研究の紹介

自律施工技術基盤の整備


  近年、少子高齢化に伴う建設産業の就労者の減少が課題となっており、今後の建設産業を支えていくためには、建設作業の生産性向上が不可欠となっています。このような状況のもと、民間企業などでは生産性向上を目指し、建設機械の自動化・自律化に向けた研究・開発が進められていますが、現状それぞれが独自の信号ルールに基づき機械の通信・制御を行っています。このようなクローズドな研究・開発が行われることは、研究・開発の重複を招くのみならず、意欲のある企業や大学等の研究・開発への参入を難しくしています。この状況を打破すべく、先端技術チームでは、①統一された信号ルール(協調領域)、②自律施工技術基盤(プラットフォーム)の整備に取り組んでいます。


① 協調領域(図-1)

  建設機械を制御するための統一された信号ルール(協調領域)を定めることで、機械の自動化・自律化を目指した研究開発の重複を防ぐことができるようになります。また、共通したルールの下で機械の制御が可能となるため、建設機械の使用者はメーカの異なる様々な機体を切り換え、組み合わせながら利用できるようになることが期待されます。



図-1 協調領域のイメージ
図-1 協調領域のイメージ


② 自律施工技術基盤 (図-2)

  統一された信号ルールに基づき、一連の自律施工を行うための技術基盤(プラットフォーム)を整備します。図-2に示す通り、本プラットフォームは電子制御化された建設機械と、バーチャル建設機械が含まれます。実機は、①で定められた協調領域に基づき制御されます。開発された自律施工プログラムの機能や性能は、建設DX実験フィールドで試験によって検証することができます。他方、自律施工に向けた開発には、安全性や開発コストの観点から、シミュレーションの活用が有効となります。電子制御化された建設機械や建設DX実験フィールドを再現したバーチャル環境で試験を繰り返すことで、研究・開発を効率的・効果的に行うことができます。このような研究・開発から実際の施工にまで活用できるプラットフォームをオープンソース化することで、参入障壁が下がり、自律施工技術の研究・開発が加速化されることを期待しています。

  今後は、提案スキームに基づく一連の自律施工技術を確立し、所内での自律施工デモや技術競技会等を実施する予定です(写真―1)。協調領域、プラットフォームの仕様は関係者との意見交換やすり合わせを通して改良を行っていきます。



図-2 提案プラットフォーム概要
図-2 提案プラットフォーム概要
写真-1 自律施工デモ作業例(掘削・積み込み・運搬)
写真-1 自律施工デモ作業例
(掘削・積み込み・運搬)





(問い合わせ先 : 技術推進本部 先端技術チーム)

耐寒剤の補修工事への適用技術の開発


1.研究の背景

  日平均気温が4℃以下となる時期に施工される寒中コンクリート工事では、十分な強度を発現する前にコンクリート中の水分が凍ってしまうと設計した強度を確保できなくなるため、仮囲いを設置し、ジェットヒーター等で給熱養生を行うことが一般的です。しかし、補修工事など打設量が少ない場合は、仮囲いの設置・撤去の手間や給熱養生にかかるコストが課題となっています。

  もう一つの方法として、簡易な養生とすることができる耐寒剤の利用が考えられます(図-1)。耐寒剤は、コンクリートの低温下での硬化を促進するとともに、凍結温度も若干下げる混和剤ですが、部材厚の薄い部材(厚さ40cm未満)では外気温の影響を受けて凍結し易いため、規定が無いほか、積算温度による強度発現の予測も不明確でした。この耐寒剤の研究中に現場からの相談に対応した事例を紹介します。



図-1 給熱養生と耐寒剤による簡易な養生
図-1 給熱養生と耐寒剤による簡易な養生

2.技術相談の内容

  現場では、前後の工程の制約から、PC桁の間詰コンクリート(厚さ約9cm)を初冬期に打設し、横締めが可能になる25N/mm²を早期に確保する必要がありました。仮囲いの設置は時間もコストも厳しいため、耐寒剤の使用が検討されたのですが、薄い部材で適用基準から外れるため、簡易なシート養生だけで強度を確保できるか等の詳細な検討が必要でした。


3.薄い部材への適用

  打設後24時間、コンクリート温度が最も低い箇所でも凍結温度以上に保つことができるのか、また7日後までに25N/mm²を確保できるのかを確認するため、事前に温度解析ソフトを用いて温度推定を行いました。

  解析に必要な温度特性値は既往の指針を参考にし、桁上面はブルーシートで覆う状態、下面側は開放状態として熱伝達率を設定しました。11月中旬10日間を打設日と想定し、過去5年分の全50ケースについて打設11日前から外気温を与え、打設2日前から打設までの間は桁の上面を15℃で暖める条件を与えました。この結果、打設後24時間の最低気温が-5℃を下回ると間詰コンクリートの一部が氷点下になることが分かったため、型枠の内側に断熱材を配置するとともに、打設後も上面から桁を暖める養生方法を提案し、十分な温度を確保しました(図-2)



図-2 間詰コンクリートの温度計測結果
図-2 間詰コンクリートの温度計測結果

図-1 計測車両による路面温度測定

図-3 積算温度と圧縮強度の関係
(配合試験)

4.積算温度による強度管理

  寒中コンクリート工事では、養生の打切りや型枠取り外し時期の適否の確認のため、材齢初期の圧縮強度の管理が重要です。耐寒剤を添加したコンクリートの強度発現が不明確のため、当該工事においては、配合試験において、所要の圧縮強度25N/mm²が養生温度21℃の下で得られたときの積算温度85℃日を必要強度に対する到達基準としました(図-3)。実施工時には、現場環境下に置いたテストピースの圧縮試験を併せて行い、温度が最も低い間詰コンクリート下部でも材齢6日目の横締めまでに85℃日、必要強度の確保を確認しています。また、その後の研究では、水セメント比と耐寒剤添加量の違いに対応した強度予測式を提案しています。


5.適用効果と今後の活用に向けて

  この現場では、部分的に給熱養生も行ったものの、耐寒剤を用いることで仮設工を大幅に縮減できたことから、合計850万円のコスト縮減、23日の工程短縮が可能となりました。

  今回のような知見を踏まえ、研究成果の指針への反映を提案し、現場の生産性向上に貢献していく予定です。


[参考文献]

池内祐太、藤野戸宏樹、長谷川諒:PCホロー桁のコンクリート冬期施工における耐寒剤の適用について~更なるコスト縮減効果を目指して~、第63回北海道開発技術研究発表会、2020.2






(問い合わせ先 : 寒地土木研究所 耐寒材料チーム)

底層環境に着目した停滞性水域の水環境管理技術に関する研究


1.はじめに

  湖沼やダムなど水の流れが遅くなる水域では、下層部には水温が低い或いは塩分濃度が高い水がたまり、上層部と下層部の間の水が入れ替わりづらくなる現象(成層)が起こります。そのような状態となった下層部の水中では、湖底に堆積した有機物の分解や底泥によって酸素が消費され無酸素状態となり、リンや窒素などの栄養塩が溶出して水質悪化が進行します。

  この対策として、曝気循環装置を導入して下層部に空気を送り込むとともに、上昇する泡で水を動かし上下の循環を促す方法があります。しかしながら、海水が混ざっているなど特殊な条件では、無酸素状態の下層部に毒性の高い硫化水素が発生している場合があり、上層部の水と混ざると魚の斃死などが起こる青潮の発生原因となってしまうことがあります。この場合には曝気循環装置を使用できないため、このような条件となる停滞性の汽水湖での水質改善対策技術の研究についてご紹介します。


2.酸素溶解装置(WEP)による酸素供給試験

  北海道内の海水が遡上する湖においては、遡上した塩水が下層部に滞留して成層を形成して、下層の貧酸素化が進行しています。本研究では下層部の貧酸素水塊に直接酸素を供給する装置を試験的に設置し、水質改善効果の検証を行っています(写真-1、図-1)

  地上のプラントで酸素濃度を90%まで上げた空気を水中の装置に圧送し、水中の装置内で酸素を水に溶け込ませてから湖内に吐出しています。図-2に装置運転時の鉛直水質分布をみると、運転開始前の8/21と比べて、吐出標高に溶存酸素(DO)、濁度の上昇が見られますが、塩分はほぼ変化なく、標高-6mの塩分の急変する高さが変化しないことが確認されました。このことから下層のみに溶存酸素を供給し、上層には影響しないことが確認されました。

  このとき硫化水素濃度が低減していることも確認し、同時にリンの濃度を低下させる効果も確認され、鉛直方向での影響の広がりもみられたことから、本装置によって硫化水素の削減を中心とした水質改善が可能であることがわかりました。今後は同様な条件の水域での水質改善対策の確立を目指して研究を進めてまいります。


写真-1 装置外観
写真-1 装置外観
図-1 断面位置図
図-1 断面位置図

図-2 酸素供給地点(吐出標高-7.5m)の鉛直水質変化
図-2 酸素供給地点(吐出標高-7.5m)の鉛直水質変化

(文責:杉原 幸樹、巖倉 啓子)






(問い合わせ先 : 寒地土木研究所 水環境保全チーム)