研究の紹介

教師データ不足に挑む!~生成AIで進化する事象検知AI~

【事象検知の現状と課題】

 国土交通省では、道路管理の効率化や、災害等の異常事象発生時の迅速な対応等のため、全国に約2万台の道路管理用カメラ(CCTV)を設置しています。近年、CCTVを活用した道路管理の更なる効率化・高度化を目的として、AIで異常事象を検知する「事象検知AI」の導入が進められています。

 しかし、AIの精度を上げるための「検知対象となる異常事象の教師データ(AIに学習させるためのデータ)」が不足しているため、検知精度や検知できる異常事象が限られているという課題があります。

 このため、先端技術チームでは、「生成AI」を用いた事象検知AIの機能強化に関する研究を進めています。  

【生成AIとは】

 生成AIとは、テキストや画像、動画など、様々なコンテンツを生成できる人工知能のことです。

 従来のAIが「学習した内容に基づく判断や予測」を行う技術だったのに対し、生成AIは膨大な基礎知識をあらかじめ学習しているため、それを基盤に「創造する」ことができる技術です。

【生成AIを用いた研究①】

 事象検知AIの精度を向上させるための十分な教師データを収集できない課題に対し、テキストを入力することで画像を作成することができる生成AIを用いて異常事象の画像を生成し精度向上につながるか研究を行っています。図1は実際に発生した越波の画像、図2は生成AIで生成した越波の画像です。

 越波については、表1に示すように、事象検知AIの検知精度が向上することを確認しました(数値が1に近いほど、誤検知・見逃しが少ないことを示しています)。
 

図 1 実際のCCTV画像

図 1 実際のCCTV画像
図 2 生成AIで生成した画像

図 2 生成AIで生成した画像
表1 精度向上の検証結果

表1 精度向上の検証結果


【生成AIを用いた研究②】

 従来のAIは検知したい「特定の異常事象」ごとに教師データを大量に集めて学習させる必要がありましたが、生成AIは教師データがなくても多様な異常事象を検知できる可能性があります。本研究では、画像とテキストを入力することで画像の中で起きている事象を説明できる生成AIを活用することで道路管理者が使いやすいシステムを目指して研究を行っています。図3は冠水(道路が水で覆われている状態)の画像を生成AIに入力した結果です。異常事象を検知して警告を出力するとともに、発生している異常事象の状況も的確に説明することができています。

 今後さまざまな異常事象の検知精度を整理しつつ、更なる精度向上や的確な説明文の生成を目指し研究を進めていきます。
 

図 3 生成AIを用いた事象検知

図 3 生成AIを用いた事象検知







(問い合わせ先 : 土木研究所  技術推進本部 先端技術チーム)

水の影響によるアスファルト舗装の劣化メカニズムの推定



※下層路盤:材料には、一般的にクラッシャラン<br>(岩石や玉石を破砕機で砕いた砕石)が使用される。<br>※上層路盤:材料には、一般的に粒度調整砕石<br>(適当な粒度に調整した砕石)が使用される。 <br>図-1<br>試験区間の舗装構成

※下層路盤:材料には、一般的にクラッシャラン
(岩石や玉石を破砕機で砕いた砕石)が使用される。
※上層路盤:材料には、一般的に粒度調整砕石
(適当な粒度に調整した砕石)が使用される。 
図-1
試験区間の舗装構成



図-2<br>ひび割れとポンピング状況<br>(60万輪終了後)

図-2
ひび割れとポンピング状況
(60万輪終了後)



 図-3<br>本試験で想定される劣化メカニズム

図-3
本試験で想定される劣化メカニズム





 日本の舗装されている道路のうち約95%がアスファルト舗装となっています。昨今では予算制約がある状況下で効率的な舗装管理が求められており、アスファルト舗装の長寿命化は喫緊の課題となっています。

 その長寿命化を阻害する要因の一つが早期劣化(想定した年数よりも早く劣化)です。アスファルト舗装の劣化状況は一様ではなく、交通条件や気象条件、構造条件の違いにより、劣化の進行形態や発生箇所は多様です。

 そのため、早期劣化メカニズムを把握し、それらに応じた対策を講じる必要があります。  


 アスファルト舗装は、アスファルト混合物を表層に持ち、一般に表層・基層・路盤から構成された舗装です(図-1)。アスファルト舗装の早期劣化の要因の一つとして、ひび割れから水が舗装内部に浸入した状況下で、繰り返し交通荷重を受けて路盤が脆弱化することが挙げられています。

 そこで、土木研究所では、早期劣化メカニズムの把握及びそれに応じた長寿命化対策の提案を目的に、周回型の舗装走行実験場において2023年から重量車両を自動走行させた促進載荷試験(壊れる過程を早く再現)を実施しています。  

 また、劣化状況を比較するためにアスファルト混合物層を貫通した模擬ひび割れがある工区(Crack工区)と模擬ひび割れが無い工区(Normal工区)を設け、人為的に路面に散水することで、舗装内部への浸水による早期劣化を再現して実験しています。  


 実験の結果について、Crack工区においては、当初想定していた走行回数よりも早い段階で新たな貫通ひび割れが発生しました。また、模擬ひび割れ部において路盤材の細粒分(粒径75μm未満の土粒子)が噴き出すポンピング現象も見られました(図-2)。このポンピング現象は実道で見かけたこともある方もいらっしゃることと思います。

 この損傷の原因を特定するために、上層路盤内の状態を確認したところ、上層路盤上部まで多くの水を含む状態(以下高含水状態)となっていました。通常、舗装内に浸入した水は下層へ浸透すると考えられます。しかし、本実験では、地盤工学の分野で認知されているキャピラリーバリア(粒度の異なる境界で発生する遮水作用)が、舗装内でも粒度の異なる路盤層の境界で発生したことで、上層路盤上面まで高含水状態になったと考えられます。

 

 これらの結果から推定した劣化メカニズムを図-3に示します。今回の劣化は、キャピラリーバリアの発生により上層路盤の高含水状態が維持され、そこに繰り返し交通荷重が加わることで、上層路盤内の細粒分が移動・流出し、上層路盤面に変形(沈下)が生じたことが一因として考えられます。。

 このように劣化メカニズムの解明を進めていき、それに応じた対策を提案していくことで、アスファルト舗装の長寿命化に貢献していきます








(問い合わせ先 : 土木研究所  舗装チーム)

ゼオライトによる新たなASR補修法に関する研究

 コンクリートは、自由な形に成形することが可能で、圧縮強度や耐久性が高いため、現在でも建設材料の主流として用いられています。一方、過去にはメンテナンスフリーといわれていたコンクリートですが、想定よりも早期に劣化する現象が1980年頃に顕在化し、それ以降、耐久性の確保が注目されるようになりました。  

 コンクリートの劣化は種々ありますが、アルカリシリカ反応(以下、ASRと記述)は、疲労、塩害とともに道路橋の三大損傷といわれています。pHが高いアルカリ環境下で、コンクリート材料の砂や砂利などの骨材に含まれる反応性シリカ(SiO2)と、主にセメントに含まれるナトリウムやカリウムなどのアルカリ金属イオンが化学反応してアルカリシリカゲル(以下、ゲルと記述)が生成され、このゲルが吸水して膨張すると、コンクリートに大きなひび割れが生じます(写真-1)。現在では、ASR抑制対策として、反応性骨材を用いない、コンクリートのアルカリ総量を3kg/m3以下にする、混合セメントを使用する、のいずれかを実施する必要がありますが、過去に造られた無対策の構造物などでASRが生じた場合には、適切な補修を行う必要があります。

 ASRの補修では、ひび割れ注入や断面修復とともに、ゲルの吸水を防ぐため水を遮断する表面被覆などが主として行われます。しかし、補修後もASRによる膨張が続き、再劣化に至る事例も確認されています。このため、最近では、ゲルの膨張自体を抑制する対策として、コンクリート内部に亜硝酸リチウムを圧入する工法が開発されています。一方、亜硝酸は環境基準が定められているため、港や河川等に近接する道路橋等では適用困難な場合もあります。そこで、空隙を多数有するゼオライトの陽イオン交換機能に着目し、ゲルを非膨張化させるリチウムイオンや高アルカリ環境を改善する水素イオンを含ませたゼオライト(リチウム型、酸処理型)をコンクリートのひび割れに注入または削孔して充填する(写真-2)新たな補修法について検討しています。  

 市販の補修材の一部をゼオライトで置換してひび割れ注入または削孔充填した後、40℃水中に常時浸漬させる促進試験を行った結果、ゼオライト置換率が高いほどASRの膨張抑制効果が高く、亜硝酸リチウムと同等の効果が得られることや、置換率をより高めることができる削孔充填の方が効果は高いことを確認しています(図-1)。今後は、実際の構造物の補修に適用してその効果を検証し、ゼオライトによるASR補修方法(案)を提案する予定です。






写真-1<br>ASRで生じたと考えられる段差を伴うひび割れ

写真-1
ASRで生じたと考えられる段差を伴うひび割れ


 

写真-2<br>ゼオライトの注入(左)および削孔充填(右)

写真-2
ゼオライトの注入(左)および削孔充填(右)




図-1<br>ゼオライト補修後のASR促進試験における長さ変化率<br>(※参考文献の図-7を編集して掲載)<br>(左;打撃による振動計測、右;大きな基部損傷が生じた状態の模型橋脚)

図-1
ゼオライト補修後のASR促進試験における長さ変化率
(※参考文献の図-7を編集して掲載)





 

[参考文献]
白井良明、遠藤裕丈、三原慎弘:ゼオライトを用いた既設コンクリートのアルカリシリカ反応進行抑制に関する基礎的研究、
寒地土木研究所月報、No.866、pp.10-18、2025.2  
 






(問い合わせ先 : 寒地土木研究所 耐寒材料チーム)