研究成果の紹介

下水処理水に残存するアンモニア性窒素の低減技術の開発


1.はじめに
  下水中のアンモニア性窒素(以下、NH4-N)は、主に、し尿や生活排水、工場排水から流入しているものです。下水処理の方式によっては下水処理水中に残存し、NH4-N濃度が2 mg-N/Lを超える処理場が、小規模では約4割となっています。アンモニアは水生生物に影響することが報告されており、処理水中のNH4-N濃度の目標値が低く設定された場合は、多くの処理場で低減対策が必要となる可能性が考えられます。
  このため、特に低減対策が取りにくい処理法の採用が多い小規模処理場への導入を想定して、既存の処理場に追加可能なNH4-N低減技術の開発を行いました。

2.開発した技術の概要
   NH4-N処理の微生物(以下、硝化菌)を高濃度に集積可能な微生物保持担体を用いることでコンパクトな処理技術とし、既存の処理施設の1割程度の設置スペースの追加で設置可能としました。装置概要を図-1に示します。

図-1 微生物保持担体を用いたNH<sub>4</sub>-N窒素の低減技術の概要

図-1 微生物保持担体を用いたNH4-N窒素の低減技術の概要


  さらに、NH4-NセンサーによりNH4-N濃度に応じて酸素供給を最適化すること、担体の撹拌方法に曝気でなく機械撹拌を採用することにより、無駄な送風を削減して省エネを実現しました。省エネとNH4-N低減の両立を図-2に示します。
  この運転方法により、担体に硝化菌を多量に保持してNH4-N処理できていることを遺伝子解析でも確認しています。 硝化菌の保持状況の確認結果を図-3に示します。

図-2 NH<sub>4</sub>-Nセンサーによる省エネ風量制御とNH<sub>4</sub>-N低減の両立

図-2 NH4-Nセンサーによる省エネ風量
制御とNH4-N低減の両立
図-3 硝化菌の担体への保持状況の遺伝子解析による確認

図-3 硝化菌の担体への保持状況の遺伝子解析による確認


3.成果の活用
  成果は論文として公表しており、下水処理場におけるNH4-N低減対策に今後広く活用されることが期待されます。






(問い合わせ先 : 流域水環境研究グループ  水質チーム)

冬期交通事故リスクマネジメントの支援


図-1 空間統計学と交通工学を応用した交通事故リスクの分析・評価手法の構築

図-1 空間統計学と交通工学を応用した交通事故
リスクの分析・評価手法の構築



図-2 スリップ事故危険度情報による運転者への注意喚起(北海道警察との共同研究)

図-2 スリップ事故危険度情報による運転者への
注意喚起(北海道警察との共同研究)



図-3 交通安全診断の現場における診断を支援するためのモバイル型ツールの開発

図-3 交通安全診断の現場における診断を
支援するためのモバイル型ツールの開発


  積雪寒冷地を含む全国の道路交通事故死者数は減少傾向にありますが近年その減少率は鈍化しており、交通事故の更なる削減が求められています。

  そこで、多様で多量なビッグデータを活用して交通事故が起こる恐れのある箇所や交通事故の起こりやすさ(交通事故リスク)を分析・評価できる手法や交通事故リスクへの事前の備え(交通事故リスクマネジメント)のための手法を構築するとともに、交通事故リスクマネジメントを支援するツールを開発しました。その成果を幾つか紹介します。


  まず、交通事故、気象、交通流、道路構造などのビッグデータに対して空間統計学の相関分析や交通工学の交通状態推定を応用して、交通事故リスクの高い場所が集積するエリアを分析・評価できる手法を構築しました。図-1は札幌都市圏を対象にこの手法を適用した例であり、物損事故リスクの高い場所が集積するエリアとそのエリア内で物損事故が起きやすい交通量・車速状態を示しており、事故対策箇所の選定に役立ちます。

 

  次に、冬期道路におけるスリップ事故リスクへの事前の備えとして、北海道警察との共同研究を通じてスリップ事故危険度情報を提供しました。図-2は北海道警察が国道230号中山峠の交通情報板にスリップ事故危険度情報を表示して運転者に注意喚起した例です。降雪量・気温等から予測したスリップ事故危険度が「最大」又は「大」になった日にその危険度情報を表示しています。


  更に、交通事故リスクマネジメント手法の一つである交通安全診断について、現場における診断を支援するモバイル型ツールを開発しました。交通安全診断とは、市町村の道路管理者等の要請に応じて国道事務所の技術職員等の診断チームが事故危険箇所を踏査して有効な事故対策の技術的助言を行う仕組みです。事故要因が複雑なため有効な対策立案が難しく、助言を必要とする全国の道路管理者等にこの仕組みが活用されています。 図-3に示すモバイル型ツールを診断現場で使うと、気象条件・交通条件等で絞り込んだ交通事故発生状況の検索、診断書の自動作成、観察すべきポイントや検討すべき対策の確認などができます。


  これらの成果を通じて、より効果的・効率的な冬期交通事故リスクマネジメントを支援します。  








(問い合わせ先 : 寒地土木研究所  寒地交通チーム)

吹雪の中でも安全に除雪する


図-1 除雪トラック

図-1 除雪トラック


図-2  磁気マーカ走行ガイダンスシステム

図-2 磁気マーカ走行ガイダンスシステム


図-3 ミリ波レーダシステム
図-3 ミリ波レーダシステム


図-4 車両先導システム

図-4 車両先導システム

  近年、北海道では冬期の吹雪等による国道の通行止めの回数も時間も増加傾向です。通行止めを解除するためには除雪車(図-1)が除雪をする必要がありますが、吹雪による著しい視程障害、いわゆるホワイトアウトが発生していることもあります。ホワイトアウトでは、除雪車も道路を見失い路肩から落ちてしまう危険性や、停車している車両や人に接触してしまう危険性もあります。また、救急車等の緊急車両は通行止めでも走行しなければなりません。そのような場合、非常に危険なので除雪車が緊急車両を先導することがあります。しかし、ホワイトアウトでは先導している除雪車ですら後続の緊急車両から見えなくなる可能性があります。これらのことから吹雪の中でも安全に走行・除雪ができるシステム等の開発を行っています。


各種支援システムの開発

  準天頂衛星「みちびき」からの信号が受信できればホワイトアウトでも道路から逸脱せずに車を走行させることが技術的には可能です。ただし除雪車は、山間部など衛星からの信号を受信しづらい場所でも除雪をしなければなりません。そこで、磁気マーカを用いたガイダンスシステム(図-2)を開発しました。これは、磁気マーカと呼ばれる磁石を舗装に埋め込み、磁気センサを搭載した車が磁気マーカをたどって道路を逸脱せずに走行するというものです。実車を用いた試験では、磁気マーカをたどって除雪作業ができることを確認しました。


  また、吹雪でも周囲の車両や人を検知することができるミリ波レーダシステム(図-3)を開発しました。ミリ波レーダは吹雪でも100m以上前方の物体を検知できることを実車による試験で確認しています。一方、除雪車は走行速度が遅く、一般車両に追い越されることが多いため、除雪車の運転手は常に後方からの追越し車両に注意して走行する必要があります。そこで、後方用ミリ波レーダシステムも開発しました。

 

  さらに、除雪車が救急車等の緊急車両を安全に先導できるように、後続する緊急車両用に先導する除雪車との距離や制動情報等をリアルタイムでタブレットに伝送表示するシステム(図-4)も開発しました。


技術で暮らしを守る

  除雪車は厳しい吹雪環境でも除雪ができなければなりません。今後も極端な気象条件でも安全に除雪できるシステムの研究開発に取り組んでいきます。












(問い合わせ先 : 寒地土木研究所  寒地機械技術チーム)