研究成果の紹介

北海道の鋼矢板排水路の腐食と性能低下の特徴

研究の背景

  農作物の生育には、灌漑や排水など農地の水利環境が大きく影響しています。特に、泥炭地などの低平排水不良地域の多い北海道では農地の排水改良が重要で、これまで農業生産基盤整備の一つとして排水路整備がさかんに行われてきました。

  排水路の護岸工法は多岐に渡りますが、低平で軟弱な地盤に適する「鋼矢板護岸工法」が多く採用され(写真-1)、北海道内の国営事業だけでも施工延長が約100kmに及んでいます。この工法で整備された排水路が供用開始から20~30年以上経過し、近年、鋼矢板の腐食が著しく倒壊も発生しています(写真-2)。

  このため、排水路を構成する鋼矢板の腐食と排水路としての性能低下をどう診断・評価していくかが喫緊の課題となっており、現地の施設を詳細に調査することで、鋼矢板の腐食・倒壊の発生要因や、排水路の性能低下の要因の究明を行いました。


写真-1  鋼矢板護岸工法による農業用排水路 写真-2  腐食が進行した鋼矢板排水路
写真-1  鋼矢板護岸工法による農業用排水路
写真-2  腐食が進行した鋼矢板排水路

鋼矢板の腐食診断

  泥炭性軟弱地盤に造成された北海道空知地方の鋼矢板排水路(14路線42地点)を対象に調査し、腐食量(板厚の減)や排水の水質を計測しました。鋼矢板排水路の構造は図-1、鋼矢板の腐食の実例は写真-3のとおりです。

  調査の結果、腐食量は、経過年数が長いほど大きい傾向にありますが、局所的に大きい地点も存在します。概ね干満帯上部>干満帯下部>気中部の順で大きいこと、軽量鋼矢板の腐食速度が大きいことなどがわかりました(図-2)。また、排水の水質との関係では、溶存酸素が高いほど、pHが低いほど、電気伝導率が高いほど、塩化物イオン濃度が高いほど、腐食速度が大きくなる傾向が見られました。


図-1  鋼矢板排水路の構造 写真-3  鋼矢板の切断面の拡大写真
図-1  鋼矢板排水路の構造
写真-3  鋼矢板の切断面の拡大写真

図-2  腐食量の測定結果  (軽量:軽量鋼矢板、普通:普通鋼矢板)
図-2  腐食量の測定結果 (軽量:軽量鋼矢板、普通:普通鋼矢板)

鋼矢板排水路の性能低下の特徴

  鋼矢板の腐食の実態と診断結果から、排水路の性能低下は、①鋼矢板表面側での全面的な湿食と、電位差による部分的な腐食の発生、②浮き錆へ進展、③板厚が小さくなったところに荷重が加わり破断・割れ・湧水が発生、④さらに湿食が進み開孔・断面欠損へと進展、⑤背面土の吸い出しで安定性が失われ、⑥傾倒・倒壊に至るという機構で進むと推察されました。

  この構造性能の低下が、排水機能の低下を招くことや、施設周辺の安全性を損なうことを考慮しながら、補修、補強、改築時の構成部材に要求される性能の明確化(品質規格化)、改築を想定した場合の構成部材の性能の向上を図ることが必要です。

  そのためには、積雪寒冷地に特有な現象を踏まえつつ、さらに、供用後の鋼矢板の腐食状況の定量化と、腐食に影響を及ぼす環境要因の精査が必要不可欠と考えています。



(問い合わせ先 : 寒地土木研究所 水利基盤チーム)