研究成果の紹介

土木事業における地質・地盤リスクマネジメントのガイドライン


図-1 連携における情報共有・伝達

図-1 連携における情報共有・伝達



図-2 リスクマネジメントのプロセス

図-2 リスクマネジメントのプロセス



1.はじめに


  地質・地盤の分布は複雑で性状も均一とは限らず、これらを事前に把握することは難しいため不確実性が大きいという特徴があり、このような不確実性は工期の遅延や事業費増大、事故の発生といった事業の効率性や安全性に大きな影響を与えます。国土交通省と土木研究所では、地質・地盤の不確実性の影響(=「地質・地盤リスク」)を考慮して安全かつ効率的に土木事業を進めるため、令和2年3月に「土木事業における地質・地盤リスクマネジメントのガイドライン」を公表しました。



2.地質・地盤リスクマネジメントの体制


  地質・地盤リスクマネジメントはこれまで意識せずに行われていた地質・地盤リスクへの対応を体系的、組織的に行うものであり、従来ある取り組みや制度を活用しながら導入・運用していくものです。導入にあたっては、技術的な検討のために必要な専門知識を有する関係者による体制を構築します。このとき、図-1のように他の関係者に必要な情報や認識を共有・伝達して、相互に強い連携を図ることによって、個別に役割を果たした場合よりも大きな成果を得ることが期待されます。



3.地質・地盤リスクマネジメントの進め方


  地質・地盤リスクマネジメントは、どの段階や工程でリスクに対応することが有利となるか考え、事業の進め方の戦略を立てるものです。図-2のように「②リスクマネジメントの計画」、「③リスクアセスメント」、「④リスク対応」のプロセスで進めながら、事業の各段階で対処したリスク、残存するリスクの情報を引き継いでいきます(図-3)。また、事業の早い時期から着手し、事業の進捗に応じて変化するリスクに応じ、プロセスや体制を継続的に見直していくことが重要です。


図-3 リスクの引き継ぎ・対応のイメージ

図-3 リスクの引き継ぎ・対応のイメージ


4.おわりに


  土木研究所では、地質・地盤リスクマネジメントの適用拡大と運用支援のため、国土交通省、関連する学協会とともに、研究および普及活動を継続していく予定です。


注)ガイドラインの詳細については、HPを参照ください。

(https://www.pwri.go.jp/jpn/research/saisentan/tishitsu-jiban/iinkai-guide2020.html)



(問い合わせ先 : 地質・地盤研究グループ 地質チーム)

いま求められる切欠き魚道の開発 ~ 圧倒的「低コスト型」魚道 ~


1.いま求められる魚道とは?


  近年、生物多様性保全のため河川の縦断的な連結性に加えて、本川と支川・田畑・氾濫原などとの横断的な連結性も求められ魚道の必要性は増しています。しかしながら、河川管理者の財政事情などにより多くの河川横断工作物(以下、工作物)は、対策が行われず放置されているのが現状です。工作物において魚類等の水生生物(以下、魚類等)を遡上させるには魚道設置や工作物の撤去などが検討されますが、いずれも工作物の高さが大きくなるほど対策コストは膨大になります。より高効率、低コスト、低メンテナンスで魚類等の遡上を実現するためには、工作物の安全性を十分確保した上で工作物自体への簡易な掘削を行う方策も有効な一案だと考えられます。そこで本研究は、既設工作物に切欠き(スリット)を入れる工事方法を案出することで低コスト型切欠き魚道を開発しました(写真―1)



写真―1 施工前の河川横断工作物(左)、切欠き魚道設置後の河川横断工作物(右)
2.4 mの水面落差が0.2 mに減少
写真-1 施工前の河川横断工作物(左)、切欠き魚道設置後の河川横断工作物(右)
2.4 mの水面落差が0.2 mに減少
(切欠き魚道の効果:1.2m、下流側土砂堆積の効果:1.0m)


2.圧倒的低コストでの切欠き魚道設置


  工作物自体の安全性を十分に確保し工作物の管理者の許可を得ることで、切欠き魚道の設置は可能となります。切欠き魚道は、既存工作物の掘削が主な工程であるため通常の魚道設置や工作物の撤去と比較して、大幅にコストを縮減することができます。例えば、高さが3 m程度の工作物で魚類等の遡上を検討した場合、通常魚道を設置すると工事費用は2~3千万円程度、工期は半年程度かかりますが、切欠き魚道の設置では工事費用が数十万円、工期が1~3日間という大幅な低コスト化・工期短縮を実現できます

  国内外の河川事業で活用できるほか、田畑に魚を呼び戻すエコ農業と親和性が高いのも特徴です。水利権が設定されている工作物等は別途検討が必要ですが、写真―2のように下流側に水位をある程度確保でき、高さが概ね3 m以下の工作物であれば、切欠き魚道を設置することで遡上効果を十分に発揮させることができます。



写真―2 切欠き魚道の適応

写真-2 切欠き魚道の適応


3.すべての水生生物を遡上可能に


  切欠き魚道では、小型魚や甲殻類などの多様な水生生物の遡上を可能にするため、細部にわたる工夫として:①魚道内へ陰影部の創出を目的に水路の壁を奥に削りオーバーハングを設置、②魚道内の様々な流速の創出を目的に粗石の設置、③魚道内の流速低下などを目的に底面を粗く削り粗度の向上、④水脈の下に空気を入れないことで魚類等が魚道内へ進入しやすくなることを目的に落ち口の曲面化、を設置しました(写真―3)。上記4点の工夫は、これまでその遡上効果を明確にした上で既存魚道内に複数同時に配置した事例はほぼ皆無でした。



写真―3 細部にわたる効率的な遡上の工夫

写真-3 細部にわたる効率的な遡上の工夫


4.生物多様性保全の推進


  財政難の自治体や市民団体等でも切欠き魚道は設置でき、大幅なコストダウンで生物多様性の保全に寄与できます。市民と企業のCSR活動等との協働による自然保全活動や啓発活動に発展することも見込むことができ、切欠き魚道の技術はその活動に大きく貢献するものです。切欠き魚道の第一号は、仙台市の小堰堤に設置され魚類等が遡上を始めています。現在は、官民学による多自然ワークショップや、切欠き魚道上流での魚類生息調査が活発化しています。

※掘削方法や安全性確保等の詳細は解説動画や論文をご覧ください

https://www.pwri.go.jp/team/kyousei/jpn/events/m5_r2_01.htm



(問い合わせ先 : 自然共生研究センター)

写真画像などから景観や空間の評価を行う際の「評価サンプルに映る要素」の影響


  公共事業の実施において計画・設計案の比較や施工前後の比較など、写真やフォトモンタージュ(実写真を基に加工したもの)の評価サンプルを用いて、景観や空間を評価する場合があります。その際、評価サンプルに映る人物や車両、天候、その構図等によって印象が変わるとされており、これらの影響を理解した上で評価サンプルを作成することが必要です。

  しかし、その影響について印象評価実験などで確認されている事例が十分でないため、地域景観チームでは、評価サンプルに映る要素を変えた印象評価実験を行い、それらの要素が評価結果に与える影響を分析してきました。評価結果への影響は、対象となる景観や空間のタイプや特徴から多少の違いはありますが、これまでの実験から得られた結果を表-1に示します。このうち、影響が大きいと考えられる天候や人物の映り込みが評価結果に影響を与えた評価サンプルの例を図-1に示します。これらの知見を知ることにより、公共事業における景観や空間の予測やその評価を行う際、より精度が高まると考えます。なお、今後、これらの結果をまとめたポイントブックを発行する予定です。



                       表-1 評価結果への主な影響 【影響度合の凡例】◎:影響が大きい ○:影響がある △:影響が小さい

表-1 評価結果への主な影響
注)画角とは、カメラの焦点距離で表され、焦点距離が短いほど撮影範囲は広くなる。


図-1 天候や人物の映り込みが評価結果に影響を与えた評価サンプルの例
図-1 天候や人物の映り込みが評価結果に影響を与えた評価サンプルの例

「河川散策路のある空間に魅力を感じますか」等を6段階で聞き、その評価結果を分析した結果2)、①<②<③の順で評価平均値が高くなり、①と②、②と③の間で評価平均値に有意差が認められた。






[参考文献]

1) 小栗ひとみ、岩田圭佑、松田泰明:サンプルの作成方法が評価結果に及ぼす影響~SD 法を用いた景観評価技術のパッケージ化に

   向けて~、土木計画学研究・講演集、Vol.52、2015.

2) 田宮敬士、笠間聡、松田泰明:画像に映る雲や日光が景観評価結果に及ぼす影響-景観予測・評価技術の提案に向けて-、第64回

   北海道開発技術研究発表会、2020.(投稿中)



(問い合わせ先 : 寒地土木研究所 地域景観チーム)