研究の紹介

凍結防止剤散布環境下でのコンクリートの凍害暴露実験の紹介


写真-1  凍結防止剤が散布されている道路橋地覆コンクリートの凍害
写真-1 凍結防止剤が散布されている
道路橋地覆コンクリートの凍害

  寒冷地では冬期間、走行車両の安全性を確保するため、凍結防止剤が散布されています。その一方で、道路構造物では、凍結融解と凍結防止剤の複合作用によるコンクリートの凍害が報告されています(写真-1)。コンクリートの凍害の進行は、凍結防止剤の散布量や散布方法と関係があると考えられていますが、具体的な因果関係は未だ不明な点が多く、凍害の進行を定量的に予測することは難しいのが現状です。そこで、コンクリートの凍害の進行と、凍結防止剤の散布形態や気温変動などの環境因子の関係を明らかにするため、現在、冬期に凍結防止剤の散布が行われている北海道内の道路橋において、コンクリートの暴露実験を行っています。



写真-2  暴露実験の様子
写真-2 暴露実験の様子

  写真-2は暴露実験の様子です。路面へのコンクリート供試体の設置は車両の走行の障害となるため、道路橋の排水管の真下に供試体を設置し、排水管の出口から流れ落ちる凍結防止剤を含む路面の融雪水を供試体に与えています。暴露実験は、北海道内の国道の道路橋の中から、環境に偏りのないよう、また、現場での作業性も勘案し、20橋を選定して行っています。供試体の水セメント比は45、55、65%の3水準、使用したセメントの種類は普通ポルトランドセメントもしくは高炉セメントB種、空気量は一律4.5%としています。融雪水を与える面は打設面のみとし、打設面以外の5面は融雪水が触れないよう、エポキシ樹脂でコーティングしています。打設面には高さ約10mmの枠を設け、流れ落ちる融雪水を供試体の打設面全体に行き渡らせ、特定の供試体だけが集中的に損傷することのないように配慮しています。



写真-3  写真-3 スケーリング深さの測定状況
写真-3 スケーリング深さの測定状況

  ここでは、暴露2冬経過後のスケーリング(コンクリートの表面がフレーク状に剥がれる形態の凍害)による欠損深さの測定結果について紹介します。写真-3はスケーリング深さの測定状況です。装置に備わっている先端の尖ったφ4mmのステンレスの棒を供試体の打設面にあて、棒の先端がスケーリングで凹んだ部分に入り込んだときの下方への棒の移動量からスケーリング深さを求めました。装置にはφ4mmのステンレスの棒が6mm間隔で9本配置されており、測定は供試体の端部から50、100、…、 350mm位置の7箇所で行い、計63点の測定値から平均スケーリング深さを求めました。




図-1  凍結防止剤散布車の出動回数と暴露<br>2冬までの平均スケーリング深さの関係
図-1 凍結防止剤散布車の出動回数と暴露
2冬までの平均スケーリング深さの関係

  図-1は、凍結防止剤散布車の出動回数と暴露2冬までの平均スケーリング深さの関係を整理したものです。凡例のNPは普通ポルトランドセメント、BBは高炉セメントB種、数字は水セメント比を表しています。出動回数は、往復散布1回(往路と復路で1回ずつ散布)を出動1回としています。出動回数が概ね50回/年未満の環境では、出動回数が多いほど平均スケーリング深さは増加する傾向にありました。一方、出動回数が50回/年以上の環境では明確な比例関係はみられませんでした。最低気温にもよりますが、スケーリングが進行しやすい塩水の濃度は一般に3 %前後と言われています[1]。また、凍結防止剤の散布を終えた路面の融雪水の塩分濃度は急速に低下しやすいことも知られています[2]。このことから、出動回数が50回/年以上の現場における路面の融雪水は、スケーリングが進行しやすい塩分濃度が持続しやすいと言えます。



図-2  11~4月における日最低気温の平均と暴露2冬までの平均スケーリング深さの関係
図-2 11~4月における日最低気温の平均と暴露2冬までの平均スケーリング深さの関係

  図-2は11月~4月における日最低気温の平均と暴露2冬までの平均スケーリング深さの関係を整理したものです。出動回数が50回/年以上のプロットに着目しますと、スケーリングが進行しやすい高炉セメントB種[3]を使用した供試体では、日最低気温の平均が低い地域ほど平均スケーリング深さが大きい右肩下がりの傾向が示されました。一方、普通ポルトランドセメントを使用した場合も、ばらつきはみられますが、日最低気温が低い地域において大きな平均スケーリング深さを示した供試体が確認されました。

  このことから、スケーリングの進行に及ぼす環境因子として、凍結防止剤散布車の出動回数と日最低気温は重要な指標であることがわかりました。この知見は、地域ごとに異なる冬期環境、散布形態にあわせた合理的な配合設計の構築および対策要否の判定に資すると考えています。しかしながら、まだ2冬目の評価であり、今後も凍害予測手法の確立に向けて調査を続け、データを積み重ねていく予定です。



参考文献

[1] Verbeck, G. J. and Klieger, P.:Studies of Salt Scaling of Concrete,Highway Research Board,Bulletin,No.150,pp.1-13,1957.

[2]佐野弘:定置式凍結防止剤自動散布装置の研究開発、福井県雪対策・建設技術研究所年報「地域技術」第14号、第1編調査研究報告、pp.20-27、2001.7

[3]遠藤裕丈、田口史雄、嶋田久俊:塩化物水溶液による長期凍結融解作用を受けたコンクリートのスケーリング特性、土木学会論文集、No.725/V-58、pp.227-244、2003.2



(問い合わせ先 : 寒地土木研究所 耐寒材料チーム)

バイオ技術を活用した河畔林伐採後の再萌芽抑制新技術の開発



  日本における大雨の発生数が最近増加傾向にあるのは、地球温暖化が影響しているといわれています。このため、全国で河畔林伐採や河道掘削が行われ、洪水を流しやすくする事業が進められています。一方、河畔林を伐採した場合、切株の除去、廃棄物処理が行われていますが、この除根コストが工事費の多くを占めると言われています。もちろん、伐採時に切り株を放置する選択肢もありますが、放置された切り株は再萌芽し、4年で10m以上成長する場合もあります。切り株からの再繁茂を抑制する技術(皮剥、薬剤塗布等)もありますが、いまだにコストが高く、実用化には至っていません。


図-1  木材腐朽菌による樹木内部の感染状況
図-1 木材腐朽菌による樹木内部の感染状況

  そこで、水環境保全チームでは、木材腐朽菌を使った再繁茂抑制技術の開発に取り組んでいます。木材腐朽菌は、動物界、植物界に並ぶ多様性を持った菌界に位置付けられます。木材腐朽菌は樹木を構成するリグニン、セルロース等を特殊な酵素で分解して栄養源にする菌類で、例えば皆さんご存知のエノキタケやシイタケも木材腐朽菌の一種です。図-1は木材腐朽菌に感染した柳の断面で、樹木内部に感染が進み、枯死が進んでいる状況です。水環境保全チームでは、北海道大学農学研究院の宮本敏澄先生、天塩川、十勝川を管理する国土交通省北海道開発局の協力を得て、河畔林内に自生する木材腐朽菌の調査を行い、地域特有の木材腐朽菌株を分離培養し、実際に河畔林伐採後の切り株に接種し、枯死や分解の程度を計測する予定です。


写真-1  帯広工業高校の流木腐朽実験との連携
写真-1 帯広工業高校の流木腐朽実験との連携

  また、帯広工業高校の岡本先生が生徒たちと行っている、洪水で発生した流木の木材腐朽菌による分解実験とも連携を開始(写真-1)しました。具体的には、我々の持っている資機材を使って木材腐朽菌を流木に見立てた材木に接種したり、研究の進め方などを一緒に考え、流木の腐朽の度合いも観察していく、というものです。令和元年11月18日には、北海道(帯広建設管理部)の了解を得て、機関庫の川で木材腐朽菌(エノキタケなど)を接種した流木を河畔に埋め込む作業を行いました。うまくいけば来年にはキノコの発生が見られるかもしれません。


(問い合わせ先 : 寒地土木研究所 水環境保全チーム)