研究の紹介

建設機械が各種の動作で排出する温室効果ガスの測定

図-1 建設機械の排出ガス規制の推移例
図-1 建設機械の排出ガス規制の推移例

図-2 2016年度の測定
図-2 2016年度の測定

図-3 2017年度の測定
図-3 2017年度の測定

図-4 測定値の例
図-4 測定値の例

  国内における建設機械の排出ガス(NOx, HC, CO, PM)は、欧州連合EU、米国等との国際調和を考慮して「特定特殊自動車排出ガスの規制等に関する法律」等により規制されています(図-1)。20tクラスの油圧ショベル等の主要な機種では、2014年規制対応モデルの市場投入が2017年から始まりました。

  現在も排出ガスにかかる情勢はめまぐるしく変化しています。公道を走行する自動車の路上走行試験が2017年からEUで義務付けられ、日本でも2022年から導入されることになりました。EUでは建設機械等の実稼働での測定も義務づけられることになりました。一方、米国ではEUおよび日本では未規制の温室効果ガス(GHG: greenhouse gas)の亜酸化窒素N2O(温室効果はCO2の298倍)、およびメタンCH4(同25倍)の規制値を定めています。尿素選択的還元装置(尿素SCR)によりNOxの対策を講じたエンジンではN2Oの発生が多いとの報告例もあります。

  今後、建設機械についてもGHGの測定評価等が議論になる可能性があります。測定評価等の必要性の判断にあたっては、測定方法、および多数の建設機械での測定値に関する知見が必要になると考えています。公道を走行する自動車の路上走行試験では実走行に近い条件を設定する方針で測定方法を定めていますが、建設機械の実稼働では履帯やバケットに付着する土により負荷が増大する等、多様な要因で負荷が大きく変化することから、実稼働に近い条件で測定すると偏差が大きくなって排出ガスを適正に評価できないと考えています。また、排出ガスの排出特性は排出ガスの種類、動作の内容、および測定条件等により異なります。

  土木研究所では、油圧ショベルで走行、模擬掘削等の動作を行い、排出されるN2O、CH4、および既規制のガスをフーリエ変換赤外分光法(FTIR:Fourier Transform Infrared Spectroscopy)で測定し、ガスによる排出特性の違い、測定値が増減する要因、および安定する条件等を分析し、国内におけるGHGの概況を簡素かつ正確に把握する方法を調べています(図-2,3)。2014年規制に対応した20tクラスおよび13tクラスの油圧ショベルでは図-4の例のように既規制の排出ガスが桁違いに抑制されていました。温室効果ガスのN2OおよびCH4についても近日中に公表する予定です。



(問い合わせ先 : 技術推進本部 先端技術チーム)

集水井内観察カメラの開発

写真-1  集水井(外側)
写真-1  集水井(外側)

写真-2  集水井(内側)
写真-2  集水井(内側)

図-1  集水井内観察カメラ
図-1  集水井内観察カメラ

はじめに

  地すべりは、主として豪雨や融雪により地下水が増加することで発生することから、地すべりの発生を抑えるために、地下水を地すべり地の外に排出する施設が設置されます。そのような施設のひとつである集水井(しゅうすいせい)(写真-1、写真-2)は、地すべり地内の地下水を井戸に集めて、地すべり地の外に排出する機能を担っています。しかしながら、地すべり等防止法の施行(1958年3月31日)から60年が経過し、集水井の老朽化が進んでいます。そのため、集水井の集水機能の状況や変形・破損状況を調べるための点検が行われますが、井戸内部に人が立ち入っての点検では、有毒ガスや酸欠、井戸内部に入るためのタラップの腐食・劣化による落下の危険があります。

  そこで、集水井内部に人が立ち入らずに地表から遠隔で集水井内部の状況を点検できるよう、全方位カメラを用いた集水井内観察カメラを開発しています。


集水井内観察カメラ

  集水井内観察カメラは大きく分けて撮影部と昇降機から構成されています。撮影部には周囲360度全方位を一度に撮影できる全方位カメラを備え、この撮影部を昇降機から吊り下げ上下させることで、集水井内部全体を一度に撮影しながら点検することができます(図-1)。

  撮影部は、防水ケースに収納した全方位カメラ、照明用ランタン、吊り下げたカメラの不要な回転を抑制する回転抑制器から構成されています。全方位カメラは4K画質の360度アクションカメラを用いました。集水井内は太陽光が届きにくく鮮明な映像が撮影できないため、光量1000ルーメンのLEDキャンプ用ランタンを照明用に組み合わせました。タブレット端末を用いて全方位カメラとWi-Fi通信することで、撮影した映像を地表からリアルタイムで確認することが可能です。回転抑制器は、フライホイール(円盤)とジンバル軸(回転台)を組み合わせた機構で、2台の小型DCモーターによりフライホイールを高速回転させジャイロ効果を発揮させることで、カメラの水平方向の回転を抑制する仕組みです。

  昇降機は、アルミ製の架台とリールで構成され、集水井の蓋に設けられた出入り口の枠に前後2点で固定する構造です。リールにはリボンロッド(長さ50m,幅60mm)が巻かれており、伸ばしたリボンロッドの先端に撮影部を取り付けます。点検時は、集水井出入り口から井戸の中心に向けて昇降機を挿入し、リールに取り付けた昇降ハンドルを手動で回しリボンロッドの長さを調節することで、撮影部を上下させます。

  写真-3は、集水井内観察カメラを用いて現地で実際に撮影した360度のパノラマ写真です。集水井の内部の概略的な状況を地表から安全かつ効率的に確認することができました。今後は、より詳細な画像の取得方法や取得した画像の整理方法について研究開発を進めていく予定です。


写真-3  集水井内観察カメラで撮影した360度パノラマ写真
写真-3  集水井内観察カメラで撮影した360度パノラマ写真


(問い合わせ先 : 土砂管理研究グループ 雪崩・地すべり研究センター)

道路の落石防護施設の設計法に関する研究

図-1  落石防護施設の例
図-1  落石防護施設の例

図-2  落石防護擁壁の実験例
図-2  落石防護擁壁の実験例


図-3  落石防護柵の実験例
図-3  落石防護柵の実験例

  我が国は、地形が急峻で脆弱な地質が広く分布しています。豪雨や地震等に伴う土砂災害は、過去10年(平成19年~28年)の平均で年1,000件に達し、多大な被害が生じています。土砂災害による被害の防止・軽減を図るため、土砂災害防止施設の整備を含めた総合的な土砂災害対策が推進されています(国土交通白書2017より)。


  土砂(斜面)災害の一つである落石災害に対する対策施設には、図-1に示すような落石防護施設(ロックシェッドや落石防護擁壁・柵等)があります。落石防護擁壁・柵は、道路交通や利用者等に影響を与えることのないよう斜面から落下する落石を阻止するために斜面中腹あるいは斜面下部(法尻)に設置される構造物です。従来の落石防護擁壁は通常、台形状の無筋コンクリート製、柵はH形鋼の支柱とワイヤロープや金網等の部材で構成される比較的簡易な構造であり、落石規模がそれほど大きくない場合に広く用いられています。また、図-1のように両者を組み合わせて用いることもあります。


  ここで、斜面の経年変化等により、想定している設計落石荷重を超える災害要因がある箇所が、点検等により確認されることがあり、安全余裕度がどのくらいあるのかについて把握することが必要となってきました。また、落石発生時において、既設構造物に設計で想定していないような損傷が発生する事例も報告されています。


  寒地構造チームでは、これら落石防護擁壁・柵に着目し、当所実験場において大型の模型を製作し、落石を模擬した重錘衝突実験(図-2,3参照)を実施しています。実験結果より、落石荷重が作用した時の構造物の挙動や損傷状態を把握するとともに、それらの状況を精度良く再現可能な解析手法の確立に向けた検討を進めています。検討結果を踏まえ、従来型の落石防護擁壁・柵の新たな設計法を提案していきたいと考えています。



(問い合わせ先 : 寒地土木研究所 寒地構造チーム)

海氷と沿岸構造物との相互作用に関する研究

  オホーツク海は、冬期に結氷板や流氷などの海氷で覆われます。我が国では、海氷による出漁機会の減少、船舶の損傷、養殖施設の損壊および海難事故など、漁業被害、海上交通などに与える影響が大きいのが特徴です。これらの対策として、いくつかの流氷を制御する施設が設置されています。このうち、アイスブーム(防氷堤)(図-1a)は、オホーツク海に通じているサロマ湖および能取湖において、流氷の湖内への流入による養殖施設の損害を防止するために湖口に設置されています。アイスブームは、海氷群をトラップする多数の浮体とそれらを連結するワイヤー、トラップされた流氷群の荷重を伝達する杭構造物から成り立っています。また流氷からコンブやウニなどの水産資源を保護するため、鋼管でつくられた防氷柵が、オホーツク海に面した海岸に平行に設置されています(図-1b)。当チームでは、こうした構造物と海氷との相互作用、とくに氷の破壊挙動、作用荷重等を精度良く推定する手法を研究しています。特に、流れ(海流や潮汐)を外力とした流氷群のアイスブームへの伝達荷重や挙動を、水理模型実験(図-2)や理論解析、個別要素法を応用した数値シミュレーション(図-3)といった多角的なアプローチによって推定する手法を開発し、能取湖のアイスブームの基本設計外力の算定に本手法が用いられました(図-1a)。


図-1(a)  アイスブームの空中写真(能取湖口)(北海道開発極網走開発建設部提供) 図-1(b)  鋼管による防氷柵(興部町)
図-1(a)  アイスブームの空中写真(能取湖口)
(北海道開発極網走開発建設部提供)
図-1(b)  鋼管による防氷柵(興部町)
図-2  アイスブームの水理模型実験の例 図-3  アイスブームへの流氷群のトラップ状況の数値シミュレーション例(サロマ湖アイスブーム)
図-2  アイスブームの水理模型実験の例
図-3  アイスブームへの流氷群のトラップ状況の
数値シミュレーション例(サロマ湖アイスブーム)


  また、こうした準静的な荷重のほか、よりアクティブな海氷による衝突現象にも注意が必要です。高速で運動する海氷はたとえそれが小規模であっても構造物の局部変形や損傷をもたらし(図-4)、特にその構造形式が柱状の場合、全体崩壊につながる可能性があります。当チームでは氷塊の衝突荷重や破壊挙動等について、中規模実験、理論解析および数値シミュレーションにより、それらを推定するためのツールを開発しています(図-5、6)。 さらに、海氷の接触や摩擦により、沿岸部の鋼・コンクリート構造物表面の摩耗や損傷が生じており早期の劣化が予想されます。その対策や維持管理方法の構築にも我々の開発した海氷の挙動や荷重の推定ツールを活用しながら研究を進めています(図-7)。

図-4  海氷による鋼構造物の損傷例 図-5  海氷による鋼構造物の局部変形のシミュレーション例 図-6  複数氷塊による杭(柱)状構造物への衝突破壊シミュレーションと動的応答解析の例
図-4  海氷による鋼構造物の損傷例
図-5  海氷による鋼構造物の
局部変形のシミュレーション例
図-6  複数氷塊による杭(柱)状構造物への
衝突破壊シミュレーションと
動的応答解析の例
図-7  海氷によるコンクリート構造物の摩耗例(左)とその摩耗・剥離シミュレーションの例(右)
図-7  海氷によるコンクリート構造物の摩耗例(左)とその摩耗・剥離シミュレーションの例(右)


(問い合わせ先 : 寒地土木研究所 寒冷沿岸域チーム)