研究の紹介

寒冷海域の港内でのアサリの垂下養殖


1.はじめに

 漁港の防波堤に囲まれた水域は、外海に比べて静穏性が確保されています。 この静穏性を活用した蓄養施設の利用や漁港ストックの有効活用等により、人口減少と担い手不足、 少子高齢化等の課題を抱える地域漁業の振興と漁村の活性化に寄与することが期待されています。
 水産土木チームでは、漁港内静穏水域の活用方法として、近年、国内の生産量が大きく減少しているアサリに着目し、 アサリを養殖用の丸篭(写真-1)に収容して、港内に吊す垂下養殖試験に取り組みました。 北海道のアサリは主に干潟が発達している道東海域で生産され、令和2年では全国の生産量の約3分の1を北海道産が占めています。 一方で、北海道の日本海沿岸では、アサリが生息する天然の干潟が少ないだけでなく、漁業生産全般も低迷しています。 このため、これらの改善を目指し、試験は北海道南西部日本海沿岸の江良漁港の港内蓄養施設において実施することとしました。



写真-1 アサリ養殖用丸篭

写真-1 アサリ養殖用丸篭


2.養殖試験の評価

 アサリは、水中の懸濁物を濾過することで摂餌するため、餌料供給のために一定の流れが必要になるほか、稚貝からの成長の過程で砂などの底質に潜って生活します。 また、北海道海域では年1回しか産卵せず、出荷までには2年以上を要します。
  これらのことから、今回の垂下試験では、丸篭(直径40cm、高さ10cm)に殻長約8mmのアサリ稚貝100個体のみを入れる篭のほか、稚貝のほかに砂利または軽石を3cm厚で敷いた篭を用意しました。 さらに、これらの篭について、篭の上下をロープにより陸上と海底からフックで固定、岸壁に設置した単管パイプに篭を直接固定、 陸上からロープのみで吊り下げ、の3つの設置方法(図-1)により水中に垂下し、それぞれを2年以上の長期間にわたり、殻長、生残率を調べました。
 この結果として、アサリの成長量は、波による揺動の少ない単管パイプに固定する方法が大きいこと、 又、篭内に砂利等の基質はある方が成長し、アサリ稚貝が小さいときは「砂利」、一定程度の成長後は「軽石」の成長が大きくなることが確認できました。 さらに、試験開始から約1年が経過した時点で生存しているアサリは約85%と近隣漁港で行われた殻長約12mmの稚貝を入れた先行事例とほぼ同じ生残率となったほか、 この中の約1割が出荷サイズに達していることが分かりました。
 これらの試験により、漁港内でのアサリの垂下養殖について、成長に有利な垂下条件を把握でき、漁港の水域利用につながることが確認できました。 しかしながら、アサリの2年目の成長が1年目よりも遅いことから、他海域との比較を含めて、引き続きよりよい条件を確認していきたいと考えています。



図-1 丸篭の設置方法

図-1 丸篭の設置方法






(問い合わせ先: 寒地土木研究所 水産土木チーム)