研究成果の紹介

Webマガジン 「フィルダムの変位計測に関するGPS利用マニュアル」の発行について


図-1 フィルダムGPS利用マニュアル



 図-2 GPSを利用したフィルダム堤体表面の変位量計測



写真-1 堤体表面の可動標的基礎に設置したGPSセンサー


  平成26年12月に一般社団法人ダム工学会より、「フィルダム(∗)の変位計測に関するGPS利用マニュアル」(以下、フィルダムGPS利用マニュアル、図-1が発行されました)。フィルダムGPS利用マニュアルは、一般社団法人ダム工学会の調査研究委員会に設けられた計測管理研究部会(部会長:土木研究所山口嘉一地質研究監)で作成しました。水工構造物チームでは、ダムの安全管理に関する研究の一環として、GPSを用いたダムの変位計測に関する研究に取り組み、計測結果の評価手法やGPSの導入位置選定の方法について多くの知見を得ています。そのため、フィルダムGPS利用マニュアル作成にあたり、水工構造物チームから小堀研究員が計測管理研究部会の幹事として参加し、その作成に深く関与しました。

  従来、フィルダムの堤体表面の変位計測による安全管理については、現在は人の手による測量により行われていますが、この測量による計測の煩雑さや、人件費が負担となっている場合があります。また,地震などの非常時における臨時点検においては、被災地での測量作業員の確保が困難であるうえ、非常時に堤体表面の変位計測を行うことは作業員に危険がともないます。そのため、フィルダムの堤体表面の変位を安全にかつ迅速に計測することが望まれています。

  これらの課題を解決する一つの手段として、近年、GPS(図-2、写真-1)を用いた変位計測に関する安全管理が積極的に進められています。GPSを導入し効率的に期待した効果を得るためには、GPSの適切な設置、点検、計測結果の評価、計器の維持管理などが重要になりますが、現在はそれぞれのダムで対応しています。また、今後、GPSを用いた変位計測システムのダムへの導入が増えることが予想され、計測にかけるコストの観点からGPS変位計測技術の効率的かつ効果的な適用が必要になってくると考えられます。

  GPSを用いた変位計測技術をダムに適用し、安全管理が適切に実施できるツールとして明確に位置付けるためには、GPSの計器開発技術、設置方法に関する技術、ダムの安全性評価に必要な精度を踏まえた計測結果の評価技術などを有機的に融合する必要があります。このため、フィルダムGPS利用マニュアルでは、今後のダムの安全管理におけるGPS導入をより円滑に行うとともに、その効果を最大限に発揮するため、GPSセンサーの計測位置の選定方法、設置方法、設置から運用、維持管理に関わる具体的な課題を抽出し、適切な対応方針をとりまとめています。フィルダムGPS利用マニュアルを参考に、多くのダムへのGPSの導入が積極的に推進され、結果としてダムの安全管理の高度化・合理化が進むことが期待されます。

  なお、フィルダムGPS利用マニュアルは、ダム工学会のホームページから購入することができます。下記のアドレスからダウンロードできる申込み用紙にご記入の上、お申込みください。


  http://www.jsde.jp/kenkyu/keisoku_GPS_kounyuu.html


  (∗)フィルダム:コンクリートではなく、岩石や土砂を用いて築堤したダムの総称です。


(問い合わせ先 : 水工構造物チーム)

新型凍結抑制舗装を開発する

    図-1 凍結抑制舗装の雪氷破壊イメージ



  冬期の道路における交通安全確保のために多種多様な凍結抑制舗装が開発されています。しかし、路面凍結抑制や除雪圧雪補助または路面に付着した圧雪を剥がす効果等は限られた場所や条件でしか発揮されておらず,効果の持続性や耐久性にも課題がありました。

  そこで、(国研)土木研究所と大林道路(株)及び大成ロテック(株)は、共同研究を行い冬期路面対策や凍結抑制機能を効率的で効果的に発揮できる「新たな凍結抑制舗装」を2種類開発しました。

  土木研究所と大林道路が開発した「粗面型ゴム粒子入り凍結抑制舗装(アイストッパーR)」は、粗面型の砕石マスチック舗装にゴム粒子を混合し、舗装表面にも散布接着させることにより、路面と雪氷の接着を防ぐとともに、車輌の交通荷重によって雪氷を破砕し、凍結を抑制します(図-2参照)。既に富山県の国道8号、新潟県の18号、香川県の377号等の実際の道路で使用されています。

  土木研究所と大成ロテックと大林道路が開発した「ゴムチップ混入型凍結抑制舗装(アイスクラッシュペイブ)」は、舗装表面および舗装体内に弾性の高いゴムチップを混入することにより路面の局所的なたわみ性を向上させ、車輌の交通荷重によって雪氷を破砕し、凍結を抑制します(図-3参照)。既に新潟県の18号等の実際の道路で使用されています。


            図-2 粗面型ゴム粒子入り凍結抑制舗装(アイストッパー)                   図-3 ゴムチップ混入型凍結抑制舗装(アイスクラッシュペイブ)


  写真-1と2に示すように冬期路面において、一般舗装は凍結していますが両凍結抑制舗装とも凍結していないのが分かります。


                     写真-1 凍結抑制効果(アイストッパー)                                                写真-2 凍結抑制効果(アイスクラッシュペイブ)

    

(問い合わせ先 : 舗装チーム)

「北海道における冬期土工の手引き(道路編)(河川編)」を公表

  写真-1 冬期施工による盛土の変状事例

    

  図-1 盛土における凍上の発生メカニズム

(画像をクリックすると拡大します)


写真-2 土中にできたアイスレンズ


1.北海道における冬期土工の現状について

  北海道などの積雪寒冷地において、土工、特に盛土の冬期施工は、外気温の低下、土の凍結・凍上、雪の混入、日照時間の減少など厳しい施工環境でおこなわれることになり、盛土などの土構造物の品質に影響を及ぼすことがあります。

  しかし、河川工事では非出水期である冬期に築堤工事や樋門の改築工事を行う場合があり、道路工事においても施工時期の制約、災害復旧、早期供用等のために、冬期における施工が必要になる場合があります。さらに、安定した雇用の観点からも、工事の季節的な偏りを解消していく必要があります。


2.「北海道における冬期土工の手引き(道路編)(河川編)」について

  このような状況から、適切な冬期施工のあり方を検討することを目的として、国土交通省北海道開発局、一般社団法人北海道建設業協会、及び土木研究所寒地土木研究所の3者で、平成22年9月に「冬期の河川・道路工事における施工の適正化検討会」を設立しました。

  検討会では、最も課題の多かった土工部門に着目して、凍上(∗)被害などの冬期土工の問題点・対策方法など、現場技術者が冬期に盛土を行う際に必要な考え方をとりまとめ、平成27年2月に「積雪寒冷地における冬期土工の手引き」【河川編】・【道路編】(以降手引き)として作成しました。


   

 手引きの構成は以下のとおりです。

   

  1  概説

  2  冬期盛土に影響を与える要因

  3  冬期盛土の検討

  4  材料

  5  設計

  6  施工管理

  7  冬期盛土の対策例


3.入手の方法

  本手引きは、ホームページのWebサイト(http://jiban.ceri.go.jp/)からダウンロードできます。是非ご活用ください。

  (∗)凍上の詳細については、バックナンバーVol.30「研究の紹介-寒冷地の道路のり面の凍上対策」をご覧下さい。


(問い合わせ先 : 寒地土木研究所 寒地地盤チーム)