研究の紹介

建設発生土等の長期的な品質管理技術に関する研究

写真-1 道路盛土の強度確認
写真-1 道路盛土の強度確認


写真-2 室内長期暴露実験
写真-2 室内長期暴露実験


写真-3 実大規模の締固め実験
写真-3 実大規模の締固め実験


  建設工事で地盤の掘削等により生じる土を建設発生土といいます。建設発生土(以下、発生土という)の多くは汚染等の恐れのない安全なものです。しかし、工事に必要な土砂を新しく採取するために自然の山を掘削することが環境に負荷をかけること、発生土を処分することで廃棄物の処分スペースを圧迫することなどから、別な工事で発生土を有効利用することが求められています。

  道路盛土や河川堤防も、かつては良質な砂を購入したり、発生土の中でも品質の良いものだけを利用したりしていました。しかし最近では、従来処分されていたような低品質な発生土注1)も安定処理注2)等の技術的工夫を施すことにより活用されるようになっています。

  国研)土木研究所では、産学計12者と共に、低品質な発生土による道路盛土が長期的に安定性や耐久性を発揮するための品質管理技術について共同研究を行っています。具体的には、集中豪雨や長期降雨、地下水など、水の作用が安定処理土の強度に与える影響を明らかにするために、施工から約10年経過した道路盛土のボーリング調査による強度確認(写真-1)や、室内にて厳しい環境を再現した安定処理土の長期暴露実験(写真-2)などを行っています。更に、長さ約50 mのコンクリート製ピットで実大規模の盛土の築造(締固め)を再現し(写真-3)、長期的な維持管理までを見据えた施工、品質管理技術の向上について検討しています。

  この研究により、低品質な発生土の安全なリサイクルを促進させることを目指しています。



注1):低品質な発生土とは、盛土などを作るのには土の強さが不十分である、又は水分が多く建設機械での扱いが難しい土を指します。

注2):安定処理技術とは、土に石灰、セメントなどの安定材を混合することで、土中の水分と安定材の化学反応による水分の消費や固結物(水和物)の生成により土を改質する技術です。



(問い合わせ先 : 地質・地盤研究グループ 施工技術チーム)

ダム貯水池における次世代シーケンサーを用いた動植物プランクトンモニタリング手法の研究

1.はじめに

  従来、ダム貯水池の動植物プランクトンのモニタリングは、「河川水辺の国勢調査マニュアル【ダム湖版】V .動植物プランクトン調査」に準じて行われ、光学顕微鏡を使用した検鏡による同定が行われています。しかしながら、同定には熟練した技術が必要で、対応できる技術者も限られており、形態により判断しているため、形態が非常に似通った動植物プランクトンは判断が困難である場合があります。

  一方、近年、ゲノム解析技術の急速な発展により、次世代シーケンサー(以下、NGSとする)を使った大規模DNA塩基配列データの取得がより手軽に行えるようになっており、動植物プランクトンの同定にも活用が期待できます。

  本研究では、ダム貯水池の水質管理に有効な動植物プランクトンモニタリング手法の開発を目指し、NGSを用いたDNA塩基配列に基づくモニタリング解析手法の確立に取り組んでいます。


図-1 各ダム貯水池において検出された動植物プランクトン(門レベル)
図-1 各ダム貯水池において検出された
動植物プランクトン(門レベル)


2.ダム貯水池の水試料でのモニタリング試行

  異なる4ダム貯水池(A~D)の表層水を採水して、月別の動植物プランクトンの検出を行いました。塩基配列の決定には、イルミナ社製NGS(Miseq)を用い、動植物プランクトンの検出には、18S rRNA遺伝子領域(V4-V5領域)を標的としたプライマーを用いました。

  動植物プランクトンについて、近縁な種として107種類が同定できました。河川水辺の国勢調査では、同ダム貯水池において約30~70種のプランクトンが光学顕微鏡を用いて同定されており、NGSを用いて得られた今回の結果はこれらをほぼ網羅できていました。

  各ダム貯水池における動植物プランクトンの検出結果(門レベル)を図1に示します。優占種はダム貯水池によって異なっており、年間を通じて優占種のシフトが観察されました。Aダムでは1-3月に繊毛虫の割合が増加しており、Bダムはオクロ藻の検出割合が比較的大でした。Cダムの9-11月では淡水赤潮の原因となる可能性のある渦鞭毛藻が優占しており、Dダムでは5-7月の緑藻の検出割合が大でした。また、図には示しておりませんが、検出されるプランクトン種が深度方向にも大きく変動していることも把握できました。


3.おわりに

  今後はより詳細な検討を行い、NGSを用いたモニタリング手法の実用化を図り、ダム貯水池の水質管理に役立てていきたいと考えています。


(問い合わせ先 : 水環境研究グループ 水質チーム)

道路橋RC床版の耐久性評価に関する研究
~寒冷地における実橋の劣化損傷状況・部位を踏まえて~

図-1  RC床版の劣化損傷事例
図-1  RC床版の劣化損傷事例

図-2  実橋RC床版の切断面の状況
図-2  実橋RC床版の切断面の状況

図-3  層状ひび割れ発生の凍害危険度・反応性骨材分布による整理
図-3  層状ひび割れ発生の凍害危険度
・反応性骨材分布による整理


  道路橋のRC(鉄筋コンクリート)床版は橋梁部材の中でも劣化損傷が多く、特に北海道のような寒冷地では車両走行による輪荷重に加えて、凍結融解や塩分浸透、アルカリシリカ反応等の複合作用によって早期に健全性が失われ、抜け落ちに至ることがあります(図-1)。


  ここで、現行のRC床版の耐久性評価手法はその適用範囲が限定的であり、実橋における多岐にわたる劣化損傷状況・部位を包括できているわけではありません。このことが、対策工法選定の誤りや補修補強後の再劣化損傷の早期発生を招いてしまう要因の一つとなっているものと考えられます。RC床版の劣化損傷は、走行安全性の低下だけでなく第三者被害等も招く可能性があるため、適切な対策工の検討・実施に向け、より合理的な耐久性評価手法が求められています。


  寒地構造チームでは、北海道における道路橋RC床版に着目し、床版上面の土砂化や内部の層状ひび割れ(図-2)等の発生した橋梁や床版部位の特徴を明らかにするための整理・分析を進めています。その結果、限られた事例からではあるものの、これらの劣化損傷の発生と凍害危険度等の供用環境には明確な関連性が認められず、北海道全域で発生していること(図-3)、橋梁線形の違いや防水工の有無等との関連性を把握しています。今後、詳細な分析を踏まえ、顕在化しやすい損傷の発生メカニズムを明らかにするとともに、耐久性を評価する方法を提案していきたいと考えています。



(問い合わせ先 : 寒地土木研究所 寒地構造チーム)

海氷等大量の漂流物を伴う津波の来襲に備えた沿岸防災の取り組み

写真-1  平成23年東北地方太平洋沖地震で発生した津波により遡上したと見られる海氷
写真-1  平成23年東北地方太平洋沖地震で
発生した津波により遡上したと見られる海氷


写真-2  海氷を伴う津波の水理模型実験
写真-2  海氷を伴う津波の水理模型実験

図-1  海氷を伴う津波の遡上シミュレーション(開発中)を用いた計算例(グレースケールはパイルアップの高さ)
図-1  海氷を伴う津波の遡上シミュレーション
(開発中)を用いた計算例
(グレースケールはパイルアップの高さ)


  北海道の沿岸では、冬期流氷が接岸したり、気温や水温が低いために結氷板が形成されたりすることによって、一面が氷で覆われる海域があります。このような氷で覆われる海域、氷海域で津波が発生した場合、津波は大量の海氷を伴って来襲するため、被害はさらに甚大化するおそれがあります。

  海氷を伴った津波の来襲は、過去実際にいくつかの事例が発生しており、その一つが昭和27年の十勝沖地震で発生した津波です。まだ海氷が残る3月4日に十勝沖でマグニチュード8.2の地震が発生、これによる海氷を伴う津波で大きな被害が見られました。流氷や沿岸結氷板が津波によって砕かれ、その氷片を伴った津波は市街地を遡上、家屋の破壊等の甚大な被害をもたらしました。また、平成23年の東北地方太平洋沖地震でも、色丹島沿岸において、海氷を伴った津波によるものと考えられる施設被害が報告されています。このとき、北海道東部に3m近い津波が来襲、後に陸に打ち上げられた氷が確認されましたが、これらは沿岸に残っていた海氷が津波とともに遡上したものと見られています(写真-1)。

  一方、平成29年12月、政府地震調査委員会は、北海道東部太平洋沖で30年以内にマグニチュード9クラスの超巨大地震が発生する確率の引き上げを発表しました。流氷の接岸や結氷板の形成といった現象はオホーツク海側で多く見られますが、氷象条件によってはそうした氷が太平洋にも流出してくるため、大きな地震発生による海氷を伴った津波への対策は喫緊の課題と考えられます。このため我々寒冷沿岸域チームでは、津波来襲時に海氷がもたらすインパクトと海氷による上乗せリスクを明らかにするなど、対策技術の研究に取り組んでいます。

  たとえば、海氷模型を浮かべた状態で津波を発生させる水理模型実験を行い、海氷群のパイルアップ(氷の積み重なり)やアイスジャム(滞留・閉塞)という現象に着目し、海氷群の挙動や水位変化等を調べています(写真-2)。これまで蓄積してきた実験データを検討したところ、津波が到達する構造物の前面ではパイルアップやアイスジャムが発生、津波の流れは一時的にせき止められ水位上昇が生じること、これに伴い想定を越える静的な力が継続して構造物に作用すること、などがわかってきました。また、パイルアップやアイスジャム形成など氷の挙動特性を考慮した津波遡上シミュレーションの開発を進めています(図-1)。このシミュレーションについては、避難行動計画等の検討に資するハザードマップ作成支援ツールとして役立つものとなるよう、研究開発を進めています。今後も多様な手法を用いて種々の要素研究を実施し、沿岸防災への取り組みを進めてまいります。



(問い合わせ先 : 寒地土木研究所 寒冷沿岸域チーム)