研究の紹介

冬期路面予測の広域化手法の開発


図-1 計測車両による路面温度測定

図-1 計測車両による路面温度測定
(右:放射温度計はラジエターの前に下向きに設置)



図-2 北海道内における路面温度および路面状態の予測実施区間(赤・緑の太線で示す区間)

図-2 北海道内における路面温度
および路面状態の予測実施区間
(赤・緑の太線で示す区間)



図-3 冬期路面管理支援システムによる路面凍結予測結果の表示例

図-3 冬期路面管理支援システムによる路面凍
結予測結果の表示例

研究の背景


  積雪寒冷地においては、冬期間の降雪や路面凍結等が道路交通に多大な影響を与えることから、円滑で安全な道路交通を確保するため、除雪や凍結防止剤の散布等の冬期道路管理が行われています。しかし、人口減少、高齢化、国の財政の制約などが全国的に大きな課題となっており、冬期道路管理においても効果的、効率的な運用が求められています。



研究成果の概要


  寒地交通チームでは、北海道の国道を対象に冬期の路面温度と路面状態の予測を行う冬期路面管理支援システム、凍結防止剤の散布効果を事前予測する冬期路面改善シミュレーター等を道路管理者に提供し、冬期道路管理の効率化に貢献しています。このうち冬期路面管理支援システムについては、サーマルマッピングデータ(道路の縦断方向の路面温度分布の計測値)と気象データを基に計算を行っていますが、サーマルマッピングデータは路面温度を計測できる機器を設置した車両(図-1)を走らせてデータを取得する必要があることから、多大な費用と労力を要しています。このため現状では、予測可能区間が北海道の国道約6,700kmのうち約600kmに限られていました(図-2)。また、計算に1時間以上かかるという課題もありました。これらの課題を解決するため、気温と路面温度の関係式と気象メッシュデータを用いて仮想サーマルマッピングデータを生成して路面予測に利用するとともに、沿道環境が単純な区間の計算点数を減らし、減らした地点のデータは線形補間(データの間を線形と仮定して近似値計算する方法)することで計算速度を改善する手法を開発しました。これにより、従来手法と同等の予測精度が得られるとともに、計算時間が従来の10%程度に短縮されました。令和元年度冬期からは、この手法を冬期路面管理支援システムに組み込み、路面状態等予測区間を約100km増やしています(図-3)。今後も仮想サーマルマッピングデータを順次計算し、提供する情報を充実させていきます。










(問い合わせ先 : 寒地土木研究所 寒地交通チーム)

酸性硫酸塩土壌の簡易判定の取り組み


写真-1 酸性硫酸塩土壌

写真-1 酸性硫酸塩土壌



図-1 オキシドール混合後の未酸化ASSのpHの変化
図-1 オキシドール混合後の
未酸化ASSのpHの変化



図-2 オキシドール混合後の非ASSのpHの変化
図-2 オキシドール混合後の非ASSのpHの変化

  酸性硫酸塩土壌(以下、ASSと記す)は、酸化して硫酸になりやすい硫黄化合物を多く含むために、空気に触れると酸化が進み強酸性になるか、すでに強酸性になっている土壌です。水の中に浸かって還元状態(酸素が不足した状態)にある場合はほぼ中性で問題は生じないのですが、掘り返したり排水したりして空気(酸素)に触れさせた状態(酸化状態)では、硫酸が大量に生じるため、土壌のpHが急激に低下し強酸性になります。植物は枯れ、金属やコンクリートは腐食してしまう厄介な土壌です。

  ASSは、硫酸イオンを含んだ海などの水中で、有機物を含んだ土壌が還元状態の中で堆積すると硫化水素が発生し、これに土壌中の二価鉄が反応して、硫黄化合物である硫化鉄鉱物が形成されることで生成します。このため、ASSは、多く見られるのは海水の影響を受ける海岸沿いの低平地や河口域ですが、海底が隆起してできた土層や火山活動の中で生成された土層の中などでも偏在した形で見られます。

  ASSは、還元状態では黒色~灰色で青みがかっていて、酸化状態では赤褐色~薄灰色がかった黄色になります(写真-1)。また、土塊の破断面から硫化水素の卵の腐ったようなにおいがすることもあります。しかし、ASSはにおいがしないことの方が多く、風化した泥岩や還元状態にある土壌も青みがかった灰色なので、ASSか否かをその場ですぐに判定するのは困難です。実際には、その判定は、過酸化水素水(H2O2 30%程度)で強制的に酸化させてからpH値を測定する方法で行うことになりますが、過酸化水素水は毒物及び劇物取締法で劇物に指定されていて入手、取り扱いともに難しいです。このため、工事の現場では、ASSか否か疑わしい場合には専門機関に分析・判定を依頼します。判定結果が出るまでの1~2週間ほどは、その箇所の工事を中断せざるを得ません。

  資源保全チームでは、工事の現場で数時間のうちに簡単で手軽に判定できる方法の開発を目指して、ASSの簡易判定の研究を行っています。酸化させるために、過酸化水素水の代わりに、簡単に購入できて取り扱いも容易なオキシドール(H2O2 3w/v%程度)を用いて判定する方法です。室温20℃で、道内各地から採取した試料とオキシドールを土液比1:5で混ぜて攪拌した後静置すると、未酸化ASSでは、6時間後に15試料のうち13試料はASSの判定基準である3.5以下のpH値を示しました(図-1)。しかし、まったく反応を示さなかったのが1試料(原因は、マンガンを多量に含み、そのマンガンが活発な発泡を伴ってH2O2を水と酸素に分解してしまうことにあります)、反応が遅くpH値が3.5以下まで下がり切れていないのが1試料ありました。また、非ASSでは、24試料のうち1試料が低いpH値を示し続けました(図-2)。当チームでは、こうした例外の反応を示すものも含めてASSか否か判定できるようにするべく研究に取り組んでいます。





(問い合わせ先 : 寒地土木研究所 資源保全チーム)