研究の紹介

植物の生育を考えたのり面保護方法の検討

写真-1 植物の生育初期の土砂流出例
写真-1 植物の生育初期の土砂流出例



  道路や堤防の盛土のり面や切土のり面では、降雨により生じる流水でのり面表面の土砂が流出しないように、植物の根の成長を利用したのり面の保護方法(植生工)が多く用いられています。植物の利用は環境に配慮した方法ですが、植物の根が十分に成長していないと写真-1のように表面の土砂が流出してしまうという課題があります。








根の成長と土砂の保持効果

  では、どのくらいの期間があれば植物の根が十分に成長して写真1のようなことは起こらなくなるのでしょうか。

  そこで、張芝を使った簡単な模型実験により、根がどのくらい成長すると土を保持することができるかを調べてみることとしました。30cm×60cm×30cmの箱に一定量の土を詰めてその上に張芝をした模型を複数用意し、関東平野部での芝の生育期間(根・葉・茎等が成長する期間)が4月~10月であることを考慮して、未成育時期、生育期間3か月経過後、生育期間7か月経過後に、それぞれ2つの模型を用いて短い辺の側面を上から15cm開口して30度に傾けて時間雨量50mmの人工雨を4時間与えて(計200mmの降雨)、開口部から流出した土の量を計測し、実験後に模型の土を洗い出して根の成長状況を調べました。

  その結果が写真-2および図-1です。根が伸長していない状況では、箱の中の約25%の土が流出しましたが、3か月経過時点で約5%まで減少し、1年目の生育期間を満了する7か月で1%程度とほとんど流出しない状態になりました。根の成長状況を見ると3か月程度では、20cm程度の根がまばらな状態ですが、7か月経過後には多くの根が絡みあう状態になっています。

  


写真-2 実験模型と根の生育状況
写真-2 実験模型と根の生育状況
図-1 植物の生育初期の土砂流出例
図-1 植物の生育初期の土砂流出例


写真-3 補助工法の実験例
写真-3 補助工法の実験例



植物が十分に生育していない期間の対応方法の検討

  植物の根が十分に成長していない期間も(前述の実験では生育期間数か月間を経過するまで)、写真-1のような土砂流出が起こらないようにする必要があります。このため、根の成長を妨げることのない簡便な補助工法の検討を行っています。高さ2mの盛土をつくり、植物の根の成長に必要な表面30cm部分について、砕石を混合する方法、砕石で排水層を設ける方法などの補助工法について降雨に対する効果の確認を行いました。写真-3は実験の例です。左側は補助工法のないもので、時間雨量20mmの人工雨を20分与えた時点で土砂が流れ出ています。一方、右側は砕石を混合する方法の例で、時間雨量100mmの人工雨を4時間与えた時点の状況で、表面がわずかに流れていますが大きな効果があることがわかります。

  このほかにも、土質・振動チームでは道路盛土や河川堤防等のり面災害に対する様々な検討を行っています。



(問い合わせ先 : 地質・地盤研究グループ 土質・振動チーム)



人工衛星を活用した火山噴火後の土石流災害を軽減するための研究紹介
-内閣府・戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)-


  「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP:エスアイピー)」は、科学技術イノベーションを実現するために2014年に創設された国家プロジェクトです。2018年度から第2期の12課題が内閣府によって進められています。

  12課題の中のひとつ「国家レジリエンス(防災・減災)の強化」では、国内の産学官の多数の機関に所属する研究者や技術者によって、地震、洪水、土砂災害、火山災害などに関する防災・減災の研究や、災害状況を把握するための技術開発が実施されています。

  私たち火山・土石流チームは、この課題のひとつ「大規模災害対応時における被災状況解析・予測」を行う研究の一部を担当しています。他機関の研究者とともに、どんな技術を研究しているのか紹介します。


図-1 被災状況解析・共有システム開発
>図-1 被災状況解析・共有システム開発
(防災科学技術研究所ホームページより引用)



  共同研究する研究者には、地球観測衛星による観測データを即時に共有するシステムの開発(図-1)や、その衛星データを防災・減災に利活用できるように分析する研究者がいます。火山噴火に関していうと、(国研)宇宙航空研究開発機構(JAXA)の地球観測衛星ALOS-2が搭載している合成開口レーダ(SAR)というセンサで取得したデータ等を分析して、火山噴火で噴出した火山灰が堆積した範囲やその厚さ(降灰厚という)を測る技術を、(国研)防災科学技術研究所や鹿児島大学、(一財)日本気象協会の研究者が研究しています。そこで、私たちは、その降灰厚の範囲のデータを受け取り、降灰がある山に雨が降ったときに、どこにどれくらいの大きさの土石流が流れてきて、どこで災害が発生しうるか予測する技術の開発を行っています(図-2)

図-2 私たちが開発中の降雨後の水の流れと土石流の流れを予測する計算技術
図-2 私たちが開発中の降雨後の水の流れと土石流の流れを予測する計算技術

  台風など大雨の時は毎年のように山で土石流が発生しています。噴火と土石流はどのように関係するのでしょうか。噴火時に火口から飛び出すものには、大きな火山礫や細かい火山灰などがあり、火山灰は細かいものほど風にのって遠くまで飛ぶので広く堆積します。細かい火山灰に覆われた斜面では水がしみこみにくくなるため、雨が降ったときに火山灰の表面(斜面)を流れる水が多くなります。すると、その水が火山灰など不安定な土砂を巻きこみながら流れやすくなり、だんだんと土石流に発達します。弱い雨でも土石流が起こりやすくなります(図-3)。住民が事前に避難するためには、土石流の流れる範囲があらかじめ分かってないといけません。


図-3 火山噴火前後の降灰の様子(左)、降灰による水の流れの変化(右)
(Pierson and Major, Annu.Rev. Earth Planet. Sci. 2014, 42:469-507より引用)

  このようなことから、噴火後の土石流の被害を小さくするための技術開発に取り組んでいます。



(問い合わせ先 : 土砂管理研究グループ 火山・土石流チーム)

運搬排雪作業における路肩堆雪成長傾向の研究


1.研究の背景

写真-1 「運搬排雪作業」
写真-1 「運搬排雪作業」


  円滑な冬期道路交通確保のため、道路管理者等は効率的に路肩堆雪の運搬排雪を行うことが求められます。「運搬排雪」とは、降雪や除雪により道路の路肩に蓄積された「路肩堆雪」を、車両等が通る車道幅を確保するために取り除く作業です(写真-1)

  路肩堆雪の成長傾向(大きさの推移)がわかれば、運搬排雪工法の種類や実施時期等のより効率的な判断が可能となり、運搬排雪計画立案の基礎資料としての活用が期待できます。

  具体的には、路肩堆雪の成長を予測して、実施時期も含め「1回で全ての雪山を取り除いた方が良いか」、「複数に分けて少しずつ雪山を取り除くのが良いか」等のシミュレーションができるような研究に取り組んでいます。



2.研究方法と結果

図-1 研究方法と結果

図-1 研究方法と結果



  路肩堆雪の大きさの推移を予測するため、路肩堆雪の成長に影響すると考えられる各種要素(道路状況・除雪状況・気象状況)と路肩堆雪断面積の実測値を用いて、関係性を調べる分析を行いました(図-1)。運搬排雪の工法には、路肩堆雪の全てを取り除く「巻出(まきだし)」と堆雪の一部を残す「拡幅」があります(図-2)

図-2 運搬排雪工法の種類
図-2 運搬排雪工法の種類


  堆雪の大きさを示す指標として「堆雪断面積」に着目しました。「堆雪断面積」を指標とすることにより、堆雪断面積に工区延長を乗算すれば排雪量(作業量)の把握が、別途分析すれば堆雪断面積から排雪速度の予測が、それぞれ可能になります。

  分析の結果、路肩堆雪の成長には「最深積雪深」、「運搬排雪(巻出)回数」と「運搬排雪(拡幅)回数」などの影響が大きいとわかりました。

  その結果の活用により、リアルタイムの気象観測値や当該年度に近い過去の年間降雪パターンを選択して、当該シーズンやこれから先の堆雪断面積を予測することが可能になりました。



3.研究の活用方法

図-3 堆積断面積の推移を予測するシステム
図-3 堆積断面積の推移を予測するシステム


  分析結果を用いて「堆雪断面積の推移を予測するシステム」を開発しました(図-3)。対象ユーザーは道路管理者や維持除雪工事請負者で、運搬排雪の実施時期や工法のシミュレーションも可能です。

  さらに、運搬排雪の効率化に向け、予測精度の向上やシステムの改良等を進めています。





















(問い合わせ先 : 寒地土木研究所 寒地機械技術チーム)

「第25回土と基礎に関する勉強会」を開催しました



写真1 北海道胆振東部地震による宅地被害
写真1 北海道胆振東部地震による宅地被害

北海道の地盤と寒地地盤チームの研究

  北海道には、泥炭や火山灰のような特殊な土が広く分布しています。泥炭は、沼とか湖などの湿地に生えているヨシやスゲなどの植物が、枯れて倒れて積もってできた土です。非常に軟らかい土ですので、道路や河川堤防を作るときに、地盤のすべり破壊や沈下などの問題が起きます。火山灰は、火山活動による噴出物が積もってできた土で、北海道の全面積の約40%以上に存在するといわれています。平成30年9月6日に発生した北海道胆振東部地震によって、札幌市里塚地区で発生した宅地被害(写真1)は、火山灰を用いた盛土が液状化したことがわかっています。

  また、北海道は寒冷地であるため、土の凍上や凍結融解などに起因する地盤災害が発生しやすい気象条件であること、さらには地震の多発地帯であることも忘れてはいけません。つまり、北海道は、社会基盤を効率よく整備し、それを適切に維持管理していく上で、大変厳しい地盤環境にあるといえます。そこで、寒地地盤チームでは、これらの問題解決を目指した研究・技術開発を継続して実施してきています。

  研究・技術開発の成果は、広く社会に認知され、実際に活用して頂くために、様々な機会を利用して情報発信しています。今回のWebマガジンでは、これらの技術普及活動の一環として実施した「土と基礎に関する勉強会」について報告します。




写真2 勉強会の様子
写真2 勉強会の様子

土と基礎に関する勉強会

  寒地地盤チームでは、令和2年10月15日から16日にかけて、「第25回土と基礎に関する勉強会」を開催しました。本勉強会は、国土交通省北海道開発局(以下、開発局)の技術職員を対象に、平成5年に第1回を開催した以降、ほぼ毎年継続して実施しています。今年は「盛土構造」をテーマに、開発局の各開発建設部から18名の参加がありました(写真2)

  本勉強会は、講習会のように講師から一方的に寒地地盤チームの研究成果等を参加者に説明・紹介するものではなく、参加者が担当する各自の現場の施工事例、課題、工夫などについて発表し、参加者全体で意見交換するというものです。この意見交換において、関連するチームの研究成果を紹介しますので、実務の問題に直結した技術普及活動といえると思います。さらに、寒地地盤チームのメンバーにとっては、現場が直面する課題を知り、新たな研究テーマ発掘のための重要な機会にもなっています。

  寒地地盤チームでは、今後も研究成果の公表や普及活動を積極的に進めていく予定です。




(問い合わせ先 : 寒地土木研究所 寒地地盤チーム)

沿岸構造物周辺における廉価版ROVを用いた魚類モニタリングに関する研究


図-1 沿岸構造物の水産生物の保護育成機能等の概念
図-1 沿岸構造物の水産生物の保護育成機能等の概念


  漁港等の沿岸構造物は、水産物を安定供給する本来機能とともに、岩礁のような構造や静穏性から、水産生物への保護育成機能を有しています(図-1)。近年の水産資源の低迷に対して、沿岸構造物にはそれらの機能の強化が求められており、そのためには、基礎情報として構造物周辺における魚類の生息状況を継続的かつ広域的に把握する必要があります。従来は視覚調査を中心に、主にダイバーによるSCUBA調査が行われてきましたが、今後の調査に際しては、省力化、時間短縮および定量的な観測が可能となるモニタリング手法が不可欠と言えます。これまで、光学カメラを備えた遠隔操作型無人潜水機(ROV)は、大型で高額な物でした。しかし、最近では、小型で安価、高性能なものが販売されており、これら廉価版のROVを用いることで、調査の効率化が図られると考えられます。


  そこで本研究では、沿岸構造物周辺での魚類生息特性把握のための、安価で定量的な魚類モニタリング手法を検討するため、廉価版ROVを用いた水槽や現地試験、従来のSCUBA調査との比較検証を実施しました。

  大型回流水槽での試験により、使用した廉価版ROVは、漁港内で生じる流速では安定的な操縦が可能であることが分かりました。また、水槽内で解析用カメラでの水中濁度の増加による魚の見え方の変化を確認したところ、多くの日本海側漁港では魚を判別することが可能であると考えられました(表-1)


  加えて、漁港内でROVと魚との距離の違いによる魚の見え方の違いを確認したところ、港内に多く生息する全長10cm程度の小型魚では、1.5m以内に近づくことで魚種の判別が可能になると考えられました。最後に、漁港内で実施した魚類モニタリングでは、ROV調査は、SCUBA調査と同程度の魚の個体数や分類群数を観察することができました(写真-1)


  これらのことから、廉価版ROVは沿岸構造物周辺での魚類モニタリングに使用できる可能性が高いことが明らかになりました。まだ現地試験数が少ないため、これから様々な場所や季節での試験を積み重ねていくことで、利用しやすい廉価版ROV魚類モニタリング方法を構築して行く予定です。



表-1 水の濁度による魚の見え方の違い<br>魚判別は水槽全体の赤丸部を拡大した写真
表-1 水の濁度による魚の見え方の違い
魚判別は水槽全体の赤丸部を拡大した写真

写真-1 廉価版ROVでの魚類モニタリングの様子
写真-1 廉価版ROVでの魚類モニタリングの様子









(問い合わせ先 : 寒地土木研究所 水産土木チーム)