研究成果の紹介

「地すべり線の形状推定法」の刊行


図-1  書籍




図-2  地すべり線の形状推定法のイメージ
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地すべり線とは?

  地すべりは、山の斜面が土塊となって斜面の下方に移動する現象です。地すべりは、斜面内に「すべり面」ができることによって動き出すと考えられています。地すべりの動き方や、地すべりの規模はすべり面の形状によって変わりますので、地すべりの対策をする上で、すべり面を予め把握しておくことは非常に重要です。

  地すべりの長さや幅は、地表に現れる亀裂などの分布から把握しますが、すべり面は、地下で生じている現象であるため、地表からは目で直接確認できません。そのため、対策を検討する際にはボーリング調査などですべり面の位置を確認し、その結果からすべり面の形状を推定します。ボーリングによる調査は、確実ではあるものの実施には日数がかかります。しかしながら、応急的な対策を行うにはすべり面の迅速な推定が求められます。

  このような背景から、土木研究所と民間企業6社では、地表面の変位計測データからすべり面の形状を安全かつ迅速に推定する方法の研究・開発を共同で進めてきました。今回開発した方法は、複数箇所の地表面の変形を計測することで地すべりのすべり面を推定するものです。なお、この方法は2次元で計算を行いますので、すべり面ではなく、「地すべり線」と呼んでいます。


本書の特徴

  本書は共同研究の成果をとりまとめたもので、地すべり線の算出方法や地すべり線推定プログラムの解説のほか、地表面変位の計測方法などについて事例を示しながら解説しています。


すべり線推定プログラム

  地すべり線を推定するプログラムは、下記のウェブサイトにおいて公開しています。

  http://www.pwri.go.jp/team/landslide/kanrisya/slideline/suberisen_suitei.htm



(問い合わせ先:地すべりチーム)

杭付落石防護擁壁工の開発


図-1  落石防護工の例
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図-2  重力式落石防護擁壁工の施工法
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図-3  杭付落石防護擁壁工の概念図
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写真-1  現地施工状況


技術開発の背景

  我が国では、集中豪雨や地震などに伴う土石流、地すべり、がけ崩れなどの斜面災害が、過去10年間(平成14〜23年)の年平均で約1,000件以上発生しており、多大な被害が生じています(国土交通白書2012より)。

  斜面災害の一つである落石災害に対する対策工には、図-1に示すような落石防護工(落石覆工や落石防護擁壁工等)があります。落石防護擁壁工は、斜面より落下する落石を阻止するために斜面中腹あるいは斜面下部(法尻)に設置される構造物です。

  落石防護擁壁工の設置地点において、図-2(a)のように良好な地盤(支持層)が浅い場合、経済性などからも無筋コンクリート製の重力式擁壁工が広く用いられています。重力式擁壁工では、地盤が軟弱で、そのままでは構造物を安全に支えることができないような場合、その地盤を良好な材料で置き換えること(置換工)が必要になります。

  ここで、支持層が深くなると、その置換工が大規模になり、現道交通確保等のための仮設工規模も大きくなるとともに、置き換え工の施工に伴う斜面法尻の掘削により斜面崩壊の誘発が懸念される場合があることから、その対策技術が求められていました。


開発技術の概要

  上記のような課題に対応するため、@鋼管杭基礎、A杭頭部を結合する鉄筋コンクリート構造(RC擁壁)及び、B鉄筋コンクリート(RC)板+発泡スチロール(EPS)材を組み合わせた二層緩衝構造から構成される「杭付落石防護擁壁工」を開発し、当所実験場における実規模実験や衝撃応答解析等によりその耐衝撃性能を検証し、設計施工法を提案しました。

  本工法の適用には、以下の三つの効果があげられます。

@  土工量の減少

A  施工時の安全性確保及び現道交通の確保を目的とした仮設工の縮小による工費・工期の縮減

B  斜面法尻を大きく掘削しないことによる施工時の安全性の確保

  本工法は、良好な支持層までの深さが概ね3m以上の場合、従来工法との比較検討にて優位となる傾向にあることを確認しています。



(問い合わせ先:寒地土木研究所  寒地構造チーム)