研究の紹介

河川の水位はどうやって測っているのか?

図1 水位標の設置例

図1 水位標の設置例


図2 フロート式水位計(水研62型)

   図2 フロート式水位計(水研62型)


図3 フロート式水位計の設置例

   図3 フロート式水位計の設置例


図4 気泡式水位計の設置例

図4 気泡式水位計の設置例

 水面の高さを基準面から測ったものを水位といいます(基準面の高さは各水位観測所ごとに設定します)。水位は河川を管理する目的で、河川管理者により1時間おき、または10分おきにcm単位で観測されています。洪水時における水位観測は洪水予報や水防活動に重要な情報を提供し、また渇水時においては用水の取水量や取水位の管理に用いられ、これも重要な情報です。


 精度維持向上はもとより、洪水時にも壊れず、また土砂に埋もれて観測不能にならないような手法の開発・改良そして絶え間ない維持管理が行われています。現在用いられる観測方法としては、以下のような手法があります。


1.人が読み取る方法:水中に目盛り付きの柱(水位標)を設置し、水位を目視で読み取ります。かつては川沿いにお住まいの方に依頼して毎日2回(洪水時は毎正時)水位を観測していただく「普通観測所」が全国に設けられていました。もっとも確実に水位を把握できる方法であり、今でも2.以降の水位計の定期点検時や流量観測時に水位を確認する手段として水位標は水位観測所に必ず設けられています。


2.浮きを使う方法:水面にフロート(浮き)を浮かべ、その上下の動きをワイヤーなどを介して自記紙に記録する方法です。フロートが水の流れで揺れないよう、円柱上の観測井(河川と導水管でつながって同じ水位となっています)を川の中に設けます。フロートの位置を磁石を介して読み取るリードスイッチ式もあります。


3.水圧を計測する方法:河岸の観測小屋から伸ばして水中に開口した管からゆっくりと気泡を出し,その時の管内の圧力を小屋内の圧力センサーによって測定します。管内の圧力は大気圧と開口部にかかる水圧との和に等しいので,大気圧を差し引いた開口部の圧力から水位を求めることができます。現在では、圧力センサー(水晶式など)を水中に設置し直接水圧を読み取る方法が多く用いられます。


4.超音波・電波などを用いる方法:送受波器を水面の鉛直上方に取り付け、超音波が水面に当って戻ってくるまでの時間を測定し、水面と送受波器との距離を計測するものです。水面に全く触れずに測定できるため、洪水時に壊れにくい特徴を持っています。


5.画像を用いる方法:上記の方法ほどの精度はありませんが簡易的な観測方法として、CCTV カメラ画像から水面位置を認識し、水位標や事前測量データと組み合わせることで水位を観測します。これも水面に触れずに測定できるため、大洪水時に他の水位計が破損して計測不能になった場合に備えるための方法です。


 近年は、洪水時の計測に特化し低コスト化を図りきめ細やかな水位把握を可能とした危機管理型水位計(超音波式・電波式・水圧式など)も普及しています。
 このほか最新の手法として人工衛星を用いる方法があります。NASAが2022年12月に打ち上げた人工衛星SWOT (Surface Water and Ocean Topography)は 2つの干渉SARアンテナを持ち、その位相差から撮影角度を算出し、水面の絶対標高を算出します。基本的に川幅100m以上の河川、湖沼、海が観測対象で、河川の中心にそって200m間隔に精度概ね±0.1mで水位が観測されています。日本付近は概ね10日に1回の観測で、現在の撮影頻度・精度では正式な水位観測には使えないものの、ある瞬間の広範囲高密度の河川水位はこれまで得られなかったデータであり、今後の活用が期待されます。


 人工衛星による水位観測については、来月発行の土木技術資料(令和7年1月号)にも記事が掲載される予定ですので、併せてごらんいただければと思います。





図5 超音波式水位計の設置例

図5 超音波式水位計の設置例
図6 SWOTの撮影イメージ

図6 SWOTの撮影イメージ
SWOT衛星による河川に沿った水位縦断(200mピッチ)と水位計計測値の比較(A川)

SWOT衛星による河川に沿った水位縦断(200mピッチ)と水位計計測値の比較(A川)



  参考文献
    1) 水文観測 平成14年度版
      https://www.pwri.go.jp/team/hydro_eng/suimon_kansoku.htm
    2) 河川砂防技術基準(案)調査編第2章第3節
      https://www.mlit.go.jp/river/shishin_guideline/gijutsu/gijutsukijunn/chousa/pdf/chousa_02_03.pdf
    3) 水文水質観測の概要 水位観測方法(国土交通省水文水質データベース)
      http://www1.river.go.jp/hkansoku.html
    4) CCTV カメラ等を活用した水位観測の手引き(試行版)
      https://www.mlit.go.jp/river/shishin_guideline/kasen/pdf/cctv_tebiki.pdf
    5) SWOT Measurement Concept(eoPortalホームページ)
      https://www.eoportal.org/satellite-missions/swot#measurement-concept
    6) 人工衛星SWOTによる河川水位の把握 (土木技術資料令和7年1月号)




(問い合わせ先 : 河道監視・水文チーム)

低炭素型のコンクリート -実環境での耐久性評価-



図-1 低炭素型のコンクリートの耐久性検証試験

図-1 低炭素型のコンクリートの耐久性検証試験


図-2 低炭素型と従来のコンクリートの中性化進行

※この環境条件の場合,中性化深さは,長期間にわたって,
鉄筋がある深さ(通常,30mm以上)よりも小さくなる見込み。

図-2 低炭素型と従来のコンクリートの中性化進行


 図-3 せん断試験の結果

※写真の断面で上側がコンクリート表面であった。フェノールフタレイン
溶液で着色してない部分は中性化している。

図-3 せん断試験の結果


 コンクリートは、社会資本を整備するのに欠かせない建設材料ですが、その製造に欠かせないセメントを焼成する過程では多量の二酸化炭素が排出されます。そこで、近年は、セメントの一部を高炉スラグなどの副産物に置き換えた、低炭素型のコンクリートの活用に期待が高まっています。


 副産物を活用したコンクリートは、地球温暖化の問題が顕在化して二酸化炭素排出量への関心が高まる以前から、構造物によっては活用されていました。しかし、早期に高いコンクリート強度を得たい場合や、高い耐久性が求められる場合などでは、使用実績などの観点で不安感を払拭できず、活用されないこともありました。特に、使用するセメントの量を減らすと、コンクリートが大気中の二酸化炭素と反応してアルカリ性が低下する中性化という劣化現象が早期に生じ、内部の鉄筋が腐食することが懸念されています。そこで、土木研究所では、副産物を活用した低炭素型のコンクリートを環境条件の厳しい場所に長期間設置して耐久性を検証する試験を行ってきました(図-1)

 その結果、屋外で雨掛かりのある場合は、低炭素型のコンクリートの中性化進行も抑制されることが確認されました(図-2,図-3)。この理由としては、実環境では雨水が供給されることによりコンクリートの内部がある程度湿潤に保たれて気体の通り道が水で満たされるため、二酸化炭素が入りにくいことが考えられます。また、副産物で置き換えた場合の中性化抵抗性の大小は、配合からある程度推定できることがわかっています。ただし、セメントの使用量を従来の15%と大幅に減らした場合は、中性化進行の傾向が他とは異なり、注意が必要です。なお、ここでは詳細を紹介しませんが、低炭素型のコンクリートは、内部に塩分が侵入しにくいため、海岸沿いのコンクリート構造物などで内部の鉄筋が腐食する「塩害」に対する耐久性を高める効果があることも実際の環境での試験からわかっています。


 土木構造物は、100年などの長期間の利用を想定して建設するため、使用する材料の耐久性にも信頼性が求められます。新しい材料を用いる際には、実験室での促進劣化試験での評価に頼らざるを得ない場合もありますが、その試験結果の正しさを確認するためにも、実際の環境での材料の耐久性評価は重要であり、今後もこのような地道な取組みを継続していきます。








(問い合わせ先 :  先端材料資源研究センター(iMaRRC) 材料資源研究グループ)



積雪寒冷地の生活道路における車速抑制対策~ 道路上の装置(物理的デバイス)の研究 ~



図-1 3種類の物理的デバイス

図-1 3種類の物理的デバイス



写真-1 アスファルト製ハンプ供試体

写真-1 アスファルト製ハンプ供試体


 自動車の車速を30km/h以下に抑制できるならば、自動車と衝突して歩行者が死亡する確率(死亡事故リスク)は大きく低下します。そこで生活道路や通学路においては、車速を30km/h以下に抑制可能な道路上の装置(物理的デバイス)が設けられることがあります。物理的デバイスは道路構造令(道路法に基づき道路の構造を定める政令)第31条の2に規定された法律に基づく道路上の装置になります。物理的デバイスの種類には、車道の路面を部分的に盛り上げた凸部(ハンプ)、車道の幅を部分的に狭めた狭さく部、車道を蛇行させた屈曲部(クランク、スラローム)などがあります(図-1)


 北海道を含む積雪寒冷地では、除雪機械の刃によって凸部が削られたり、路肩にたまる雪によって狭さくや屈曲の程度が弱められる等の懸念の声が聞かれます。特にハンプについては、ハンプの平坦部が路面から10cm高くなっており(図-1)、路面の雪を削り取る機械除雪作業による影響への懸念から、冬期のハンプ設置に躊躇している自治体が少なくありません。これまで、機械除雪作業によってどの程度ハンプが損傷するのか、冬期にハンプがどの程度車速を抑制できるのか等を示す実証データは必ずしも整備されておらず、自治体が冬期のハンプ設置に躊躇する一因となっています。また、ハンプの車速抑制効果が最大限発揮されるには、ハンプを横から見たときに緩やかなS字に見える傾斜部(図-1)をもつ必要がありますが、ハンプ傾斜部をS字に成形する方法について知識や経験を有する施工業者は積雪寒冷地の自治体には多くいません。


 そこで寒地土木研究所の寒地交通チームでは、北海道内の自治体の通学路にハンプ供試体の試験設置を行い(写真-1)、機械除雪作業によるハンプ損傷の具合や冬期の車速抑制効果の程度を示した実証データを収集しています。この試験設置においては、北海道内で初めてS字型枠を使ってハンプの傾斜部を施工しました(写真-2)。また、ハンプ手前の0~10m、10~20m、20~30mの区間別に通過した自動車の区間速度を調査して30km/hを超過する台数の割合を分析し(図-2)、冬期のハンプ設置がどの程度の車速抑制効果を有するのかを検証しています。



写真-2 S字型枠によるハンプ傾斜部の施工

写真-2 S字型枠によるハンプ傾斜部の施工
図-2 ハンプ手前の区間別にみた30km/h超過台数の割合

図-2 ハンプ手前の区間別にみた30km/h超過台数の割合





(問い合わせ先 : 寒地土木研究所 寒地交通チーム)

泥炭地域の大区画圃場を対象にした沈下危険度マップの開発に向けて



図-1 水田の不同沈下イメージ図

図-1 水田の不同沈下イメージ図



写真-1 不同沈下した圃場

写真-1 不同沈下した圃場


1.泥炭地域の大区画圃場における不同沈下


 河川や湖沼の付近には、枯れた植物が長い時間をかけて積もり続けてできた泥炭と呼ばれる土が分布しています。泥炭はほかの土と比べ隙間や有機物の量が富んでいるという特徴があります。そのため、泥炭の隙間がつぶれたり、有機物が分解され消失したりすることで泥炭の体積が小さくなり、最終的に地表面が沈下します。地表面が不均一に沈下することを不同沈下といいます(図-1、写真-1)。泥炭地の農地では、1つの圃場内で不同沈下が生じると水田として利用する際は湛水深の均一な管理が難しくなったり、畑として利用する際は圃場表面の乾湿ムラが生じたりという営農上の問題が生じます。そのほかにも、農道や用排水路が不同沈下し、補修する事例が生じています。。

 北海道では農業生産性の向上に向けて農地の大区画化が進められています。日本で有数の泥炭地帯でもある石狩・空知地域も農地の大区画化が進む地域の1つです。農地の大区画化によって農作業の効率化が可能になる一方で、大区画化された農地では不同沈下の問題が顕在化しやすいことが知られており、このことが区画を拡大するうえでの制約となっています。大区画圃場で不同沈下が生じる要因として、大区画化の際の切土や盛土、大区画化前の栽培履歴などの影響が考えられます。なぜなら、盛土が厚いほどその荷重によって沈下しやすく、また、大区画化前に水稲作期間が長かった圃場は畑作期間が長かった圃場よりも泥炭が湿潤で隙間が多い状態が保持されているため、大区画化された後に沈下しやすいからです。


2.沈下危険度マップの開発


 これまで、沈下のしやすさのエリア分けには泥炭の分類や層厚の分布図など(図-2)が使用されてきました。しかし、これらの分布図によるエリア分けは数百メートルからキロメートルスケールで行われるため、どの圃場が沈下しやすいか、さらには圃場の中のどの箇所が沈下しやすいかを詳細に予測することができませんでした。これに対し、大区画化の際の切土と盛土の厚さ(図-3)や大区画化前の栽培履歴は数十メートルスケールでのデータがあります。そこで、本研究では圃場ごとの栽培履歴や切土、盛土の厚さなどのデータを組み合わせ(図-4)、調査のコストや労力を抑えつつ、沈下しやすい箇所をこれまでよりも詳細に予測し、見える化できる手法の確立を目指しています。沈下しやすい箇所を知ることができれば、圃場の大区画化工事における設計・施工および営農方法などによる沈下対策が行いやすくなり、大区画化が円滑に進むことが期待できます。





図-2 土壌・泥炭分類マップの例

図-2 土壌・泥炭分類マップの例
図-3 大区画化の際に生じる切土、盛土の厚さマップの例

図-3 大区画化の際に生じる切土、盛土の厚さマップの例


図-4 沈下危険度マップ作成フローのイメージ

図-4 沈下危険度マップ作成フローのイメージ





(問い合わせ先 : 寒地土木研究所 資源保全チーム)