研究成果の紹介

新型コロナウイルス感染症拡大下における水災害対処能力向上の取り組み


  ICHARM(水災害リスクマネジメント・国際センター)では、水災害に関する研究成果の普及を図る観点からも、海外の政府関係者や研究者等を対象とした人材育成を行っています。これまで、世界各国の方々を対象とした人材育成は現地に出向いて行うことが多かったものの、新型コロナウイルスの世界的な感染症拡大によりそれが困難となったため、これを機にe-learning手法を開発し、水災害対処能力の向上に取り組んでいます。ここではその事例を紹介します。




洪水早期警報システム

図-1 洪水早期警報システム
(左:リアルタイム降雨分布、右:想定最大浸水深)



図-2 e-learningによるオンライン研修

図-2 e-learningによるオンライン研修



(1)西アフリカのニジェール川流域とボルタ川流域における取り組み


  ICHARMではニジェール川、ボルタ川流域における洪水早期警報システム(FEWS)の構築(図-1)と、e-learningによる「専門家研修」を2020年8月~2021年1月に行うとともに、その修了者について最新の科学技術と地域社会を繋ぐ役割を担う「ファシリテータ」として育成すべくよりレベルの高い「トレーナー研修」を2021年2月に実施しました。

  FEWSでは、データ統合・解析システム(DIAS)上で衛星観測降雨を降雨流出氾濫モデルに入力することで両流域での洪水氾濫計算を行い、洪水情報をリアルタイムで提供しています。このFEWSで提供される情報を用いて、ニジェール川流域機構(NBA)、ボルタ川流域機構(VBA)および両河川流域 11 か国の代表を対象に、母国語(英語・フランス語)で開発・準備した教材を用いてe-learningを実施しました(図-2)

  習熟度試験の合格を修了要件として、「専門家研修」を4回実施して288名が参加、うち197名が修了、「トレーナー研修」を2回実施して44名が参加、うち30名が修了しました。これらFEWS構築とe-learning研修は、各国政府関係者等の水災害対処能力向上を図るための 1 つのモデルとして、西アフリカだけではなくその他世界各地で洪水被害を受ける多くの国々における展開・貢献が期待されます。




(2)フィリピン・ダバオ市における取り組み


  フィリピンのダバオ市では、水災害レジリエンスの向上に向けて、洪水予警報や気候変動適応策の計画立案を支援するためe-learningやオンラインによるワークショップの開催などに取り組んできました。具体的には、リアルタイム洪水監視・予測情報と気候変動影響評価に関する情報等を統合した「オンライン知の統合システム」(図-3)を開発し、それらを含めた科学技術をe-learningで学習することで、「ファシリテータ」を育成することを目的としています。2021年4月19日から5月17日までの約1か月間に行われたe-learning及び参加者とのワークショップでは、参加者が講義や試験、課題研究を通じて学習しただけなく、ICHARMとしても現地の新たなニーズの把握やさらなる活動推進に向けた有意義な議論を交わすことができました。29名が参加し、うち21名が修了しました。今後も現地との協働による知の統合システムのさらなる改良や実践的研修を通して水災害レジリエンスの向上に取り組んでいきたい思います



図-3 オンライン知の統合システムの概念図

図-3 オンライン知の統合システムの概念図




(問い合わせ先 : 水災害研究グループ )