研究成果の紹介

舗装構造の健全性を効率的に把握する調査技術  ~移動式たわみ測定装置(MWD)の開発~


図-1 舗装構造の健全性を把握する手法

図-1 舗装構造の健全性を把握する手法

 日本の道路舗装の延長は約100万kmに達しており、限られた予算の中で道路を適切に管理するためには、舗装構造の健全度性を適切に把握し、その結果を反映させた道路の維持管理を行うことが重要となります。


 舗装構造の健全性を評価する方法としては、掘削して舗装の内部を直接調査する方法(開削調査)、コアを採取して損傷箇所を調査する方法(コア調査)、路面に衝撃荷重を載荷させてたわみ量を測定できるFWD(Falling Weight Deflectometer)を用いて調査する方法(FWD調査)があります。(図-1)


 これらの方法は、交通規制が必要であるとともに、調査に多くの時間と費用が必要となるため局所的な舗装の損傷原因調査等での活用には効果的ですが、広域での調査(道路管理者が管理する路線全体における舗装構造の健全性を把握する調査)での活用は非効率となります。広域での調査を行い、 舗装構造の健全性の低下した箇所を的確に把握し、優先順位をつけて舗装の補修を行うことが、より長く舗装を使うために重要であることから、効率的に舗装の健全性を把握できる技術の開発が望まれていました。


 そこで、土木研究所では、舗装の構造解析や測定データの分析等に知見を有する大学・試験研究機関、路面性状測定車等の移動式測定に知見を有する舗装会社・計測会社、測定機器等に知見を有する機器メーカと共同研究を実施して、移動式たわみ測定装置(MWD:Moving Wheel Deflectometer)を開発しました。


 移動式たわみ測定装置(MWD)は、自走可能な中型車に路面のたわみ量を測定する機器を搭載した装置で、自らが走行するだけで路面のたわみ量を測定することが可能な非破壊点検技術です。 舗装構造の健全性の目安となる路面のたわみ量を連続的かつ短時間で測定可能であるため広域での調査が可能となります。
 移動式たわみ測定装置(MWD)を道路管理に活用することで、より効率的で効果的な道路の維持修繕に貢献します。(図-2)


 今後、様々な舗装断面での検証データを蓄積し、更なる精度向上に向け改良を行う等、引き続き検討を進める予定です。

   
図-2 移動式たわみ測定装置(MWD)

図-2 移動式たわみ測定装置(MWD)






(問い合わせ先 : 道路技術研究グループ 舗装チーム)

ダムにおける積雪包蔵水量推定ガイドライン(案)について

1.はじめに

 積雪寒冷地では、春になり気温が上昇すると冬の間に積もった雪が融けて河川へ流出します。ダムではこれらの水を貯留し、夏にかけて水道や農業用水などの水需要をまかなっています。 このため、各ダムでは積雪最盛期に積雪深や雪の密度を直接測る積雪調査(スノーサーベイ)を行い、流域全体の積雪水量(積雪包蔵水量)を推定しています。

 ダム流域の積雪包蔵水量の求め方は、積雪相当水量(雪が全て融けた場合の水量)を標高別に推定する方法のほか、経験式など、各ダムで異なる手法が用いられています。 寒地土木研究所では、過去の研究等や、ダム管理の現場の手法を踏まえ、積雪包蔵水量の推定及び推定精度の簡易な検証のための標準的な手法を技術資料としてとりまとめ、ガイドライン(案)として公表しています。


2.積雪包蔵水量の推定方法


図-1 積雪相当水量と標高の関係(定山渓ダム)

図-1 積雪相当水量と標高の関係(定山渓ダム)

図-2 積雪包蔵水量の推定値と融雪期水収支の比較(定山渓ダム)

図-2 積雪包蔵水量の推定値と融雪期水収支の
比較(定山渓ダム)

  (鳥谷部らの文献より。一部加筆・修正。図中の
破線は水収支を真値とした積雪包蔵水量の
二乗平均平方根誤差(RMSE)を示す。)


 ガイドライン(案)は、流域の土地利用の大部分が森林であるダムを対象としています。積雪包蔵水量の推定と推定精度検証の標準的な流れは以下の通りです。


(1)積雪調査
 積雪包蔵水量は、標高別の積雪相当水量を合計して算出します。そのためには、様々な標高での積雪深と雪の密度の観測値が必要になります。 一般に積雪包蔵水量が最大となる3月に、スノーサンプラー(採雪器)により雪の状態を現場で調査します。積雪調査は、雪氷調査法(日本雪氷学会北海道支部編)及び積雪観測ガイドブック(社団法人日本雪氷学会編)に則り実施することを基本とします。


(2)積雪包蔵水量の推定
 森林内では積雪相当水量は標高とともにおおむね線形に増加します(図-1)。まず積雪調査結果から、標高別の積雪相当水量を推定し、これらを足し合わせて、ダム流域全体の積雪包蔵水量を算出します。 なおダムによっては経験式等を用いる場合もあります。


(3)水収支との比較による精度検証
 積雪包蔵水量の推定結果は融雪期のダム流域における水収支との比較で検証します。水収支は、以下の式で表されます。


 積雪包蔵水量の推定精度の検証例を図-2に示します。推定精度の評価は、水収支を真値とした場合の積雪包蔵水量の二乗平均平方根誤差(RMSE)の誤差割合を用います。RMSEは以下の式で評価します。



 図-2の例では、水収支の平均値が97×106m3に対して積雪包蔵水量推定値のRMSEは18×106m3であり、誤差割合は約20%になります。 鳥谷部らが北海道内のダムで水収支を検証した事例では、推定精度のよいダムでRMSEの誤差割合は概ね20%以内と報告されており、図-2の例では積雪包蔵水量の推定精度はおおむね適切であるといえます。 誤差割合が大きい場合は、スノーサーベイの結果が流域の積雪状況を適切に代表しているかを吟味し、場合によっては調査地点、時期の見直しも含めた対応策を検討して、推定精度の改善につなげていきます。


3.今後の課題

 近年、リモートセンシングによる流域全体の積雪深把握技術のほか、森林外の積雪分布の定量化に関する研究も進んでいます。これら新しい研究成果を反映した精度改善を、ダム管理の現場と連携しながら進める予定です。



参考文献
西原ほか: 「ダムにおける積雪包蔵水量推定ガイドライン(案)」について、平成24年度北海道開発技術研究発表会,2013
鳥谷部ほか:道内直轄ダムにおける近年の積雪水量と融雪期の水収支について、平成22年度北海道開発技術研究発表会,2011






(問い合わせ先 : 寒地土木研究所  水環境保全チーム)