研究の紹介

監視カメラ画像を活用した土石流検知手法の開発

図-1 土石流を捉えた監視カメラ画像
図-1 土石流を捉えた監視カメラ画像


図-2 輝度値とRGBの時間変化
図-2 輝度値とRGBの時間変化


1.はじめに

  平成26年8月広島災害や平成29年7月九州北部豪雨災害に見られるように、近年土石流災害が頻繁に起こり、地域に住まわれる方々の人命や財産へ危険が及んでいます。このような災害を警戒し迅速な避難を行うためにも、土石流を監視する技術の開発が求められています。全国には、山地河川を監視するためのカメラが砂防堰堤等に設置されています。そこで、カメラ画像から自動的に土石流の発生が検知できれば、災害の警戒と迅速な避難行動へつながることが期待されます。

  しかしながら、これまで土石流の発生を監視カメラで明瞭に捉えた事例は多くなく、また、土石流の急激な濁りの変化や水位変化といった現象を画像解析によって表現した研究例もほとんどありませんでした。火山・土石流チームでは、このような土石流の濁りの変化と水位変化に着目し、監視カメラ画像を活用した土石流検知手法の開発に平成27年度から取り組んでいます。


2.研究内容

  平成28年台風第9号に伴う大雨により、平成28年8月23日に北海道石狩川水系黒岳沢川で土石流が発生し、監視カメラがその様子を捉えました。図-1は、土石流を捉えた監視カメラ画像です。

  土石流の発生を画像で検知するためには、普段の水の流れでは見られない、土石流の現象がもたらす変化を捉える必要があります。そこでまずは、土砂を含むことによる濁りの変化に焦点をあてて研究を進めることとしました。ここではその結果を報告します。

  この研究では、濁りの変化は画像内の輝度値の変化によって表現されるという仮説を立てました。輝度値は画像の色が数値化された指標の一つであり、R(赤)・G(緑)・B(青)の三原色から成ります。一般的なテレビ等のモニターで見える色は画素という小さな点の集合体であり、この個々の点は明るさ等の異なるRGBの三色を混ぜ合わせることで、きわめて多くの色の組合せが表現されます。画像の色は色相(色の種類)、明度(明るさ)、彩度(鮮やかさ)のバランスによって決まります。

  土石流が発生した場合、土砂を大量に含むことによって濁りが大きくなり、山地河川の水の色相には、変化が生じることが考えられます。そこで、土石流の到達前から到達後までの輝度値を解析することで、土石流がもたらす色相の変化を調査しました。

  図-2は、輝度値とRGBの時間変化です。図-1の白色四角内の解析領域において、土石流の到達前は、G(緑)とB(青)の値が相対的に高いことがわかりました。次に、土石流の到達後は、R(赤)の値が相対的に上昇することがわかりました。Rの値が上昇したことにより、土石流の到達に伴って山地河川の水の色相は、赤色系統へ変化したと考えられます。以上のように、土石流の濁りの変化は、輝度値による色相と関連すると考えられるため、土石流の発生は監視カメラ画像の輝度値とRGBの変化によって検知できる可能性があります。


3.おわりに

  今年度は、土石流の現象の一つである急激な水位変化を捉える手法を検討しています。火山・土石流チームでは、今回報告した画像解析の研究をはじめとし、民間との共同研究を行いながら、土石流を監視する技術の開発へ幅広く取り組んでいく予定です。


(問い合わせ先 : 土砂管理研究グループ 火山・土石流チーム)

衛星を用いた融雪期の地表面変動抽出に関する研究

図-1 衛星のマイクロ波照射イメージ図
図-1 衛星のマイクロ波照射イメージ図


図-2 変動前後のマイクロ波伝搬図
図-2 変動前後のマイクロ波伝搬図


図-3 地すべりにおける解析結果例(青は衛星から遠ざかる動き、赤は近づく動きを示す。なお、実線は地すべり地形の範囲を示す。)
図-3 地すべりにおける解析結果例
(青は衛星から遠ざかる動き、赤は近づく動きを示す。
なお、実線は地すべり地形の範囲を示す。)


写真-1 融雪期の地すべり(北海道苫前町)
写真-1 融雪期の地すべり(北海道苫前町)


  積雪地では、融雪期に気温上昇や降雨により融雪が進行し地面に融雪水がしみ込むことで、地すべりが起きることがあります。大きな地すべりによって、道路が通行止めになることや河道がふさがることがあります(写真-1)。しかし、積雪により地表から目視で地表面の動きを調査することは難しいことに加え、地形が急峻で近寄れないこともあります。そのため、積雪状態でも地表面の動きを的確かつ広域的に把握する手法が必要です。そこで、現在運用されている陸域観測技術衛星2号「だいち2号(ALOS-2)」のレーダーで観測されたデータを利用して解析を行い、融雪期における地すべりの地表面が動いた範囲と量を抽出する研究を行っています。

  ALOS-2は、Lバンドの波長のマイクロ波を照射するレーダー衛星では世界最高性能を保持しており、1日に地球を約14周回り14日で同じ位置に戻ってきます。Lバンドのマイクロ波は約24cmの波長で雲や木の枝葉を透過する特性を持っています。地表に向けて照射されたマイクロ波は、地表で反射し波形として観測されます(図-1、図-2)。異なる時期に同一軌道において同一場所を観測した位相の差を解析することにより、地表面が動いた量を把握することができます。マイクロ波は積雪を透過することもあるため、融雪期でも地表面で反射された位相を高分解能で観測できる可能性があります。ただし、マイクロ波は積雪を透過する際に、空気と雪では比誘電率が異なるため進む速度も異なり、位相に遅延が生じます。

  そこで本研究では、位相の遅延を補正するなどして積雪下の地すべりの地表面の動きを解析しています(図-3)。これらにより、地すべりの広域的な変動量や範囲を抽出することができ、融雪期における点検や通行規制など、道路管理に役立てることができます。



(問い合わせ先 : 寒地土木研究所 防災地質チーム)

寒冷地河川のアイスジャムによる河道内災害及び取水障害への対応

  冬の寒さが厳しい寒冷地の河川では、気温が下がると川の中に氷が出来上がります。川の氷は、硬い氷板とシャーベット状の晶氷に分類されます。これらの氷は気温上昇などで割れて下流に流れますが、流れが遅い所で氷が詰まって流れをせき止めることがあります。これをアイスジャム現象といいます。


川の中にできた氷(2012年12月 北海道 渚滑川)
川の中にできた氷
(2012年12月 北海道 渚滑川)
重機による水道取水口付近の氷の除去(2013年1月 北海道 名寄川)※名寄市提供
重機による水道取水口付近の氷の除去
(2013年1月 北海道 名寄川)※名寄市提供

解氷前の状況(河氷で覆われ、真っ白な状況)
解氷前の状況
(河氷で覆われ、真っ白な状況)
河氷上面を流水が流れ、河氷自体も流水により持ち上げられて流下
河氷上面を流水が流れ、河氷自体も
流水により持ち上げられて流下
解氷後の状況(氷が割れて流れた様子)
解氷後の状況
(氷が割れて流れた様子)
アイスジャム発生の様子(2010年2月26日 北海道 渚滑川)


  アイスジャムによる問題として、以下のことがあげられます。

(1)氷でせき止められたところの川の水位が急に上がり、水があふれることがある。

(2)流下した氷の衝突により、護岸など川の中にある構造物が被災することがある。

(3)水道などの取水口が氷でふさがれ、川から取水ができなくなることがある。

  特に(3)については、北海道内で冬の寒さが厳しい道北・道東地方を中心に、多くの市町村が水道取水に関する問題を抱えています。取水口の氷除去では、担当者が厳しい寒さの中で時に危険を伴う作業を行い、取水の維持に貢献しています。これらの問題について、アイスジャムの発生場所・時期が予測可能になれば、対応人員や対策の事前検討など、より効果的・効率的な対応が可能になります。


  寒地土木研究所では、アイスジャムの発生メカニズムや予測モデルについて、これまでに天塩川をはじめとした多くの道内河川で調査研究を進めてきました。これらの研究成果を、取水障害や河川構造物の被災に対する対策に役立てるため、現地河川での観測データ集積を進めるとともに、特定の河川だけではなく、多くの河川の現場で発生場所・時期をより簡便に予測できる手法の開発を進めています。


解氷後の状況(氷が割れて流れた様子)
晶氷変動量を指標とした川の氷の予測モデル
(※吉川ほか:寒冷地河川の取水施設における晶氷変動量の推定手法(2016)から引用)


  そこで、北海道開発局や北見工業大学と共同で、水道・河川管理の担当者が実務で使いやすいアイスジャム予測ツールの開発を進めています。モデルでは取水障害の危険度の指標として、晶氷変動量を提案しています。これらの成果を、寒冷地河川での安定した取水や防災に活用できるよう、研究を進めていきます。



(問い合わせ先 : 寒地土木研究所 寒地河川チーム)

XバンドMPレーダを用いた吹雪検知に関する研究について

図-1 XバンドMPレーダ設置場所
図-1 XバンドMPレーダ設置場所

図-2 CバンドレーダとXバンドMPレーダの性能の違い
図-2 CバンドレーダとXバンドMPレーダの性能の違い

図-3 XバンドMPレーダと地上観測結果の比較(2016年2月20~21日の事例)
図-3 XバンドMPレーダと地上観測結果の比較
(2016年2月20~21日の事例)


はじめに

  冬期、吹雪は局所的かつ突発的に発生します。したがって、吹雪による被害を軽減するためには、その発生を面的かつリアルタイムに把握することが重要です。本研究では、XバンドMPレーダを用いた吹雪検知の可能性について明らかにすることを目的とし、レーダデータと地上観測結果の比較・解析を実施しています。


XバンドMPレーダについて

  国土交通省は、2008年よりXバンドMPレーダの整備を全国規模で進めてきました。北海道内では2013年に北広島市に、2014年に石狩市にXバンドMPレーダが配備され、現在、札幌市を中心とした半径約60kmのエリアの降水を局所的かつリアルタイムに観測しています(図-1)。

  XバンドMPレーダの最大の特長は、高解像度な観測が可能なことです。図-2に記すように、従来のCバンドレーダに比べ、その観測間隔は約5分の1(1分おき)に、空間的きめ細かさは約16分の1(250mメッシュ)です。


XバンドMPレーダ観測と地上観測の比較例

  XバンドMPレーダによる上空観測結果と地上(石狩実験場)における降雪観測結果の一例を図-3に記します。図中に示すレーダ雨量および地上降雪量は、ともに水量換算した値(10分値)を示しています。なお、風については10分間の平均値で、風向は16方位で示しています。この結果より、XバンドMPレーダによって観測された強い降雪のピークと、地上で観測された降雪のピークは必ずしも一致しないことが確認されました。これは、降雪粒子が地上に達するまでの時間差に加え、降雪粒子は雨粒に比べて軽く、落下速度が小さいため、風の影響をより大きく受けるためと考えられます。また、レーダによる観測結果は、地上降雪量を過大評価する傾向にあることも確認されました。

  雪氷チームでは、今後も継続的に地上観測を実施するほか、XバンドMPレーダによって得られた上空データと地上観測データの関係を解明し、XバンドMPレーダによる吹雪検知の可能性について研究を進める予定です。



(問い合わせ先 : 寒地土木研究所 雪氷チーム)