研究の紹介

山岳トンネルの切羽観察へのCNNの活用検討と切羽写真撮影手法の検討


1.はじめに

  山岳トンネルでは、掘削断面(切羽)の状態を観察・評価(切羽観察)し、支保パターンの選定等を行います。しかし、切羽観察は技術者の経験により結果に差異が生じるといった課題があり、近年、切羽観察にAI(画像解析技術等)を活用する取り組みが散見されます。ただし、適用条件等は確立されておらず、結果の信頼性など不明確な点が多いと考えています。そこで、CNN(畳み込みニューラルネットワーク)を活用した切羽観察の精度検証およびCNNに使用する切羽写真に求められる条件について検討を進めています。


2.CNNによる分析

  切羽写真に採用支保パターンや風化変質等の評価点をラベル付けした教師データを学習させたモデルに、新たな切羽写真を入力したときの切羽観察結果の正答率およびAIが切羽のどこに着目しているか検証しました。

  結果は、7~8割の正答率が得られたものの、図1に示したように、既施工の支保部材や障害物など、切羽と無関係な部分に着目した結果が多いことが明らかになりました。これより、正答率だけでなく、教師データに用いた写真の質やAIによる判断過程の妥当性を含め、技術者が総合的に判断することが重要であると考えられます。



図1 画像解析結果の例

図1 画像解析結果の例


3.切羽写真の撮影条件

  前項の検討を踏まえ、AIを用いた切羽観察に使用する切羽写真に求められる撮影条件等について検討しました。解像度チャートを切羽手前に設置し、画素数、F値等のカメラ設定および切羽面の照度等の撮影環境の組み合わせにより約2000枚の切羽写真を撮影し、解像度チャートの判読(5点が高解像度、1点が低解像度)により解像度を評価しました。画像の明るさやノイズ量等を考慮し導き出した次式を提案し、評価点と解像度の関係を分析しました。

カメラ設定の評価点① = F値 / (シャッタースピード × ISO感度)  カメラ設定の評価点② = 評価点① × 画素数(万)

  図2,3に示す評価点と解像度の整理結果より、AIを適用する際に必要な解像度を確保できる撮影条件として、評価点①が0.1~0.5、評価点②が100~500の範囲に収まることが1つの目安であると考えられます。また切羽面照度については、150~250ルクス程度であれば、解像度に与える影響が小さいことが分かりました。



図2 評価点①と解像度の関係

図2 評価点①と解像度の関係
図3 評価点②と解像度の関係

図3 評価点②と解像度の関係


4.おわりに

  現在、現場で実検証を行っており、その結果を踏まえて撮影条件の見直しや撮影時の留意点の追加・検討を行う予定です。






(問い合わせ先 : 道路技術研究グループ トンネルチーム)

雪崩を空から測る ~ドローンによる雪崩の3次元計測~


1.雪崩を測ることの難しさ

  ひとたび発生すれば甚大な被害をもたらす雪崩ですが、同じ場所での新たな被害を防ぐための効果的な応急対策や警戒避難を検討するためには、雪崩の発生量などの全容を把握することが必要です。しかし、それは簡単なことではありません。その要因の1つは、深い雪が雪崩の発生源まで人が近づくことを阻むこと、もう1つは、降り続く雪や雪どけの影響により、雪崩の痕跡が刻一刻と姿を変えてしまうことです。

  この問題を解決するためには、人が直接近づくことなく、迅速に雪崩の痕跡を計測できる技術の開発が求められています。


2.ドローンで雪崩を測る

  そこで私たち雪崩・地すべり研究センターが着目したのが、近年技術の進歩が目ざましいドローンを活用することでした。空から地上を測量する技術といえば、これまでは航空機を使った測量がメインでしたが、コストが高く、機動性に劣るという課題がありました。その点、ドローンであれば、雪崩発生後すぐに現場の近くまで駆け付け、短時間で低コストに計測を行い、雪崩発生量などを把握することができます。

  ドローンにより3次元計測を行う手法の1つが、連続して撮影した写真を合成することで3次元地形を再現する方法です(SfMといいます)。ただし、これを雪崩に使う場合に懸念されることがありました。それは、写真を撮ったときに雪が真っ白に写ってしまうと、合成がうまくいかないおそれがあったのです。


3.雪崩の3次元計測に挑戦

  図-1は、実際の現場でドローンを飛行させている様子です。SfMを用いる方法であれば、一般的な小型ドローンで対応が可能です。図-2は、撮影した写真から専用ソフトで3次元モデルを作成したものです。

  図-2のとおり、今回計測した現場では、白い雪面も含めて大きく欠けることなく3次元化に成功しました。図-2①の事例は、地形や樹林の関係で地上からでは全体像が見えない現場でしたが、3次元モデルにより、机上で様々な角度から全容を把握することが可能となりました。図-2②の事例では、3次元モデルから雪崩が発生した深さを計測することで、雪崩の発生量を推定することができています。

  このように、雪崩の発生量が把握できれば応急対策工の規模検討が可能となり、さらにクラック等から再拡大のリスクが把握できれば警戒避難に役立ちます。雪崩・地すべり研究センターでは、今後も精度検証を含めた事例検討を進め、本研究で得られた成果が実際の現場に生かせるよう、調査手法を分かりやすく取りまとめた資料を作成していく予定です。



図-1 雪崩現場でのドローン飛行

図-1 雪崩現場でのドローン飛行

図-2 写真合成による雪崩の3次元モデル(点群データ)

図-2 写真合成による雪崩の3次元モデル(点群データ)





(問い合わせ先 : 雪崩・地すべり研究センター)

農業用管水路に発生する地震時動水圧に関する研究


図-1 管水路における地震時動水圧の発生過程

図-1 管水路における地震時動水圧の発生過程



図-2 管水路における地震時動水圧の発生箇所

図-2 管水路における地震時動水圧の発生箇所



図-3 観測結果の例(震度4)

図-3 観測結果の例(震度4)



図-4 地震時動水圧のシミュレーション実行結果の例

図-4 地震時動水圧のシミュレーション実行結果の例
(地震時動水圧発生数秒後の管水路内の動水圧分布)




  河川水をダムや頭首工から取水して農地に配水する農業用管水路(以下、「管水路」)は、我が国の食料生産を支える重要な社会インフラです。管水路の設計・施工、供用・管理に関する課題の多くは、先人の尽力によって克服されてきました。しかし、管水路の地震対策に関しては未解決な課題が残されています。その課題のひとつが地震時動水圧の対策です。

  図-1に示すように、管水路の閉塞部では、地震動に伴い変位する管壁が管内の水を瞬時に押す(または引く)ことによって動水圧(水圧上昇または下降)が発生します。さらに、その動水圧は圧力波となって管内を伝播して、管水路の任意地点における水圧を変動させます。この水圧変化が地震時動水圧です。地震時動水圧は、管水路の閉塞部のほか、曲管部、T字部および片落部においても発生します(図-2)

  こうした地震時動水圧は、以前より、地震時における管水路の破損原因のひとつとして考えられてきました。しかし、近年まで供用中の管水路において地震時動水圧を観測した事例はほとんどなく、管水路中の地震時動水圧の実態は推定の域を脱しませんでした。

  水利基盤チームでは、東日本大震災を契機として、供用中の管水路における地震時動水圧の観測に着手しました。この観測は、地震の発生を待ち構えて、地盤の加速度データと管水路内の水圧データを常時取得し続けるというものです。これまでに震度2~4の十数回の地震時におけるデータを取得しました。

  図-3に観測結果の一例を示します。地震動に伴い地震時動水圧が発生することを確認しました。また、地震動の減衰後も地震時動水圧の大きさは減少せず、さらに増幅する場合もあることが分かりました。現在、特性曲線法を用いたプログラムを開発しており、観測データを再現するシミュレーションを行っています。図-4にシミュレーションの実行結果の一例を示します。曲管部などで発生した地震時動水圧が、管水路内を伝播する過程で干渉し増幅する状況を確認しました。

  今後は、地震時動水圧の観測データの蓄積とモデルの精度向上を図り、数値シミュレーションなどを駆使して、地震時動水圧による管水路の破壊過程を解明します。さらに、その成果に基づいて、管水路の地震被害を低減する対策技術の開発を目指します。

























(問い合わせ先 : 寒地土木研究所 水利基盤チーム)