土研ニュース

【現地調査速報】静岡県浜松市天竜区春野町で発生した地すべり

 写真-1 災害発生箇所の状況
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 写真-2 茶畑の亀裂の状況
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 写真-3 記者会見で質問に答える
地すべりチーム上席研究員




  2013年(平成25年)4月23日午前4時20分頃に静岡県浜松市天竜区春野町杉門島地区において斜面が崩落し、斜面下を流れる杉川に土砂が流入しました(写真-1)。土砂管理研究グループ地すべりチームでは、静岡県の要請を受けて、2013年(平成25年)4月23日に現地調査を行いました。

  崩落した斜面の勾配は約50度で、調査時点での規模は幅約80m×長さ約90m×深さ約20m(土砂量約5万m³)でした。土砂は河道の一部をせきとめましたが、川の水は常時流下していました。斜面上部の茶畑では3月22日に亀裂の発生が確認され、3月25日から静岡県が亀裂の拡大状況の観測を開始し警戒を行っていました。その後、変位量が大きくなってきたことから、4月21日に浜松市が避難勧告を発令し、最大で6世帯24名が近くの公民館に避難しました。

  崩落した斜面の地質は、四万十帯の泥岩で、強く破砕された箇所も確認され、全体として風化が進んでいる可能性が高いと考えられます。また、斜面上部の茶畑では亀裂が連続して分布しており(写真-2)、崩落が斜面上部にさらに拡大する可能性が考えられました。

  地すべりチームでは、今後の崩落の拡大の見込みや、緊急対応等について技術的な助言を行いました。今後も引き続き技術的支援を行っていく予定です。



(問い合わせ先:地すべりチーム)

ICHARMの佐山研究員が文部科学大臣表彰(若手科学者賞)を受賞


 写真 受賞した佐山氏


  水災害・リスクマネジメント国際センター(ICHARM)水災害研究グループの佐山敬洋研究員が、平成25年度科学技術分野の文部科学大臣表彰受賞者の若手科学者賞を受賞し(写真)、2013年(平成25年)4月16日に文部科学省3階講堂において、表彰式が執り行われました。

  文部科学省では、科学技術に関する研究開発、理解増進等において顕著な成果を収めた者について、その功績を讃えることを目的として文部科学大臣表彰を定めています。その中で若手科学技術者賞は先駆的な研究、独創的視点に立った研究等、高度な研究開発能力を示す顕著な研究業績をあげた40歳未満の若手研究者に贈られるものです。

  佐山氏が受賞した研究内容は「世界の大洪水を対象にした降雨流出氾濫予測に関する研究」で、その内容は、世界各地で発生する大規模洪水を対象に、流域全体を対象にして河川流量から洪水氾濫までの現象を一体的に予測する技術「降雨流出氾濫モデル(RRIモデル)」を開発したものです。従来、山地地域からの降雨流出現象と平野部の洪水氾濫現象は、別のモデルでシミュレーションをしており、両者が複雑に関連する現象を的確かつ迅速に解析することは困難でした。これに対して佐山氏が開発した技術は流域全体で降雨流出から洪水氾濫までを一体として解析することにより、広大な流域を対象にして準リアルタイムに得られる降雨を入力して速やかに洪水氾濫を予測することを可能にしました。

  図にその応用例を示します。本事例では2011年にタイ国で発生した洪水を早い段階からシミュレーションし、下流部の洪水がその後1カ月にわたって長期化するという予測結果を得ました。この結果は、同洪水の実態を分かりやすいアニメーションで示すことに成功し(参考URL:http://www.icharm.pwri.go.jp/news/news_j/111024_thai_flood_j.html)、NHKをはじめ多くのメディアにも取り上げられました。

  一連の研究成果は社会活動に貢献しただけでなく、科学技術の発展に対して評価されたものであり、今後、この研究がさらに進展し、世界の水災害リスクの軽減に貢献することが期待されています。


 図 タイ国で発生した洪水に対する降雨流出氾濫モデル(RRIモデル)の適用例
(左:調査結果、右:解析結果)
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(問い合わせ先:研究企画課)

インドネシア共和国アンボン島ワイエラ川の天然ダムで土研式水位観測ブイ(投下型)による
観測を開始しました

 図-1 アンボン島の位置図
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 写真-1 天然ダムと下流集落の状況
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  2012年(平成24年)7月、インドネシア共和国マルク州アンボン島ワイエラ川において、深層崩壊が発生し、崩壊した大量の土砂が高さ約170m の大規模な河道閉塞(天然ダム)を形成しました。その下流には5,000人近い住民が居住し、天然ダムが決壊した場合には大量の土砂と水が一気に流れ下って甚大な被害をもたらす危険性があることから、監視による警戒避難体制の整備が急務となっていました(図-1、写真-1)。

  我が国でも、2011年(平成23年)9月の台風第12 号に伴う豪雨により、紀伊山地を中心に深層崩壊が多数発生し、複数の天然ダムが形成されましたが、土木研究所が開発した「土研式水位観測ブイ(投下型)」は近畿地方整備局によって多数設置され、その監視に活用されました。さらに、観測データをホームページに公開することで、地域住民等が天然ダムの決壊の危険性を確認することにも活用されました。

  この水位観測ブイは、水に沈めて水圧で水深を測るセンサーを備えたケージ部と、水面に浮かびデータの送信を行う衛星通信装置等を備えたブイ部からなる装置です(写真-2)。

  天然ダムの水位計はインドネシア共和国によって既に設置されていましたが、従来型の水位計はデータ通信機器等を設置しやすく陸上からアクセスしやすい場所に設置されていたため、天然ダムを形成した崩壊地の再崩落や天然ダムの決壊等による土砂流出により、機器が埋没、損壊するなど計測できなくなる可能性があります。土研式水位観測ブイは、既設の水位計とは異なりデータ通信機器等が天然ダムの湖面に浮いているため、機器の水没や損壊、流出を回避することできます。また、衛星通信を利用しているため、ほぼリアルタイムで海外の天然ダム水位を観測することができ、観測データは関係機関に送ることが可能です。

  2013年(平成25年)2月28日、土木研究所はこの水位観測ブイを海外で初めて設置しました。これまで我が国では土砂災害により道路が寸断されていたため、水位観測ブイをヘリコプターから投下していましたが、今回は車両が通行できる道路が建設されていたため、天然ダムの湖面まで水位観測ブイを運搬し、人力ボートと竹製の筏を用いて水上から設置しました(写真-3、4、5)。ブイの設置により、天然ダムの越流決壊の危険性は、土木研究所とインドネシア共和国公共事業省でほぼリアルタイムで把握することが可能となり、インドネシアの天然ダムに対する警戒避難体制の構築を支援することができました。

  今回の取り組みは、インドネシア共和国が進める監視観測の強化を支援し、さらなる警戒避難体制の整備および危機管理能力の向上につなげるとともに、一部改良した水位観測ブイを海外の天然ダムに適用して、その有効性や海外における水位観測ブイの活用の検証を行うこととしています。


                     写真-2 土研式水位観測ブイ(投下型)(クリックすると拡大します)                  写真-3 水位観測ブイの輸送


写真-4 水位観測ブイを水上から投下                            写真-5 設置された水位観測ブイ




(問い合わせ先:火山・土石流チーム)

NHK特報首都圏で構造物メンテナンス研究センター(通称:CAESAR)の取り組みが紹介!

 番組の取材風景


 自治体職員見学の様子


 撤去橋部材保管施設と番組で使用した撤去橋部材




  平成25年4月19日(金)に、NHKの番組、特報首都圏『危機は防げるか〜迫りくる“インフラ・クライシス”〜』が放映され、その番組の中でCAESARの取り組みが紹介されました。

  NHKの特報首都圏では、4年前から「高速道路 迫りくる危機」、「縮む日本 何を残し何をあきらめるか」、「縮む日本 民間がどこまで公共を担えるのか」「縮むニッポン 民活で再生へ」、「えっ ダムに水がたまらない」といったタイトルでインフラの高齢化について継続的に放送されています。

  今回の放送内容は、笹子トンネルの天井板崩落事故で危機感が高まる“老朽インフラ”について、事故後、全国で関心が高まる「インフラの点検」について取材したものとなっています。

  その中で、老朽化した橋などの診断や維持管理について研究し各自治体などに指導している機関として土木研究所「CAESAR」が紹介されました。

  CAESARでは、撤去橋などの既設橋を活用して行う調査研究の一環として、日本国内で撤去された橋梁の部材を収集し、その部材を用いた研究を実施しています。

  今回の放送では、今年1月に実施した撤去橋を用いた載荷試験の様子が紹介されました。

  この撤去橋は地方自治体より提供されたもので、撮影当日は土木研究所に撤去橋を提供していただいた自治体職員の方々が見学に来ており、載荷試験の様子や他の実験施設などを興味深く見ていただきました。

  また番組内では他にも、土木研究所内の撤去橋部材保管施設で実際に劣化した橋梁を使い、インフラの劣化を防ぐためには点検や観察などで、その予兆を早めに捉えることが重要であることを説明しています。

  放送終了後、NHKの番組ホームページには、視聴者の方から様々なご意見が寄せられてきており、インフラの老朽化問題に対する関心の高さを改めて認識させられました。(http://www.nhk.or.jp/tokuho/program/130419.html)

  CAESARでは、今後も引き続きメンテナンスに関する研究成果や最新の動向を発信していき、“老朽インフラ”による事故を未然に防ぐための現場支援を行ってまいります。



(問い合わせ先:CAESAR)

バングラデシュフォローアップセミナーの開催

 セミナーの様子


 セミナー受講証授与の様子


 元研修生とICHARMスタッフ




  ICHARMは、2013年(平成25年)2月13・14日、バングラデシュ水開発局(BWDB)と共催し、首都ダッカで土砂水理学と河川管理に関するフォローアップセミナーを開催しました。このセミナーの目的は、ICHARMの元研修生の帰国後の活動をフォローアップし、彼らとICHARMの人的ネットワークを強固にするとともに、彼らに最新の知識の学習機会を提供することであり、毎年対象国を変えながら現地機関と協力して実施しています。本セミナーには、バングラデシュ側からは、ICHARM元研修生11名を含めた22名が、ICHARM側からは、加本上席研究員、Kelly Kibler 専門研究員、Muhammad Masoodリサーチアシスタント(かつ元研修生)、および政策研究大学院大学客員教授の江頭進治氏が参加しました。

  セミナーでは、バングラデシュの河川の現状を鑑み、土砂流送過程とそれに関連した河川形態学および河川管理を主なテーマとしました。セミナー第一日目では、ICHARMやBWDBの他、現地研究機関として環境・地理情報サービスセンター(GEGIS)、水関連モデリング研究所(IWM)、バングラデシュ工科大学(BUET)、ダッカ工科大学(DUET)の方に講師としてお越しいただき、それぞれ講義をしていただきました。講義では共通して、同国河川にみられる特徴とそれにまつわる管理上の問題が取り上げられました。特に、河川毎に異なった環境に起因する問題に対処するためには、従来の河川工学の手法では不十分な場合が多く、バングラデシュの河川管理者は、河岸浸食、洪水、河道能力の維持といった問題に対して、新しい解決策を模索しており、ジャムナ川については特にその必要性が高いということを強調されていました。

  セミナー第2日目には、元研修生を交えたディスカッションを行い、ICHARMの研修を受けての感想や、その後現在の仕事にどの様にそれを活かしているかが話し合われました。元研修生は、ICHARMで受講した研修を非常に高く評価し、そこで身につけた技術を仕事に活用している例を挙げながら、意見を述べていました。また、身につけた知識を従来にはみられないやり方で活用する例についても意見を交換しました。

  ICHARMは今後もこのように元研修生に対するフォローアップ活動を行い、彼らとのネットワークの維持・拡充を通じてその活動をより充実・強化していく予定です。



(問い合わせ先:ICHARM)

アジア開発銀行との技術協力プロジェクト 最終報告書を提出

 最終報告書提出の様子
(左:Chander地域・持続的開発局長、中:魚本理事長、
右:竹内センター長)


 意見交換の様子



  2013年3月12日、ICHARMが2009年11月からアジア開発銀行(ADB)の技術協力プロジェクト(TA7276)として取り組んできたプロジェクトの最終報告書をADBに提出し、プロジェクトは無事終了しました。

  本プロジェクトは、土木研究所では初めて海外機関との連携協定の形で外部資金を得て実施してきたプロジェクトです。プロジェクトにおいては、インドネシアやバングラデシュ、メコン河下流域などの洪水が頻発する国や地域を対象とし、洪水災害への対応能力を向上させるべく、各種活動を実施しました。例えば、インドネシアにおいては、ソロ川流域でのIFAS(統合洪水解析システム(ICHARMで開発))の実践トレーニングおよび避難訓練などを通じた災害管理体制の向上、カンボジアでは衛星情報とGIS(地理情報システム)による洪水脆弱性評価を実施しました。

  最終報告書の提出式は、ADB本部(フィリピン・マニラ)で行われ、土木研究所魚本理事長とともにICHARMから竹内センター長、岡積上席研究員(TA7276チームリーダー)、宮本専門研究員、穐本事務補助員が参加しました。

  提出の際、魚本理事長から本プロジェクトを遂行することができたことについて感謝の意を伝えるとともに、竹内センター長からは、本プロジェクトによりICHARMは多くのことを学ぶことができ、その経験を今後のプロジェクトおよびICHARMの活動において有効に活かすことができることも伝えられました。ADB側からは、Chander地域・持続的開発局長からICHARMの今回の成果に関して大変感謝するとの言葉をいただき、Kimインフラ持続的開発課長からこのプロジェクトの遂行に際してADB加盟国と良好な関係を築いたことも感謝され、さらに 都市開発と水部門を担当するLeung課長からは、この経験を活用して都市計画における洪水対策に関しても支援をお願いされるなど、ADBとICHARMの協力体制を今後さらに進めていくことが確認されました。最後に魚本理事長から、このような活動は基準のように有効に形に残して後に引き継いでいくことの重要性を説明され、竹内センター長からは災害が発生する前にそのリスクを減らすことの重要性、そしてそれがICHARMが取り組むべき活動であることが伝えられました。



(問い合わせ先:ICHARM)

過去最高の来場者!科学技術週間の一般公開を行いました

 「土石流発生装置」で土砂災害を再現


 舗装に関する研究を幅広く紹介


 地震体験車で震度7を体験




  毎年4月中旬に設けられている科学技術週間に合わせて、今年も国土交通省国土技術政策総合研究所との共催で2013年(平成25年)4月19日(金)に一般公開を行いました。当日は晴天に恵まれ、この一般公開としては、記録が残る中で過去最高となる282名の方々にご来場いただきました。主な公開内容を以下にご紹介します。


○実験施設見学バスツアー

  今年のバスツアーでは、「川と土砂災害」「舗装と高速体験」「津波と維持管理」の3コースを用意し、それぞれの実験施設をご覧いただきました。その中でも来場者アンケートで人気が高かった2つの実験施設をご紹介します。

  まずは今年3月にリニューアルした「土石流発生装置」です。これは、土砂災害が発生した際、砂防ダム等の有無によって、下流にどのような影響を及ぼすかを再現した装置です。岩石を模した砂利を上流から流すと、見学者は真剣な眼差しでその様子に見入り、研究員からの解説を熱心に聞いていました。

  また、「舗装走行実験場」では、道路舗装に関して基礎研究から最新の研究まで幅広くご紹介しました。とりわけ、舗装の耐久性に関する研究のため、無人で自動走行できる荷重車の説明に、来場者も大きく頷いていました。

  その他、毎年大好評のバスでの試験走路の高速走行体験なども含め、各コースとも乗車後は大変充実された様子が伺えました。


○地震体験車

  昨年に引き続き、今年もつくば市消防本部のご協力を得て、地震体験車を使って東日本大震災クラスの揺れをはじめ、様々な強さの地震を体験していただきました。日頃の防災意識や備えを改めて確認できる貴重な機会となったようで、体験された方からは「こわかった」「体験できてよかった」等の感想が寄せられました。



  この一般公開では、多くの方が初めて来られた様子でした。土木研究所では、インフラ施設の老朽化や大規模災害への対応など、土木技術全般における関心が次第に高まりつつある中で、より多くの方々に研究や活動を知っていただきたいと考えております。

  皆様からの声をもとに、今後もよりわかりやすく、そしてためになる公開を行ってまいります。職員一同、心よりお待ちしております。



(問い合わせ先:総務課)