研究の紹介

アスファルトの劣化等の迅速判定方法の開発

1.はじめに
  舗装に使われるアスファルトは、供用とともに紫外線や熱、酸素などにより徐々に劣化していきます。アスファルトが過度に劣化すると、柔軟性を失い、ひび割れしやすくなり、舗装の損傷原因になります。アスファルトの劣化程度が簡単に分かれば、破損を予想できるかもしれません。しかし、図-1上に示すように現行の方法では、道路の一部を切り出したり、分析に非常に手間がかかるなど、実施するのはかなり困難です。舗装を傷めず、手間もかからない分析方法があれば、もっと高度な維持管理が可能になるかもしれません。   そこで、本研究では、赤外分光分析を利用して、非常に少ない試料でアスファルトの劣化程度を迅速に把握できる方法の開発を行っています。

図-1 アスファルトの劣化等の迅速判定のイメージ
図-1 アスファルトの劣化等の迅速判定のイメージ


2.赤外分光分析を用いたアスファルトの劣化等の迅速判定方法
   赤外分光分析とは、物質に赤外線を照射したときに化学構造によって特定の波長の赤外光を吸収することを利用した分析方法で、試料の構造解析や定量などに利用される分析方法です。本研究では図-1下に示すように、少量の試料で分析できる赤外分光分析を利用して、できるだけ舗装を傷めずに、迅速にアスファルトの劣化程度を判定する方法について検討を行っています。



3.分析阻害物質の除去
  アスファルト舗装は、骨材(砕石)や砂、石粉(炭酸カルシウム)とアスファルトを混ぜて作られています。舗装の中のアスファルトを分析しようとするとき、アスファルト以外の成分が分析を阻害します。そこで、分析精度を上げるために、より簡便な方法で阻害物質を除去する方法を検討しています。
  その結果、図-2に示すように、アスファルト舗装の一部少量を有機溶剤(トルエン)に溶かし、 一般的に入手できるフィルター(粒子保持能0.2~7μm)でろ過をして、ろ液からトルエンを蒸発させた後、赤外分光分析をすると、図-3に示すようにアスファルトの劣化がより明確になることが分かりました。これにより、これまでアスファルトの劣化の把握に2日程度を要していたのが、1~2時間で分析できるようになりました。

図-2 アスファルト分析阻害物質の除去方法

図-2 アスファルト分析阻害物質の除去方法
図-3 ろ過前後のスペクトル

図-3 ろ過前後のスペクトル
図-4 ハンディータイプの赤外分光計

図-4 ハンディータイプの赤外分光計

4.今後の取組み
  今回、アスファルトの劣化の分析を紹介しましたが、今回検討した方法で、アスファルトに含まれる高性能化のための添加剤(一般にポリマー改質材と呼ばれるもの)の有無の判断もできることも確認しています。
  アスファルト舗装はほとんどリサイクルされていますが、リサイクルの際に、ポリマー改質材の有無が判断できると、より高度なリサイクルが可能になります。分析装置もハンディータイプ(図-4)のものも開発されています。
  これらを利用するなどしてアスファルトリサイクル工場などでより高度なリサイクルが可能になるように検討を進めたいと思います。






(問い合わせ先 : 先端材料資源研究センター  材料資源研究グループ)




泥炭地域における農地の沈下に関する研究

  現在、国は、将来にわたり地域農業を担う農業者への農地の集積・集約化など農業の競争力強化を図るための農地の大区画化、産地の収益力向上に向けて高収益作物を導入するための水田の畑地としての利用を推進しています。我が国最大の食料供給基地である北海道にあって、広大な水田地帯がひろがる石狩川流域においても、水田の大区画化や水田の畑地としての利用(以下、「転作田」)が進められています。
  一方、この流域は広範囲に泥炭が分布する地域でもあります。泥炭地域の農地では、地下水位の低下に起因して農地の沈下が生じます。一つの圃場内や複数の圃場間で異なる沈下(不同沈下)が生じると、例えば、水田では、圃場面の湛水深ムラ、暗渠管や周辺の用排水路の機能低下などの発生が懸念されます(図-1)。そのため泥炭地域の農地の沈下を緩和する方法が求められています。

(図-1)泥炭地の不同沈下(水田のイメージ)

(図-1)泥炭地の不同沈下(水田のイメージ)

  この研究では、間隙の少ない低位泥炭の水田と転作田及び間隙の多い高位泥炭の水田と転作田において、冬季に圃場の地下水位を高く維持する圃場としない圃場を設けることにより、泥炭の種類、圃場の利用(水田と転作田)、冬季の地下水位、それぞれの違いが圃場の沈下に与える影響を検証しました。

  その結果を図-2に示します。


(図-2)地下水位と積算変化量との関係

(図-2)地下水位と積算変化量との関係

  これは、低位泥炭(A地区)及び高位泥炭(B地区)それぞれについて、「水田で冬季に地下水位を高く制御した圃場(①)」、「転作田で冬季に地下水位を高く制御した圃場(②)」及び「転作田で地下水位を制御しなかった圃場(③)」において、地表から深さ80cmに設置した沈下板の標高の積算変化量(マイナス側が沈下)を示したものです。
  低位泥炭と高位泥炭を比較すると、水田の①はいずれも沈下が見られず、転作田の②および③は沈下が見られ、その傾向は高位泥炭の方が大きいものでした。また、高位泥炭の転作田②および③を比較すると冬季に地下水位を高く制御した②の方が沈下が小さくなりました。
  このように泥炭の沈下については、泥炭の種類、圃場の利用、冬季の地下水位により異なり、冬季に地下水位を高く制御することにより緩和される可能性が示されました。






(問い合わせ先 : 寒地土木研究所  資源保全チーム)



道路空間のリデザインに関する研究
~ビューポイントパーキングの計画・設計の提案に向けて~


図-1 研究の流れ

図-1 研究の流れ


図-2 VPPの視点場と眺望の分類(仮)

図-2 VPPの視点場と眺望の分類(仮)

  地域景観チームでは、郊外部の道路において、社会環境の変化や観光利用、サイクルツーリズムなどの多様なニーズに応え、景観、安全、使いやすさの機能を総合的に高める道路空間リデザイン(再構築)の計画・設計技術に関する研究に令和4年度より取り組んでいます(図-1)。

  本稿ではこのうち、沿道の溜まり空間の一つ、ビューポイントパーキングに関する事例調査・分析結果を報告します。ビューポイントパーキングとは、海外では「Viewpoint Parking」「Viewpoint Car Park」と呼ばれ、国内では「見晴らしの良い駐車場」「景観の優れた駐車場」などと解釈され、快適で質の高い休憩場所や写真撮影場所の提供などを目的として整備された空間です(以下VPP)。

  本年度は、国内外におけるVPPについて1)2)、Google Earth等を用いて視点場と眺望の分類を整理した上で(図-2)、国立公園内の優れた眺望箇所を対象として現地調査を実施しました(図-3)。

  その結果、概して路側駐車場から離れた視点場(タイプⅡ)のVPPは居心地の良さや開放感などに優れていることを把握しましたが、このタイプⅡの整備は敷地の制約上難しい場合が多いです。

  そこで、本研究では路側に整備されるタイプⅠのリデザインに主眼を置き、タイプⅡの設計概念をタイプⅠでも実現することを目標にしつつ、以下の得られた知見を基本方針として検討する予定です。

  ・視点場について、地域素材(木材や石材)の活用や写真撮影スポット等を示すデッキや直前の道路案内標識設置など、訪れる人の利用シーンを想像3)した計画・設計 

 

  ・眺望について、適度な仰角・俯角、電柱類や附属物の削減、眺望要素の適切な組合せを考慮した計画・設計 


  今後は、現地調査個所を拡大した上で、VPPのリデザインの方向性を明確化し、試設計の作成に着手します。


 
図-3 VPPの現地調査結果の一例

図-3 VPPの現地調査結果の一例


[参考文献]

1) 国土交通省北海道開発局:道路計画課HP、ビューポイントパーキング(北海道) 

2) Timothy Davis, Todd A. Croteau, and Christopher H. Marston:America's National Park Roads and Parkways Drawings from the Historic American Engineering Record, Johns Hopkins University Press, pp.52-245,2004.   

3) 寒地土木研究所:景観検討にどう取り組むか-景観予測・評価の手順と手法-、pp.16-28、2022. 






(問い合わせ先 : 寒地土木研究所  地域景観チーム)