研究の紹介

舗装の健全度を評価する装置(FWD)の検定
~FWD検定を通して適切な舗装の維持管理への貢献~


図-1  FWDを搭載した車両の外観
図-1 FWDを搭載した車両の外観

  日本の道路延長は約100万kmに達しており、限られた予算の中で道路を適切に管理するためには、舗装の健全度を適切に評価し、その結果を反映させた維持修繕を行うことが重要となります。

  舗装の健全度を評価する方法としては、掘削して舗装の断面を調査する方法等がありますが、舗装を破壊する必要があるとともに時間と費用がかかることから、近年は非破壊で調査が可能なFWD(Falling Weight Deflectometer)を搭載した車両(図-1)を用いた調査が多くの現場で実施されています。



図-2  FWDの構成
図-2 FWDの構成

  FWDは、重錘と複数のたわみセンサで構成される装置(図-2)で、舗装路面に重錘を落下させた時に発生する路面のたわみ量を測定し、その測定値から舗装の健全度を評価できる装置です。FWDによる調査結果は、舗装の状態に応じた維持修繕工法の選定などに活用されています。

  我が国では2020年現在で約50台のFWDが稼働しています。FWDは適切にメンテナンスをしなければ、車両により測定値が異なる等、正確な測定値が得られない状態となる場合があります。FWD調査の結果は、舗装の維持修繕方法の選定などに活用されることから、車両により測定結果が異なることがないようにする必要があります。

  そのため、土木研究所ではFWDの較正・検定を行うためFWD検定施設(図-3)を整備し、平成22年からFWD所有者の依頼によりFWD検定を実施しています。検定では、FWDによる測定値(衝撃荷重及びセンサ各位置のたわみ量)と、基準となる検定施設の測定機器で測定された測定値との比較を行い、FWDの測定値が正確であるかの確認を行います。検定に合格した車両には土木研究所から認定書(図-4)を交付し、正確な測定が可能であることを認定しています。

図-3(b)  FWD検定施設 図-4(b)  認定書
図-3  FWD検定施設
図-4  認定書

(問い合わせ先 : 道路技術研究グループ 舗装チーム)

水災害「我がこと感」を醸成するリスクコミュニケーションツールの開発

1.VRを用いた洪水疑似体験ツールの開発

  近年の洪水災害時において、事前に提供された洪水に関する各種の防災情報が活かされず、適切な避難行動が行われなかったために多くの人的被害が発生している現状があります。このような社会的状況を鑑み、ICHARMでは洪水を『我がこと』(自分にも起こりうること)と捉えて住民一人一人の行動意図を醸成するための研究の一環として仮想現実(Virtual Reality: VR)による洪水疑似体験ツールの開発を進めています。本ツールは、洪水を経験したことのない一般の方々に対して、洪水を疑似的に体験してもらうことで洪水に対する関心や意識を喚起することを目的とし、以下のようなシナリオ構成としました。日常に近い状況から体験が始まるように、

  ① 体験者が一軒家の1階リビングにいる状況から、②家の近くを流れる川から溢れた水が、家の目の前の道路上を流れ、③さらに増水して家の中まで水が入り込み、④2階の天井まで浸水するという構成です(図-1)。本ツールで体験できる内容は、VRゴーグルを使うと前後・左右・上下を自由に見ることができ、実際の家の中にいるような体験となりますが、紹介のため、以下のURLより動画として閲覧することが可能です。

  (http://www.icharm.pwri.go.jp/activities/movie_collection/index_j.html)



2.アンケートによる洪水疑似体験ツールの効果検証

  2019年4月19日に行われた「国総研・土研一般公開」では、本ツールを用いた洪水疑似体験会を実施しました。体験会では、来場していただいた111名に、本ツールによる体験が洪水に対する意識向上に寄与するかどうかを明らかにすることを目的とした全10問のアンケート調査に回答していただきました。回答者の年齢構成は40歳代が約26%と最も多く、次いで30歳代が約17%でした。以下、アンケート調査結果の概要をご紹介します。

  「VRによる洪水疑似体験をして『洪水は怖い』と感じましたか?」という質問に対して、約90%の方が『洪水は怖い』と回答しました(図-2)。



  また、洪水疑似体験前の気持ちに関する「あなたは例年、梅雨や台風シーズンになると洪水を心配していましたか?」という質問と、洪水疑似体験後の洪水に対する意識に関する「今年の梅雨や台風シーズンに向けて洪水災害が心配になりましたか?」という質問の回答結果を比較すると、洪水疑似体験をした後には洪水疑似体験をする前と比較して、『洪水を心配している/心配になった』と回答した人の割合が約2倍に増えたことが分かります(図-3)。



  さらに、洪水疑似体験後に「『洪水が心配になった』度合い」と、「家に帰ってから洪水ハザードマップを確認しようと思うかどうか」という回答についてクロス集計を行った結果、「心配度合いが大きい」ほど「洪水ハザードマップを確認しようと思う」と回答した人の割合が大きくなることが明らかになりました(図-4)



  以上より、本ツールによる洪水疑似体験によって、体験者の洪水に対する関心や意識が向上したと推測されます。ICHARMでは引き続き、災害「我がこと感」を醸成するリスクコミュニケーションの検討・検証を行い、今後の防災・減災対策に役立つような研究を進めています。


(問い合わせ先 : 水災害研究グループ)

凍結防止剤散布作業支援技術の開発

  積雪寒冷地などでは、路面上の水分の凍結、踏み固められた雪などにより、路面がすべりやすくなることがあります。道路管理者はその対策として、除雪車や凍結防止剤散布車を使用して道路を管理しています。しかし近年では、人口減少に伴ってその作業を行う人員が減少し、それとともに熟練作業員の減少と高齢化が進行しています。また、国の厳しい財政事情に伴う財源の制約の中、道路管理においてもさらなる作業の効率化が求められています。

  このため当研究所では、凍結防止剤散布作業において、これまで運転手と散布作業員(オペレーター。以下、オペ)の2名体制で行ってきた作業を1名で行うことができ、かつ経験の少ないオペでも作業を可能とする技術の開発を行っています。


写真-1  制御インターフェース<br>(パネルの左が散布区間表示、右が散布操作ボタン)
写真-1 制御インターフェース
(パネルの左が散布区間表示、右が散布操作ボタン)


  具体的には、「凍結防止剤散布作業支援システム」として、散布区間と散布量の情報を提供する「散布作業判断支援機能」と、手動、音声操作、自動の3種類の方法で散布作業を行える「操作支援機能」を備えた制御インターフェースを散布車の運転席に設置して、効果や安全性等の実験を行っています(写真-1)。


  情報提供方法による効果や課題について被験者実験を行ったところ、情報提供によってオペによる路面状態(凍結や湿潤)の判別が速くなり、路面状態判別の的中率も向上することが分かりました。しかし、画像による情報提供の場合、「道路&背景」を注視する割合が著しく減少することがあり、安全面において課題があることが確認されました(図-1)。

  また、散布作業支援の有無及び支援の種類別に精度検証実験を行いました。「支援なし」の場合は散布指示地点に対する操作地点の距離が最もばらつき、「支援あり」の場合は「支援なし」よりもばらつきが減少することが分かりました(図-2)。


  これらの実験結果から、支援システムによる散布作業の省力化及び適正化が可能であることが確認できました。

図-1(b)  散布作業時におけるオペの注視点の例 図-2(b)  散布指示地点と操作地点間の距離
図-1  散布作業時におけるオペの注視点の例
図-2  散布指示地点と操作地点間の距離



(問い合わせ先 : 寒地土木研究所 寒地交通チーム)

大区画泥炭圃場の沈下抑制対策に関する研究

1.泥炭農地における沈下

図-1  同一農区内の水田と転作田(大豆) <br>における沈下量 <br>(各圃場内9地点の中央値±最大,最小値)
図-1 同一農区内の水田と転作田(大豆)
における沈下量
(各圃場内9地点の中央値±最大,最小値)



  寒冷な地域の河川や湖沼の付近には、枯れた植物が長い時間をかけて積もり続けてできた泥炭と呼ばれる土が分布しています。泥炭には多くの隙間があり、泥炭に掛かる荷重が増えるとこの隙間がつぶれ、泥炭の体積が小さくなります。また、泥炭は、乾燥による収縮や泥炭中の有機物が分解され消失することなどによってもその体積が小さくなります。農地として利用されている泥炭地では、圃場の排水を行うと圃場が沈下することが知られています。このことの原因は、まず排水直後には、圃場の地下水位が下がり、新しく地下水位よりも上に出た土層にはたらいていた浮力が失われ、地下水面よりも下の泥炭に掛かる荷重が増えるために泥炭の体積の減少が進むからです。また、長期的には、地下水位より上の泥炭は乾燥と分解・消失することでやはりその体積が減少し、圃場が沈下します。例えば、近接した圃場同士であっても、水田よりも転作田の方が沈下量が大きくなります(図-1)。これは、営農間中に水田では水位を高く維持するのに対し、転作田では排水し水位を下げるためです。


2.大区画圃場における不同沈下およびその緩和策


写真-1  観測開始から2年後までの圃場内9地点の沈下量
図-2 観測開始から2年後までの
圃場内9地点の沈下量


  北海道の泥炭地域にある農地では、農作業の省力化・効率化を目指した圃場の大区画化が進んでいます。泥炭地域の農地では、圃場内で沈下が不均一に進み(不同沈下と呼びます)、凹凸が生じることがあります。特に大区画化された圃場では不同沈下が著しくなりやすいことが知られています。圃場面に凹凸があると水田の湛水深や転作田の圃場面の乾湿にムラが生じ、作物の生育にムラが現れやすくなります。このため、資源保全チームでは、大区画化した泥炭圃場における沈下の実態と要因を明らかにし、圃場全体の沈下および不同沈下の抑制策の提案を目標として研究を行っています。これまで観測を行った圃場でも不同沈下が起きています(図-2)。この不同沈下には、暗渠の敷設勾配に従った地下水位の分布や、圃場内における泥炭性状の不均一性などが影響していると考えられます。圃場の大区画化では、水田として長く利用されてきた圃場と転作田として長く利用されてきた圃場とをまとめて一区画の圃場にすることがあります。過去の土地利用履歴や区画整理時の作業履歴の違いが泥炭の性状の不均一性に影響している可能性も考えられ、これらと不同沈下の関係性を明らかにすることにも取り組んでいます。


写真-1  地下水位制御のイメージ(集中管理孔の例)
図-3 地下水位制御のイメージ(集中管理孔の例)

  圃場全体の沈下および不同沈下を緩和するために重要なことの一つが、圃場の地下水位を下げ過ぎないことです。例えば、大区画化が進められている水田には、同時に地下水位制御システムの導入が進められており、このシステムを利用した地下水位の制御(図-3)により沈下の緩和が期待されます。当チームではこのような地下水位制御による沈下抑制効果の検証にも取り組んでいます。




(問い合わせ先 : 寒地土木研究所 資源保全チーム)