研究成果の紹介

BIM/CIMの活用による地すべり災害対応の迅速化・効率化


1.はじめに

 3次元モデル等を活用して一連の建設生産・管理システム高度化するBIM/CIM(Building / Construction Information Modeling, Management)がインフラ分野におけるDXの推進の一環として積極的に推進されています。 現在のところ、土木構造物の設計・施工を中心にBIM/CIMの活用が進んでいますが、土木研究所では、災害時においてもBIM/CIMを活用して迅速・効率的に緊急対応を実施できるように「地すべり災害対応のBIM/CIMモデル」(以下、本モデル)を開発しました。

2.BIM/CIMモデルの概要

 本モデルは、UAVで撮影した被災現場の写真から作る3次元カラー点群データ(物体・地形を点の集合で表現するデータ)と地図データ等と組合せて迅速に作成する、災害対応に特化したBIM/CIMモデルです。 本モデルは図-1のように、コンピュータ空間上にバーチャルな被災現場を再現し、視点の移動や拡大縮小が自由にできるため、災害の全体像が一目瞭然となります。 本モデルは国土交通省「BIM/CIM活用ガイドライン(案)」に採用され、詳細は土木研究所資料として公表しています。

図-1 地すべり災害対応のBIM/CIMモデル

図-1 地すべり災害対応のBIM/CIMモデル


3.BIM/CIMモデルの活用

 本モデルは3次元カラー点群データによって災害の全体像を一目で把握することができますが、更に地形・地質等に関する情報を追加して分析することで、地すべりの発生原因・災害リスクの把握や応急対策工の検討なども可能となります。 また、web会議システム等で本モデルをオンライン共有することで、非接触・リモート方式での技術支援等も可能です。 このように本技術の活用により、図-2に示すような災害初動時の一連の対応を、バーチャル被災現場をベースに統合的に検討することができます。 土木研究所では、コロナ禍におけるリモート技術支援や令和2~3年度の災害における技術支援に本手法を活用し、地すべり発生原因・災害リスクの分析や応急対策工の検討等を迅速に行うことで、 通行止めとなった道路の早期の開放や地すべり対策工事の早期の実施に貢献してきました。 今後は、本技術を国土交通省や土木研究所で整備されているインフラDXルームで活用することで、広域的な同時多発災害の場合でも技術支援が可能となるなど、次世代型の災害対応への発展にも繋がると期待されます。

図-2 BIM/CIMモデルをベースとした一連の災害初動対応の検討

図-2 BIM/CIMモデルをベースとした一連の災害初動対応の検討







(問い合わせ先 土砂管理研究グループ 地すべりチーム)

火山灰質土の液状化強度を的確に推定する手法に関する研究


写真-1 平成30年北海道胆振東部自身による火山灰質土の液状化被害

写真-1 平成30年北海道胆振東部地震による
火山灰質土の液状化被害


図-1 北海道火山灰質土(道南・道央・道東)の液状化強度R<sub>L</sub>と砂質土推定式の比較

図-1 北海道火山灰質土(道南・道央・道東)の
液状化強度RLと砂質土推定式の比較


図-2 北海道火山灰質土のせん断波速度V<sub>S</sub>と液状化強度R<sub>L</sub>の関係

図-2 北海道火山灰質土のせん断波速度VS
液状化強度RLの関係


  火山国である日本には、第四紀以降の活発な火山活動によって火山噴出物が広域に堆積しています。したがって、火山噴出物を起源とする火山灰質土は、日本の代表的な地盤構成土のひとつであるといえます。火山灰質土は地域により特徴が異なり、特に、総面積の40%強が未固結な火山噴出物で覆われている北海道は、火山灰質土の種類が多くその性質も多様で、比較的大きな地震によりたびたび火山灰質地盤の液状化が発生し、社会に大きな影響を与えています(写真-1)。火山灰質地盤における液状化被害を未然に防ぐためには、火山灰質土の液状化に対する抵抗強度(液状化強度RL)を事前に適切に評価できることが必要です。

 

  これまで、一般的な砂質土と土粒子の大きさが同じ範囲の火山灰質土は、地盤工学上、砂質土として設計・検討されていましたが、近年の研究により砂質土とは異なる物理的・力学的特性を有することが分かってきました。火山灰質土の液状化強度RLも、N値(地盤の固さを示す指標)等に基づく砂質土の液状化強度推定式では適切に評価できません。図-1は、北海道内において過去の地震で火山灰質地盤の液状化が確認された道南、道央、道東の火山灰質土の液状化強度RLを室内試験で調べた結果ですが、室内試験結果(◇プロット)の値は砂質土の液状化強度推定式の実線と一致しません。また、色別に示した細粒分含有率FC別にも明確な関係が見られません。このことから、寒地地盤チームでは新たな指標に基づき火山灰質土の液状化強度RLを的確に推定する手法についての研究に取り組んでいます。

 

  図-2は、図-1と同じ箇所の火山灰質土のせん断波速度VS(横波が地盤の中を伝わる速さ)と液状化強度RLをそれぞれ基準値で正規化し、その関係性を整理したものです。これは、砂質土における先行研究(清田、呉;2017)を参考としたものであり、同図には砂質土についての同様の関係を併せて示しています。この結果、砂質土と同様にせん断波速度VSと液状化強度RLの関係に正の相関があること、また、砂質土とは異なる火山灰質土特有の関係を示すことが分かってきました。さらに、原位置密度(現地地盤の密度)とは異なる密度での試験も行い、その結果、原位置の密度が異なっても箇所別(火山灰質土の種類別)に一意的な相関を示すことも明らかとなってきています。今後も防災に関する研究として、異なる地域・種類の火山灰質土に対し同様の検討・データ蓄積を行い、本研究成果の適用範囲の拡大を図ってゆく予定です。

 















(問い合わせ先 寒地土木研究所 寒地地盤チーム)

ICHARMでの研修活動


はじめに

 ICHARMは、世界の水災害被害軽減を目指し、「研究」、「研修」、「情報ネットワーク」を3本柱として種々の活動を進めています。
このうち、令和4年度の「研修」活動としては、主に海外の行政官を対象とした以下の活動を行っています。
・2021-2022修士課程『防災政策プログラム 水災害リスクマネジメントコース』(令和3年10月~令和4年9月:在学生13名)
・博士課程『防災学プログラム』
(令和2年10月~ :在学生2名,令和3年10月~ :在学生3名)
ここでは、修士課程、博士課程の研修を中心に、ICHARMでの研修活動について紹介します。

修士課程『防災政策プログラム 水災害リスクマネジメントコース』

 ICHARMは(独)国際協力機構(JICA)および政策研究大学大学院大学(GRIPS)と連携し、平成19年度を初年度としてこれまで15年間、修士課程『防災政策プログラム 水災害リスクマネジメントコース』(JICA研修「洪水防災」)を実施し、これまで157名の修士取得者を世界に送り出してきました。本研修は、洪水災害が多発する開発途上国において、洪水災害による被害に対して、現場で実務的に対処して被害を軽減できる能力を持つ行政官を養成することを目的とし、講義・演習とも全て英語で行っています。約1年のコースの前半では、「防災政策」・「水文学」・「水理学」などの基礎理論の講義・演習や、「地滑りと土石流の制御」、「土砂輸送のメカニズムと河床変動」、「洪水の水理と河道設計」、「持続可能な洪水マネジメント」などの実務的な講義・演習を実施しています。また、コースの後半では各在学生がそれぞれの国での水災害に関する課題解決に資するための修士論文作成に取り組むとともに、前半・後半を通じて日本の治水対策についてより深く学べるよう、各地で現地研修を実施しています。
 令和3年10月に開始した現在のコースには、バングラデシュ2名、ブータン1名、インドネシア1名、マラウイ1名、マレーシア2名、ネパール1名、スリランカ3名、フィリピン2名の合計13名の在学生が参加しています。本研修は、在学生を派遣した機関にとって、所属職員の能力開発が期待できるだけでなく、在学生にとっても1年間の研修参加を通じた単位取得により、修士の学位が授与されることが魅力です。本研修を通じて、在学生の知識が豊富になるばかりでなく、ICHARMにとっても在学生との関係が緊密になります。帰国した修士取得者を通じた国際的なネットワークの形成は、ICHARMの活動に大いに役立っています。

博士課程『防災学プログラム』

 ICHARMは政策研究大学大学院大学(GRIPS)と連携し、平成22年度を初年度としてこれまで12年間、博士課程『防災学プログラム』を実施し、15名の博士取得者を世界に送り出してきました。特に、平成30年度からは(独)国際協力機構(JICA)とも連携し、在学生の受入れ体制を拡充しています。このプログラムは、国及び国際的な戦略・政策の企画・実践を指導し、研究者を育成することができる人材を養成することを目的としています。主なターゲットは修士課程と同様、開発途上国の行政官ですが、私費による修学でしたら日本を始め、先進諸国からも入学可能です。本プログラムは修士課程と同様、英語で行われ、標準修業年限は3年です。修了するには、所定の単位を修得し、博士論文提出資格試験(Qualifying Examination/QE)に合格し、かつ、博士論文審査に合格することが求められます。また、在学生はICHARMのリサーチ・アシスタント(ICHARM RA)として採用される可能性もあり、その場合には、ICHARMの研究補助業務に従事しながら、博士課程を修了することができます。
 3年のコースの前半では、修士課程の科目をさらに発展させた「応用水文気象学」、「応用水力学」などの講義を履修するほか、早い時期から先進的な研究に取り組み、修了年限内に2編の査読付き論文の投稿を目指して研究に励みます。令和2年10月に開始したコースには、エチオピア1名、バングラデシュ1名の在学生が参加し、また、令和3年10月に開始したコースには、フィリピン1名、スリランカ1名、ネパール1名の在学生が参加しています。また、令和3年9月に修了したコースでは、日本人で国土技術政策総合研究所に在籍中の職員も修了し、学位取得後のますますの活躍が期待されます。博士課程の在学生の中にはICHARMで修士を取得した修了者も在籍しています。ICHARMは修士課程・博士課程と一貫した研修体制の元、国際的なリーダーを輩出する取り組みを鋭意進めております。

おわりに

 ICHARMはここで紹介した修士課程、博士課程の研修のほか、JICA 主催の課題別研修「水災害被害の慧眼に向けた対策」、「国家測量事業計画・管理」などにも協力しています。ICHARMは今後も、国際的に活躍できる人材の育成に取り組んで参ります。

20211108 リモートで実施したインセプションレポート発表会

20211108 リモートで実施したインセプションレポート発表会


20211224 水理模型実験の演習

20211224 水理模型実験の演習


20220105~07 PCM研修

20220105~07 PCM研修


20210915 博士課程修了生とICHRMアシスタント

20210915 博士課程修了生と
ICHRMアシスタント



20211001 リモートで開催した修士課程開講式

20211001 リモートで開催した修士課程開講式


20211224 水理模型実験の演習

20211224 水理模型実験の演習


20220105~07 PCM研修

20220105~07 PCM研修


20220302 荒川知水資料館での講義

20220302 荒川知水資料館での講義



















(問い合わせ先 水災害研究グループ)