研究の紹介

豪雨災害に強い堤防づくり

図-1  堤防の壊れ方
図-1  堤防の壊れ方

写真-1  平成27年9月の豪雨による渋井川(宮城県)の浸透破壊(破壊の大きな箇所では決壊も発生)
写真-1  平成27年9月の豪雨による
渋井川(宮城県)の浸透破壊
(破壊の大きな箇所では決壊も発生)


写真-2  浸透破壊に関する大型模型実験の様子
写真-2  浸透破壊に関する大型模型実験の様子

  最近、台風や集中豪雨などの発生により、堤防の大きな被害が発生しています。平成27年9月の関東・東北豪雨における鬼怒川の洪水などは記憶に新しいところです。このような河川の氾濫を防ぐための堤防の強化が大きな課題となっています。

  河川の堤防は、川の両側に下流から上流まで非常に長い延長にわたり構築されています。現在、日本には国、都道府県、政令市が管理している堤防が約7万3千kmもあります(地球1周が約4万km)。このように長い延長の堤防を一度に強化することはとても大変ですので、しっかり点検をして、強化が必要な堤防を的確に調査して、優先順位をつけて効率的に堤防を強化していくことが大事です。


  河川の堤防の壊れ方には、大きく分けて3種類あります。河川の水位が堤防の高さを超えて堤防の外へ河川の水が流れ出してしまう「越水」、河川の水が堤防の土砂を洗い流してしまう「侵食」、堤防の内部や堤防の下の地盤に水が浸透して堤防自体が弱くなり破壊する「浸透破壊」です(図-1及び写真-1参照)。


  土木研究所の盛土実験施設には、大きな堤防の模型に豪雨を降らせるための装置や、河川の水位が上昇したことを模擬することができる実験装置などがあります。このような大きな実験施設で実物に近いサイズの堤防模型を使ったさまざまな実験を通じて、堤防の壊れ方のしくみや、いかに効率的に堤防を強化できるかなどについて研究をしています。


  右の写真-2は、現状ではしくみが十分にわかっていない浸透破壊の実験を行ったときの様子です。高さ3m、幅6m、長さ6.5mの堤防模型を作成し、河川の水位の上昇を模擬して給水槽の水位を上昇させると、堤防の足元の部分(のり尻といいます)が泥のように軟弱になり、しだいに亀裂が入るようになり、少しずつ堤防の高い方(天端)に向かって破壊が進んでいきます。このような実験により、堤防の浸透破壊のしくみを調べました。今後は、このような浸透破壊も考慮した適切な堤防の設計法や、浸透破壊を防ぐ方法について研究を進め、より効率的な豪雨災害に強い堤防づくりを目指します。


(問い合わせ先 : 地質・地盤研究グループ 土質・振動チーム)

RRIモデルを活用した地区ごとの新たな洪水リスク評価手法  -「洪水カルテ」と「洪水ホットスポット」-

表-1  地区ごとの洪水脆弱性評価における8つの評価軸
表-1  地区ごとの洪水脆弱性評価に
おける8つの評価軸


表-2  「洪水カルテ」作成例(谷沢地区)
表-2  「洪水カルテ」作成例(谷沢地区)

図-1  各地区の総合得点分類(赤色の地区が「洪水ホットスポット」)
図-1  各地区の総合得点分類
(赤色の地区が「洪水ホットスポット」)


写真-1  区長の皆さんや阿賀町防災担当者との意見交換会
写真-1  区長の皆さんや阿賀町防災担当者との
意見交換会


  ICHARMでは、ICHARMで開発した降雨流出氾濫モデル(以下「RRIモデル」という)を用いて、様々な洪水リスク解析やリスクマネジメント手法に関する研究を実施しています。

  その一環として平成26年度から、阿賀野川中流域に位置する新潟県阿賀町を対象に、中山間地の自治体による効果的・効率的な防災活動を支援するために、RRIモデルを活用した新たな洪水リスク評価手法およびリスク軽減手法に関する研究を行っています。

  具体的には、阿賀町の20地区を対象に、過去に洪水を引き起こした降雨パターンや想定最大外力相当降雨となる降雨パターンなど複数の洪水外力パターンを設定し、RRIモデルで氾濫解析を行いました。この結果をもとに、各地区の洪水脆弱性を、最大浸水深や湛水期間、交通途絶、浸水最大孤立者数など8つの評価軸で評価し、表-1のように設定した閾値を用いてランク評価し、外力ごとにリスク小計値として得点化しました。この表が、各地区において各外力に対する各評価軸での評価結果を表す「洪水カルテ」となります(表-2)。

  そして、リスク小計値をさらに合計して総合得点を算出し、総合得点値をもとに20地区を分類しました。この結果、特に得点の高い地区を「洪水ホットスポット」として抽出しました(図-1)。

  本研究で提案するこの洪水リスク評価手法では、その地区がどのような種類の洪水外力に対し、どのような観点で脆弱かを明らかにすることが出来るため、洪水危険度診断の意味を込めて「洪水カルテ」という名称を用いています。この「洪水カルテ」の診断結果を用いれば、「洪水ホットスポット」の特定だけでなく、各地区の洪水特性に応じた地区防災計画の立案に役立たせることができます。

  本研究は阿賀町の防災担当者や各区長、および新潟県や国土交通省との意見交換を行いながら進めています。2017年3月には、「洪水ホットスポット」とされた地区の区長の皆さんと阿賀町防災担当者を交えた意見交換会を実施し、結果が妥当であることを確認しました(写真-1)。今後は、「洪水カルテ」による各地区の洪水リスク評価結果を各地区の地区防災計画立案に生かす取り組みや、予測降雨を用いたリアルタイム氾濫解析の結果活用に関する研究を実施する予定です。


(問い合わせ先 : 水災害・リスクマネジメント国際センター(ICHARM))

非塩化物系の凍結防止剤の開発に関する研究

写真-1  プロピオン酸ナトリウム
写真-1  プロピオン酸ナトリウム

図-1  融氷特性試験結果の一例
図-1  融氷特性試験結果の一例

図-2  金属腐食性試験結果
図-2  金属腐食性試験結果

写真-2  栽培試験結果の一例
写真-2  栽培試験結果の一例

  積雪寒冷地域では、安全で安心な冬期の道路交通を確保することは重要な社会的課題です。そのため、道路管理者は路面凍結を防止するために凍結防止剤散布などの対策を重点的に実施してきました。現在、凍結防止剤散布には、氷を融かす特性や価格面に優れた塩化ナトリウム(塩)が主に用いられていますが、長年の散布によって橋梁などの道路構造物への悪影響が懸念されています。このため、沿道環境への負荷がより少ない凍結防止剤の開発が重要な課題となっています。

  寒地交通チームでは、新たな凍結防止剤として利用可能な物質を検討した結果、主に食品添加物として利用されているプロピオン酸ナトリウム(写真-1)に着目し、その実用可能性に関する研究を行っています。

  これまでに、基本的特性として有害物質含有基準への適否、融氷特性、金属腐食性、路面すべり抵抗値改善効果、植物への影響について試験を行いました。その結果、プロピオン酸ナトリウムは、有害物質含有基準値に適合し、融氷特性においては、塩化ナトリウムに比べて氷を早く融かすことができ、またその能力は塩化ナトリウムと同様に温度の低下とともに弱まることが分かりました(図-1)。塩化ナトリウムとプロピオン酸ナトリウムを重量比8:2 で混合すると、塩化ナトリウムに比べて金属腐食性を大きく抑制しつつ、路面のすべり抵抗値を同程度に改善できることも分かりました(図-2)。植物への影響を調べる栽培試験では、塩化ナトリウムに比べてこまつなの発芽、生育に与える影響が小さいことが確認できました(写真-2)。

  今後は、実用化と普及を進めるために、多角的観点から検証に取り組むとともに実際の散布作業を想定した施工性の検討等を行う予定です。


(問い合わせ先 : 寒地土木研究所 寒地交通チーム)