期に、河川の水位が急激に上昇することは、河川管理上の大きな問題です。もう一つは、今回の津波により、結氷河川の氷が割れて漂流物化した大量の氷が河道内を流れ、樋門吐口水路に集積したことが報告されました(写真左下、中央下)。更に、割れた氷が樋門ゲートを閉塞させました(写真右下)。このように、氷が樋門ゲートを閉塞させることにより、樋門ゲート操作の障害となることが考えられます。

 河川結氷時の津波の発生頻度はそう多くはないものの、こうした現象の発生危険箇所の推定技術や対策技術の確立が求められています。寒地河川チームでは、このような寒冷地域における河川遡上津波被害の防止・軽減技術の確立を目的として研究を行っています。具体的には、各河川で、事前に河川結氷状況(気温と氷の厚さの関係)の観測を行い現状を把握し、結氷河川に河川遡上津波が来襲した場合の、氷の発生量を推定します。同時に、氷の移動を把握するための水理実験や計算モデルの開発を実施します。これらの研究成果を統合し、結氷河川に河川津波が来襲した場合における氷によるアイスジャム・樋門ゲート等閉塞・氷を伴う氾濫被害が起こりやすい場所を抽出し、ハード的そしてソフト的対策までを含めた対策技術について検討を進めていきます。





(問い合わせ先:寒地土木研究所 寒地河川チーム)

環境負荷低減やコスト縮減を達成する新型式ダム


図−1 台形CSGダムの特徴



写真−1 台形CSGダム施工状況
(CSG(法肩)の締固め)



写真−2 打設が完了した台形CSGダム


 ダムの型式は、大別してコンクリートダムと、岩石や土などを材料とするフィルダムがあり、地形や地質条件等を踏まえた上で、経済性や施工性を考慮して選定されます。ダム建設では材料を大量に使用しますが、経済性や環境への配慮の観点から、堤体材料を確保するための大規模な掘削を行わず、できるだけ現地発生材を有効活用するCSG(Cemented Sand and Gravel)工法をダム建設に適用した新型式のダム「台形CSGダム」が新たに導入されています。

 CSG工法は、現場近傍で容易に得られる河床砂礫や堤体の基礎となる部分の掘削で発生するズリ岩石や土砂などを、基本的に分級粒子寸法による分類や洗浄を行わず、セメント、水を添加混合した材料(CSG)を、汎用機械により施工する工法です。CSG工法をダム建設に採用することで、掘削による地形改変を少なくすること、施工ための設備を簡略することなどが可能となります。一方、堤体の断面形状が台形のダムは、一般的な重力式コンクリートダムのような直角三角形に近い断面のダムと比べて堤体断面(堤体積)が大きくなりますが、貯水や地震などにより堤体内に発生する応力を抑えることができ、堤体材料に必要な強度を小さくすることができます。台形CSGダムは、堤体の安定性が高い「台形ダム」と、容易に得られる材料を利用して簡易な設備で施工が可能な「CSG工法」を組み合わせることで、「材料」・「設計」・「施工」の合理化を同時に達成する新型式のダムです(図−1)。

 土木研究所では、国土技術政策総合研究所、(財)ダム技術センター等とともに台形CSGダムの設計・施工技術の開発に取り組んできており、台形CSGダム型式が適用されたダムの一部では既にこれまで本体型式に適用されたダムの内、2つのダムで打設が完了しています。

 台形CSGダムの設計・施工における最大の特徴は、材料の配合や強度を狭い範囲で管理するコンクリートとは異なり、材料の粒度(粒子寸法の分布)や単位水量(単位容積あたりに入れる水の量)のばらつきを許容し、その範囲の中で必要な強度が確保されるよう堤体設計や施工時の品質管理を行うことにあります。土木研究所における最近の研究としては、このような材料物性のばらつきを反映して堤体の安定性を解析的に検討する方法等により、設計・施工の更なる合理化に向けた取り組みを行ってきています。




(問い合わせ先:水工構造物チーム)