研究の紹介

下水処理における未規制化学物質の除去特性

写真-1 下水処理実験プラント

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写真-2 下水処理場における調査風景

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図-1 流入水の量を100%とした

場合の各処理水・汚泥の割合

(*:NP換算濃度で算出)

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図-2 各処理方式の処理場における流入下水と

放流水のLAS濃度

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  土木研究所水質チームでは、下水処理における未規制化学物質の除去特性に関する調査・研究を行っています。

  近年、水生生物の保全を目的とした環境基準項目として、「ノニルフェノール」(以下「NP」という)、「直鎖アルキルベンゼンスルホン酸及びその塩」(以下「LAS」という)の2物質が追加されました。NPは工業用の界面活性剤、殺虫剤、殺菌剤、防カビ剤などとして、またLASは家庭用合成洗剤、農薬用乳化剤、クリーニング洗浄剤などとして使用される物質で、私たちの生活にも比較的身近な物質です。NP、LASについては排水規制の設定が予想されますが、下水処理場は排水規制の対象となることから、こうした物質は、一般的な下水処理による除去特性の把握が重要となります。このため水質チームでは、実験プラント(写真-1)を用いた挙動把握実験や下水処理場における実態調査(写真-2)を実施しています。下水処理実験プラントは、実際の下水処理場に設置し、実下水を用いた実験が行なえるため有用なデータを取得することができます。

  NPは、界面活性剤のノニルフェノールポリエトキシレート(NPnEO)が好気条件下で生物分解し、エトキシ鎖の短いノニルフェノールエトキシレート(NP1EO、NP2EO)やエトキシ鎖の短いノニルフェノールエトキシ酢酸(NP1EC、NP2EC)になり、その後、嫌気条件下の汚泥処理によりNPとなることが知られています。このためNPの調査ではNPEO、NPECもあわせて調査することが重要です。水質チームでは、下水処理実験装置を用いて処理プロセスにおけるNP類(NP、NPEO、NPEC)の挙動調査を行いました(図-1参照)。最初沈殿池ではNP類の除去はみられませんが、二次処理水では約32%に減少しており、活性汚泥処理により約68%除去されることが分かりました。

  また、国内の種々の処理方式の下水処理場(16箇所)において、LASの除去特性についても調査を行ないました(図-2参照)。処理方式別のLAS除去率は、標準活性汚泥法(標準)は99%以上、その他の好気性条件下で生物膜と下水の接触により下水を処理する方法(回転、礫間、好気、接触、散水)では87%以上となり、標準活性汚泥法を含め好気性の微生物を利用した処理方式の処理場では高い除去率が確認されました。ただし、嫌気好気ろ床法(嫌気)と呼ばれるタイプの処理法では81%と、除去率が少し低くなる傾向が見られました。

  水質チームでは、これら排水規制の設定が予想される物質の他、近年、水生生物などに影響を与える可能性が指摘されている医薬品などについても調査・研究対象とし、同様の調査を行なっているところです。

   

(問い合わせ先 : 水質チーム)

ダム貯水池における濁水発生現象解明のための小型無人航空機(UAV)を用いた現地調査

図-1 鶴田ダム現地調査(目視調査)における濁水発生状況

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図-2 小型無人航空機(UAV)

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図-3 鶴田ダム現地調査(UAV調査)における濁水発生状況

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1.はじめに

  ダム貯水池において、出水や堆砂の移動・水位低下などの現象による貯水池の懸濁化及び濁水放流が懸念されています。

  そこで水理チームでは、ダムによる環境影響への懸念から貯水池における濁水発生現象解明及びその対策について研究を進めています。

2.UAVを用いた濁水発生状況調査

  水理チームではこの濁水発生の現象解明のため、これまで貯水池周辺からの目視による現地調査を行ってきましたが(図-1)、ダム貯水池は場所によっては人が近づくことができず、ダム貯水池内の現象を詳細にとらえることができませんでした。そのため、小型無人航空機(UAV)を使用することとし、鹿児島県の鶴田ダム貯水池をフィールドとして調査しました(図-2)。

  鶴田ダムでは、再開発工事を行う際に、ダム貯水池の水位を低下させる必要があります。毎年10月頃に一日に約1m水位を低下させており、この水位低下では、堆積土砂の巻き上げ・再侵食によって濁水が発生することを確認しています。したがってUAVを用いて貯水池内の状況を広範囲にわたる撮影により、水位低下時の濁水の発生状況を調査しました。調査の結果、目視調査では確認できない場所において濁水が発生している様子をとらえることができ、濁水発生の仕組みの解明に役に立つ情報を入手することができました(図-3)。

3.UAVを用いた現地調査について

  UAVは、ダム近傍の急峻な地形条件では、GPSが衛星を捕捉できない地点があることや気象条件によって機体の姿勢が安定しないなどの欠点もありますが、航空機やヘリコプターを用いた空撮に比べると安価であるとともに、手元に機材があればその場でリアルタイムの空撮映像を入手することができます。今回の調査のように刻一刻と状況が変化する水理現象を調査するのに非常に適しています。

  さらに、比較的容易にダムサイト上下流の河道状況も現地調査ができるので、ダム築造前後の河道全体の変化や対象とする区域を限定した堆砂状況等さまざまな調査に適用可能です。今後も安全面に十分配慮し活用していきたいと考えています。


(問い合わせ先 : 水理チーム)

神城断層周辺の地表地震断層調査

写真1 道路や水田面を変位させる地表地震断層

(白馬村塩島;赤点線部)

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写真2 小さな崖地形に一致する場所で

生じた断層変位(白馬村大出)


写真3 河川の護岸を横断する地表地震断層

(白馬村飯田;赤矢印部、護岸横断部より手前側では

河床部に地表地震断層が出現したため左右岸の距離が短縮)

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図1 調査によって確認された地表変位箇所

(地理院地図(都市圏活断層図)上に表示)

都市圏活断層図の凡例は

http://www.gsi.go.jp/common/000084060.pdfを参照。

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  地球の表層(地殻)には、プレートの衝突などの様々な原因でひずみが蓄積しています。そしてひずみが解消する際に、地下深くの断層が動くと同時に地震が発生します。そして地震の規模が大きい場合には断層が地表に達します。

  地震に対する土木構造物への影響として、地震動による破壊と断層変位による破壊が考えられます。地震動による破壊に対しては、構造物の耐震設計で対応することになっており、また断層変位による破壊に対しては、ダム等の重要構造物の建設に当たって活断層(過去に繰り返し活動し、今後も活動すると考えられる断層)の位置を調査した上で、これを避けることで対応しています。

  地質チームでは、活断層の位置の調査精度を向上させるため、地震発生時に変位が生じたことが明らかな断層(地表地震断層)と空中写真判読による活断層位置の推定結果との関係を分析し、空中写真による活断層位置の推定に当たっての留意点をとりまとめる予定です。

  平成26(2014)年11月22日、長野県北部の地震(マグニチュード 6.7、最大震度6弱)が発生しました。信州大学などの調査により、既知の活断層である神城断層の周辺で地表地震断層が見いだされたとの情報があったことから、地表地震断層の位置と地形との関係を確認する目的で11月26-28日および12月4日に現地調査を行いました。

  調査の結果、地表地震断層は長野県白馬村塩島集落の東方にある城山のさらに東 300m付近より、堀之内集落の西方100m付近までの7km余りに渡り断続的に確認することができました(図1)。地表地震断層は一般に北北東-南南西方向で東側隆起の逆断層(地盤の圧縮によってできる)で、最大鉛直変位量は約90cm(塩島付近;写真1)でした。

  大出付近(写真2)および堀之内付近では、地震前から存在した小崖にほぼ一致する場所で地表地震断層が生じました。一方、河川の堆積や浸食の影響で元々神城断層の位置推定精度が低いと考えられていた塩島付近および大出の南から堀之内の北までの間では、平坦な地形の中や河川の中(たとえば写真3)に地表地震断層が生じました。

  調査結果は今後、活断層位置の推定精度向上のための研究に役立てる予定です。


(問い合わせ先 : 地質チーム)

安心安全なラウンドアバウトの積雪寒冷地への導入に向けて

図-1 RABの模式図と日本国内に導入された

RAB(長野県飯田市)

    

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写真-1 RABにおける走行実験の状況

(苫小牧寒地試験道路)

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1. ラウンドアバウト研究の目的

  ラウンドアバウト(Roundabout、以下RABとします)は、『環道』と呼ばれる道路を通行する車両に優先権がある円形の交差点で(図-1 上段)、信号機を必要としないため災害で電力供給が途絶えても機能します。また、交差点への進入速度が抑制されることや、環道の交通流が一方通行で正面衝突が生じ得ないなどの理由から、これまでの平面交差点と比べて安全性、走行性が優れているといわれています。特に死亡事故のような重大な交通事故を抑制する効果が大きく、欧米諸国を中心に30年程前から盛んに導入されるようになりました。

  最近、国内でも本州の比較的暖かい地域で設置され始めましたが(図-1 下段)、雪が多く寒冷な地域(積雪寒冷地)での導入実績はなく、研究事例も少ないのが現状です。そこで、寒地交通チームでは寒地機械技術チームと連携して、RABの構造規格や冬期における走行性と安全性の評価や機能を維持するための管理方法などに関する研究を行っています。

   

2. 冬期における走行性と安全性評価

  寒地交通チームで行っている研究の一部を紹介します。RABを積雪寒冷地に導入するためには、冬期路面における走行性、安全性の検証が不可欠となります。そこで、寒地交通チームは当研究所が所有している苫小牧寒地試験道路に実験用のRABを設置して、一般的な乗用車やセミトレーラーなどの大型車の走行実験を実施しています(写真-1)。この模擬RABと実際の道路の十字交差点を対象に、ドライバーである被験者による実験車両(普通乗用車)を用いた走行実験により、乾燥路面条件と圧雪路面条件での比較を行いました。その結果、走行中の被験者と実験車両から得られた様々な運転行動データから、RABは圧雪路面状態でも十字交差点と比べて安全確認がしやすく、さらに、RABの構造的な特徴による走行速度の抑制効果が発揮されることから、安全性が高い交差点形式であることがわかりました。

  この他にも、海外の先進事例についての調査や、他の研究機関とも協働して、災害の多い日本の国土に適合した安全安心なラウンドアバウトの基準を策定するために日々研究を行っています。今後は、夜間や吹雪時のような視界が悪い条件を考慮した走行実験等を行い、走行性と安全性を評価するための研究を推進していく予定です。


(問い合わせ先 : 寒地土木研究所 寒地交通チーム)