研究成果の紹介

自然由来重金属類を含有する浸出水の植物浄化手法に関する研究


図-1  ファイトレメディエーションの概要(榊原,2015)

研究の背景と目的

  土木工事で地盤が掘削されると、岩石や土砂からなる建設発生土が発生します。その中には、ヒ素やセレン等の自然由来重金属類が含まれる場合があります。これらの建設発生土が仮置きされ、屋外で降雨等にさらされると、重金属類を含む浸出水が発生します。このような浸出水を浄化する技術のひとつとして、ファイトレメディエーションと呼ばれる植物を用いた環境修復技術が着目されています。

  この技術は、植物が気孔や根から水分や養分を吸収する能力を利用して、土壌や地下水から、重金属等の有害物質を吸収、分解する技術です(図-1)。しかし、植物の浄化機能を活用した重金属の対策は、土木事業での適用例が少なく、実用的な対策手法として未だ確立されていません。

  そこで、本研究では、カヤツリグサ科ハリイ属マツバイ(Eleocharis acicularis)を用いて、建設発生土からの浸出水に含まれる自然由来重金属類の浄化方法について研究しています。




写真-1  貯水槽での浄化実験


図-2  セレン濃度の変化



研究成果の概要

  カヤツリグサ科ハリイ属マツバイは、北海道から沖縄まで全国各地の池、ため池、水田などに群生する多年草の植物で、根を増やすことで繁殖します。マツバイは、多種類の重金属類に対して耐性があり、多種類の重金属類を同時に吸収できます。これらを貯水槽に敷設し、浄化実験を実施しました。

  マツバイを、空のペットボトルを装着したプラスティックコンテナに入れ、それを貯水槽に浮かせて栽培しました(写真-1)。その結果、建設発生土からの浸出水のセレン濃度を低減させることができました(図-2)。この他、人工水路の実験でも浸出水中のヒ素濃度の低下やマツバイへの吸収を確認しています。

  今後は、気象条件や、浸出水の供給条件等の違いにおけるマツバイの浄化効果や適用性について調査研究を進める予定です。


(問い合わせ先 : 寒地土木研究所 防災地質チーム)

札内川における河道内樹林化の効率的な抑制技術

  近年、多くの河川では、河道内の著しい樹林繁茂が治水や環境の面で深刻な問題となっています。低水路内の砂州が頻繁に攪乱されていれば、植生が実生や稚樹のうちに流出するなどして樹林化しにくいのですが、砂州が一度樹林で覆われると、その砂州を避けるように一部の狭い範囲に流れが集中する細い流路となり、その位置も固定します。また、砂州の位置も固定化してしまうため、さらに樹林繁茂が進行することになります。

  北海道の十勝川水系の札内川においても、写真-1に見られるように樹林化により近年急速に礫河原が減少し、ケショウヤナギやチドリ類、セグロセキレイなどの礫河原を生息場所とする動植物の生息環境の悪化が懸念されています。


写真-1  樹林化と流路固定化(札内川)


  このような札内川の課題に対して、本研究所では、流路の固定化を効率的に抑制する技術に関する研究を実施しています。札内川を対象とした研究成果の主な内容は次のとおりです。


  ・礫河原再生の取り組みとして平成24年度より札内川ダムからのフラッシュ放流が実施されています。本研究では、放流時の現地観測より流況特性を把握し、放流の効果を検証しています。


写真-2 ダムからのフラッシュ放流時の流況観測


  ・札内川の河道形状の特性を調査したところ、砂州上に存在していた派川(旧流路)の多くが閉塞し、砂州が攪乱されずに固定化したことが樹林域拡大の要因の一つだということがわかりました。そこで、河道形状の特性と放流時の流況特性を把握した上で、既に閉塞した旧流路への分岐流を効率的に回復させるために適した掘削箇所の選定手法について提案しています。また、現地試験によりその有効性を確認しています。



写真-3 掘削による旧流路への分岐流の回復


  礫河原再生に向けた技術的な検討を実施している「札内川技術検討会」(事務局、北海道開発局帯広開発建設部治水課)において、本研究の成果を反映させた技術的提案や助言を行っており、現在、この検討会を通して札内川自然再生(礫河原再生)事業に活用されているところです。


(問い合わせ先 : 寒地土木研究所 寒地河川チーム)

新しい路側設置型防雪柵の開発


図-1  吹き払い柵の下部間隙が閉塞した時の課題


写真-1  新型路側設置型防雪柵


図-2  新型路側設置型防雪柵の特徴

  現在、積雪寒冷地における吹雪対策として、路側に設置可能な吹き払い柵が多く用いられています。しかし、吹き払い柵は風が柵に対して斜めから入射した場合や、積雪により下部間隙が閉塞した場合に、防雪効果が低下することが明らかとなっていました(図-1)。

  そこで寒地土木研究所では、従来の吹き払い柵と同様に路側に設置可能で、かつ風が斜めから入射する場合や下部間隙の閉塞時においても、粘り強く防雪効果を保持できる新しい路側設置型防雪柵を開発しました。(特許番号:5610251)


  路側設置型防雪柵は凹凸状に加工した縦長の防雪板を横方向に隙間無く据え付けた防雪柵です(写真-1)。傾斜した防雪板で風の流れを下向きに変え、視程障害を緩和します。同時に、高さ1m程度の下部間隙から吹き出す強風により道路上の雪を吹き払います。


  路側設置型防雪柵は以下のような特徴があります(図-2)。

①  下部間隙閉塞時には柵風上側に吹雪粒子を捕捉して、道路上の吹きだまり形成を抑制します。

②  凹凸状防雪板の採用により、斜めから入射した風を下方向に誘導し、吹き払い機能を保持します。

③  防雪板を支柱から離して設置するため下部間隙の機械除雪が可能です。


  石狩吹雪実験場における実スケールの現地実験では、従来の吹き払い柵に比べて路側設置型防雪柵の防雪効果が高いことを確認しました。現在、民間への技術移転をすすめているところです。


(問い合わせ先 : 寒地土木研究所 雪氷チーム)