研究の紹介

橋梁点検ロボットによる橋梁点検の効率化
~ 3次元モデルの活用 ~

図-1 橋梁点検ロボットによる撮影風景
図-1 橋梁点検ロボットによる撮影風景

  1.はじめに

  日本国内には道路橋が約72万橋あり、その半数は40年以上にわたり供用されています。この老朽化した橋梁を安全安心に利用するために、5年に1回、全橋梁の全部材を点検技術者が近接目視し、健全性を診断して適切な措置をしていますが、時間や費用を多く必要としています。そこで、橋梁点検の効率化として、UAV(無人航空機:ドローン)等の橋梁点検ロボットの活用が進められています(図-1参照)。一方で、点検画像から3次元モデル(点群モデル)を生成するSfM(Structure from Motion)ソフトウェアや、それを表示できる3次元CADソフトが普及してきました。

  ここでは、橋梁点検ロボットを用いた橋梁点検(以降、ロボット点検)において、 SfMソフトウェア等を活用した、1)点検結果を3次元モデルで管理するメリット、2)橋梁3次元モデル作成マニュアルの必要性、の2点を紹介します。


  2.点検結果を3次元モデルで管理するメリット

  ロボット点検では、点検技術者は画像を見て損傷状況を判断します。その際、「どこの部分のどの向きで撮影したのか」「この画像の範囲(大きさ)はどのくらいか」などの3次元的な位置関係を点検技術者の頭の中で想像するため、他者への損傷位置等の情報共有に課題があります。SfMソフトウェア等により、①橋梁3次元モデル作成、②画像撮影位置の推定、③損傷記録、④3次元空間上での橋梁3次元モデル・画像・損傷の表示ができるため、直感的に点検結果を把握できます(図-2参照)。さらに、「対象橋梁における点検状況(網羅性)の把握」、「幾何学変換による損傷サイズの再現」、「3次元モデルのためVRやARへの活用が容易」「各種データは3次元座標を保持しており他の橋梁点検ロボットにデータ提供可能」等のメリットもあります。


図-2 3次元モデルの活用イメージ
図-2 3次元モデルの活用イメージ

  3.橋梁3次元モデル作成マニュアルの必要性

  橋梁3次元モデル作成には、画像撮影方法やSfMソフトウェアの操作方法にノウハウが必要となります。そこで、土木研究所では、手戻り無く3次元モデルを作成するためのマニュアルを作成しています。マニュアルは「橋梁3次元モデルの基本」「橋梁の撮影方法」「橋梁3次元モデル作成」の3部構成となります(図-3参照)。今年度には土木研究所のHPで公開しますので、ぜひご活用下さい。


図-3 3次元モデル作成マニュアル
図-3 3次元モデル作成マニュアル

  4.おわりに

  橋梁の規模や立地条件により、点検技術者の近接目視点検が適している橋梁、部分的に橋梁点検ロボットを用いることが適している橋梁があります。このように、点検技術者と橋梁点検ロボットのベストミックスを図り、橋梁管理の効率化に向けて取り組んでいきます。また、本研究は、内閣府の「官民研究投資拡大プログラム(PRISM)」を活用し実施しています。



(問い合わせ先 : 技術推進本部 先端技術チーム)

鋼製部材からなる落石防護施設のメンテナンス技術に関する研究

写真-1 落石防護柵
写真-1 落石防護柵

  我が国の海岸線や山岳部の道路沿いには、落石などから道路交通の安全を確保するための様々な落石防護施設が建設されています。

  それら施設の一つである落石防護網や落石防護柵(写真-1)は、ワイヤロープ、ひし形金網、H形鋼支柱等の比較的入手しやすい鋼製部材からなる構造物であり、比較的小規模な落石対策用として道路際に数多く設置されてきました。

  しかし海岸線などの腐食環境の厳しい条件下では、長期間の使用によって腐食等の劣化が進行してくる場合があり、今後はこれら鋼製部材からなる落石防護施設の維持管理が重要な課題になるものと想定されます。






写真-2 廃道区間より採取したワイヤロープの外観と断面の状況
写真-2 廃道区間より採取したワイヤロープの外観と断面の状況

  寒地構造チームでは、上記のような落石防護施設の維持管理に係る技術資料の策定に向け、民間企業との共同研究を進めています。

  その中では、現地に設置された落石防護施設の劣化損傷状況に関する資料を収集し、各種鋼製部材のどの部分に劣化が多く発生しているかなどの現状把握を行うとともに、採取したワイヤロープ(写真-2)や金網等の劣化部材に対する各種載荷試験を実施し(写真-3,4)、腐食劣化により耐荷力がどの程度低下しているのかを確認しました。






写真-3 上記ワイヤロープの引張試験状況
写真-3 上記ワイヤロープの引張試験状況
写真-4 腐食劣化金網の重錘衝突実験状況
写真-4 腐食劣化金網の重錘衝突実験状況


  今後、腐食劣化したH形鋼支柱の載荷試験を実施するとともに、収集した情報に対し、さらに詳細な分析を加え、現場での効率的な調査点検手法や腐食劣化部材の補修対策、部材交換のタイミングなどのメンテナンス手法や腐食劣化した部材を有する落石防護施設の安全性評価手法について提案していきたいと考えています>



(問い合わせ先 : 寒地土木研究所 寒地構造チーム)

融雪期に発生する舗装の損傷対策技術に関する研究

写真-1 融解期のポットホール発生状況
写真-1 融解期のポットホール発生状況

  1.はじめに

  積雪寒冷地の舗装は、融雪水や凍結融解作用などによって影響を受け、融雪期に様々な損傷が発生しやすくなります。特に近年は、老朽化の進行なども重なって、写真-1に示すようなポットホールの発生が目立つ状況にあります。ポットホールは道路利用者への影響が大きいため、発生した場合の対応技術から根本的な発生抑制技術が求められています。

  当チームでは、ポットホールの発生状況把握、予防保全、点検診断、舗装の耐久性向上などに関する技術開発に幅広く取り組んでおり、その取り組みの一部を以下に紹介します。






写真-2 赤外線画像による調査例
写真-2 赤外線画像による調査例

  2.赤外線カメラを用いたポットホール発生事前検知技術の開発

  融雪期にポットホールが発生する可能性が高い部位を、秋期などの発生前の時点で赤外線カメラを用いて非破壊診断する技術の開発に取り組んでいます。現道での秋期の赤外線計測結果と、その後の融雪期のポットホール発生部位の対応関係を調べた結果、融雪期にポットホールが発生する部位は、秋の段階で周辺部に比べて赤外線画像に局部的な異常が認められる(昼間は低温に、夜間は高温になる傾向を示す)ことが確認されました。

  また、赤外線画像異常部分の舗装内部の確認調査を実施した結果、内部に水分の含浸や混合物の砂利化などの変状が認められました(写真-2)

  ただし、秋の段階で温度変状が見られてもポットホールの発生に至っていない箇所も多く存在していることから、検知の確実性を高める取り組みを現在行っているところです。





図-1 スコアとポットホール有無の関係
図-1 スコアとポットホール有無の関係


  3.深層学習を用いたポットホール検出技術の開発

  人工知能(AI)分野における強力な学習方法として近年注目を浴びている、深層学習(ディープラーニング)の手法を用いて、車載カメラ画像からポットホールを自動検出する技術の開発も進めています。供用中の道路で車載カメラにより収集したポットホールの可視画像を教師データとして学習させ、ポットホールを自動検出する処理モデルを作成しました。

  そして、その処理モデルを未知の検証データに対して適用した結果、図-1に示すようにポットホール有りの画像はスコアが高く判定される割合が高く、ポットホールの自動検出が一定程度は可能であることが確認できました。

  ただし、一方で、検出漏れや誤検出をすることも多く、様々な環境下で撮影された路面画像からポットホールを正確に検出するまでには至っていません。深層学習は新しい手法であり、この手法を舗装路面の評価に用いるための技術的なノウハウを蓄積し、検出能力の向上を図っていく予定です。



(問い合わせ先 : 寒地土木研究所 寒地道路保全チーム)

氷海域におけるコンクリート構造物の劣化とその補修補強技術の確立に向けた研究

写真-1 氷海域の過酷な自然環境とコンクリート構造物
写真-1 融解期のポットホール発生状況

  1.研究の目的

  社会基盤構造物は私たちの生活を支える重要な役割を担っていますが、その多くが今、老朽化の問題に直面しています。写真-1は、氷海域にある港の様子ですが、過酷な自然環境に曝され、想定以上に劣化が進行することも少なくありません。氷海域における劣化要因としては、塩害や砂による摩耗等のほか、寒冷地特有の凍害や海氷による摩耗(以降、海氷摩耗と称す)があげられます。そして、劣化はこれら要因が複合的に作用して進行します。当チームでは、氷海域におけるコンクリート構造物の複合劣化メカニズムの解明、補修補強技術の確立を目標に研究を進めています。




写真-2 氷海域におけるコンクリート構造物の劣化事例
写真-2 氷海域におけるコンクリート構造物の劣化事例

  2.氷海域におけるコンクリート構造物の劣化事例

  ここでは劣化事例をひとつご紹介致します。写真-2は、サロマ湖第1湖口にあるアイスブーム(湖内への海氷の進入を抑制する施設)の支柱部です。この部分は鉄筋コンクリート構造なのですが、海面付近が著しく劣化していることがわかります。海面付近は特に海から水分と塩分が供給されやすい部位で、水分の凍結や鉄筋の腐食による膨張によりコンクリートが弱くなります(凍害と塩害)。加えて、海氷摩耗により、著しく劣化したものと考えられます。



  3.研究内容の紹介

  本研究では、凍害と海氷摩耗の複合劣化に着目して研究を進めています。この複合劣化は図-1(左)に示すステップ1とステップ2の繰り返しにより進行するのではないかと考えています。

  ステップ1:コンクリート構造物が凍結と融解を繰り返し、水分の供給が多いコンクリート表面で微細なひび割れが発達する。

  ステップ2:弱くなったコンクリート表面を海氷が接触しながら移動する事により、その摩擦力でコンクリート材料が剥がれ落ちる。

  この研究を進めるにあたって、ステップ2の状態を再現するため、図-1(右)に示す、水中摩耗試験機を開発しました。これは、特殊な不凍液(フロリナートFC-770:3M製)で満たした水槽の中で、氷とコンクリート供試体を往復運動により摩擦させ、コンクリート供試体の摩耗量を調べる試験機です。フロリナート中では摩耗によるすり減り以外の要因で氷が痩せないため、従来の気中での試験に比べて、圧倒的に長い期間の試験継続が可能となりました。このような新しい技術の開発も行いながら、複合劣化に対する補修補強技術の確立に向けた研究を進めています。


図-1 想定される複合劣化メカニズム(左)と氷とコンクリートの水中摩耗試験(右)
図-1 想定される複合劣化メカニズム(左)と氷とコンクリートの水中摩耗試験(右)


(問い合わせ先 : 寒地土木研究所 寒地沿岸域チーム)

AIを活用した道路橋コンクリート床版の土砂化対策


  道路橋の床版に、近年見られる、コンクリートの水平ひび割れや土砂化は、路面の平坦性を早期に損なう傾向にあります。しかし、床版上面はアスファルト舗装で覆われていますので、舗装下で進行するコンクリートの土砂化が、まだ軽微なうちに早期に発見することが難しい状況にあります(図-1)


図-1 道路橋コンクリート床版の土砂化事例
図-1 道路橋コンクリート床版の土砂化事例

図-2 電磁波レーダ測定結果をAI技術で分析
(上:分析イメージ、下:分析結果の一例、土砂化の原因となる水の範囲を示す)
図-2 電磁波レーダ測定結果をAI技術で分析<br>(上:分析イメージ、下:分析結果の一例、土砂化の原因となる水の範囲を示す)


  これまで、舗装を剥がさずに床版上面の土砂化を発見するため、電磁波レーダ等の非破壊調査技術が開発されています。この技術は、舗装の上から床版のコンクリートの土砂化を検出する技術として期待されていますが、土砂化が一旦生じてからでは、その後の床版の補修が容易ではありません。このことから、床版の予防保全を目指して、土砂化の原因となる舗装下の水を、電磁波レーダで早期に検知する非破壊調査技術に力を入れています。しかし、そのために得られるデータは膨大であり、煩雑な分析作業を伴います。そこで、AI技術を活用して、データを精度よく、効率的に分析する方法を検討しています(図-2)

  その際、非破壊調査で得られる情報が正しいことを検証する必要があり、健全時、損傷時それぞれの実現象を表す直接的なデータを得る必要があります。




写真-1 道路橋床版の非破壊調査の状況
(現場での若手技術者も交えた意見交換)
写真-1 道路橋床版の非破壊調査の状況<br>(現場での若手技術者も交えた意見交換)

  こうした背景から、土木研究所では、国土交通省や地方自治体と連携して、まず床版土砂化の課題の共有を図っています。またこの連携を通じて、現地調査や撤去部材の調査を円滑に行っています(写真-1)

  報告が増えつつある道路橋コンクリート床版の土砂化については、原因を含めてまだ解明すべきことが多く残されています。現場での改善をはじめ、多くの方々の調査検討が今後も引き続き必要です。協力の輪を広げることを意識して、最近の現場における、道路橋コンクリート床版の土砂化の現状を資料にとりまとめ、広く普及に努めています。


  注) 資料はホームページに公開しています。

  https://www.pwri.go.jp/caesar/profile/pdf/d4398.pdf

  (土木研究所資料、第4398号、2020.3)



(問い合わせ先 : 構造物メンテナンス研究センター 橋梁構造研究グループ)