研究成果の紹介

ボーリングコアを用いた蛇紋岩の岩盤分類手法に関する研究

1.はじめに

 山岳部でトンネルを建設する場合、事前に、掘り進めていく山がどのような性質の岩石で構成されているか調べるために地質調査や物理探査を行います。しかしながら、いざトンネルを掘削すると事前の調査結果を踏まえて設計された支保構造に想定耐圧を超えた圧力が発生し、時にはトンネルの崩落が発生してしまうことがあります。そして、その発生事例が特に多い岩種が「蛇紋岩(じゃもんがん)」と呼ばれる岩石です。

 蛇紋岩は、主に地球深部のマントルを構成するかんらん岩類に水が加わることで形成された(蛇紋岩化作用をうけた)岩石の総称です(図-1)。蛇紋岩を構成する代表的な鉱物は、元々のかんらん岩を構成するかんらん石、輝石、クロムスピネルという初性的な鉱物に加えて、蛇紋岩化作用により二次的に形成される蛇紋石類、滑石、ブルーサイトといった密度の低い含水鉱物(結晶構造に水を含む鉱物)と強い磁性をもつ磁鉄鉱を含みます。 通常、岩石を構成する鉱物の種類、形状、構成比率は、岩石の硬さや変形のし易さなどの物理的性質に大きく影響します。しかしながら、蛇紋岩は肉眼や顕微鏡で観察してもその構成鉱物を正確に把握し分類することが難しく、これまでは様々な蛇紋岩を一つの「蛇紋岩」という岩種名での枠組みで扱わざるを得ない、という課題がありました。

 そこで本研究では、北海道内のトンネル掘削で採取されたボーリングコア試料を用いて、蛇紋岩の密度、磁化率、熱重量変化により推定した含水鉱物の量比を元に、蛇紋岩の性質を分類する方法を提案しました。



図-1 トンネル掘削で採取された蛇紋岩試料

図-1 トンネル掘削で採取された蛇紋岩試料


2.研究手法



 北海道内の蛇紋岩トンネルから採取され他ボーリングコア試料から、1cm角程度の試料を切り出し、ガス置換型の密度計で密度の測定と、磁化率測定装置にて磁化率を測定しました。そして、粉末化した試料を用いて、熱重量・示差熱重量分析装置(TG-DTA: Thermogravimetry and differential thermal analysis)により熱重量変化(TG)の測定を行い、含水鉱物の脱水分解に伴う重量変化を求め、含水鉱物(ブルーサイトと蛇紋石鉱鉱物量)の含有量を推定しました。 さらに、熱重量変化(TG)の分析結果を、温度微分して得られるDTG曲線を用いて、三種の蛇紋石鉱物(リザーダイト、クリソタイル、アンチゴライト)の重複する脱水反応を、「指数関数的に改変したガウス関数(EMG関数)」を用いたピーク分離解析を行うことで、蛇紋岩中の高温型蛇紋石(アンチゴライト)量比を推定することができました(図-2)



図-2 微分熱重量変化(DTG)のEMG関数によるピークフィット解析の例(左)と解析した蛇紋岩試料の偏光顕微鏡撮影画像(右)

図-2 微分熱重量変化(DTG)のEMG関数によるピークフィット解析の例(左)と解析した蛇紋岩試料の偏光顕微鏡撮影画像(右)


3.研究結果



 従来1種類の分類として扱われてきた「蛇紋岩」は、蛇紋岩化の度合いに応じて減少する密度と、蛇紋岩化の条件の違いによって変化する磁化率の関係から、産出場所毎に特徴的な分布を示すことが分かっています(図-3 左)。 また、この蛇紋岩の密度と磁化率の変化傾向は、岩盤の強度、変形のし易さ及び電気の流れ易さと対比することができます。本研究では、密度と磁化率の関係に加えて、今回提案した手法により、蛇紋岩中の高温型蛇紋石(アンチゴライト)の含有量を数値化することで、蛇紋岩の特徴をより詳細に分類することができました(図-3 右)。 今後、より多様な蛇紋岩の分類に本手法がうまく適用できるかどうかを検証する必要がありますが、本研究の提案手法を活用することで、事前の地質調査や物理探査によりトンネル掘削ルートにおける蛇紋岩の岩盤強度を精度良く推定することできるようになることが期待されます。



図-3 蛇紋岩の密度と磁化率の関係 左図:本研究の蛇紋岩試料と他地域の蛇紋岩の比較結果 右図:磁化率・密度変化により蛇紋岩の性質を分類可能とする本提案手法を用いた高温型蛇紋岩含有量の推定結果

図-3 蛇紋岩の密度と磁化率の関係

左図:本研究の蛇紋岩試料と他地域の蛇紋岩の比較結果
右図:磁化率・密度変化により蛇紋岩の性質を分類可能とする本提案手法を用いた高温型蛇紋岩含有量の推定結果






(問い合わせ先 :  寒地土木研究所  防災地質チーム)