新潟試験所ニュース

研究ノート

地すべり地における地下水調査法の研究

1. はじめに

 地下水排除施設を地すべり斜面内に配置するには、地下水帯水層が斜面内のどこに分布するかを調査する必要があります。このための地下水調査法としては幾つかありますが、ボーリング孔を利用することから調査地点を数多く設定できないため、地下水の帯水状況を精度高く調査できないのが現状です。そこで、この問題を解決するために、高密度電気探査が実施されています。なお、高密度電気探査は、地すべり斜面に電極を配置し電流を流すことにより地面の抵抗(比抵抗)を測定して、地下水帯水層を低コストで断面的に調査しようとするものです。しかし、この探査は、一般の大規模な土木工事に用いられる調査法ですが、現状ではそのまま地すべり調査に適用されています。このため、満足できる調査結果が得られない場合が数多くあります
 そこで、新潟試験所では、高密度電気探査を地すべり調査に適したものにするための研究を行っています。今回は、赤崎地すべり(新潟県)で実施した研究結果を紹介します。

2.研究方法及び結果

 地すべり調査では、地質構造や水みちを数10cmオーダーで詳細に把握する必要があります。このためには、地すべり調査に適した電極配置で、かつ電極間隔をできるだけ狭くして調査する必要があります。このことから高密度電気探査の電極配置及び電極間隔についての比較試験と、高密度電気探査による地下水調査を各々実施しました。
(1)電極配置に関する比較試験
 試験は、一般的な4種の電極配置を取り上
げ実施しました(電極間隔0.5m)。
 表−1には、各電極配置による探査精度の評価結果を示しました。探査精度は、各評価
値が小さくかつデータ数が多いほど高くなります。今回の試験で取り上げた4種の電極配置の中では、2つの項目で評価値が最も小さい結果となった等間隔CPP法を一番探査精度の高いものと判断しました。     


表−1 各電極配置の探査精度
電極配置法 電極間隔
(m)
RMS残差
(%)
ABIC 推定標準偏差
(%)
データ数
等間隔CPP法 0.5 5.10 -7851 5.99 6000
ポール・ダイポール法 0.5 23.50 -7765 1.95 5560
ダイポール・ダイポール法 0.5 36.20 -2770 25.26 1450
ウェンナー法 0.5 5.88 -10966 38.49 4240

(2)電極間隔に関する比較試験
 電極間隔はできるだけ狭くすることが望ましいのですが、電極間隔を狭くすると探査精度が低下する恐れがあります。そこで、この点についての検討を行うために、等間隔CPP法の電極間隔を変えて試験を行いました。
 表−2は、評価した結果です。電極間隔2.0mは、RMS残差及び推定標準偏差の2つの項目で最も小さな評価値を示しましたが、ABICについては最も大きな値を示し、他の電極間隔との差は大きなものとなりました。また、電極間隔1.0mと0.5mでは、1.0mの方が3
つの評価項目で小さな評価値を示しましたが0.5mとの評価値の差は大きなものではありません。これらのことから、赤崎地すべりでは電極間隔を情報量の多い0.5mとしても問題ないことが分かりました。     


表−2 各電極間隔の探査精度
電極配置法 電極間隔
(m)
RMS残差
(%)
ABIC 推定標準偏差
(%)
データ数
等間隔CPP法     0.5 5.10 -7851 5.99 6000
  1.0 4.80 -7951 5.74 1500
  2.0 0.90 -2356 1.95 375

図−1 地層比抵抗係数と湧水能との関係(山口原図による)
図−1 地層比抵抗係数と湧水能との関係(山口原図による)

(3)地下水調査への適用性試験
 試験は、電極配置を等間隔CPP法とし、 電極間隔を0.5mとして実施しました。
1)高密度電気探査結果と帯水層との関係 
 高密度 電気探査 結果と帯 水層との 関係につ いては、 山口が提 案した地 層比抵抗 係数Fと 湧水能μ との関係 図(図−1)をも とに検討 しました。
なお、F は、地塊 の比抵抗 を地下水 の比抵抗 で割った値であり、μは帯水層1m当たりの湧水量(m3/day/m)です。
 図−1では、Fが特定の範 囲内にある場合にμが大き いことを示し、Fから帯水 層の分布を推定できる可能 性があることが分かります。  表−3には、調査測線上 のボーリング孔において調 査された帯水層深度と各帯 水層のFを示しました。な お、Fを求める際の水比抵 抗は、泥岩内の地下水検層 時の値をもとに25ohm-mと しました。帯水層のFは2.4 〜6.0の範囲となっており、 図−1に示したμの大きな 区間に属します。ちなみに、帯水層以外のFは概ね2.0以下または8.0以上となり図−1に示すμの小さい区間に属します。

表−3 帯水層の地層比抵抗係数
ボーリングNo. 地下水帯水層の地層の比抵抗係数
BV8-3 2.4〜3.2 (深度 8m)
BV58-1 5.0〜6.0 (深度 2m)
BV10-9 2.4〜3.2 (深度 19m)

2)高密度電気探査による地下水調査結果
 図−2は、高密度電気探査による地下水調査結果です。なお、ゾーン区分は、高密度電気探査結果と表−3に示した帯水層のFをもとに、水理地質を4段階にゾーン区分(図−2中に示す)しています。
 各ボーリング孔における帯水層はゾーンUの難帯水層〜帯水層に属し、連続して分布していることが示されています。また、ゾーンU、VはBV8-3とBV10-9の間の距離50〜80m
間で狭くゾーンTとWに挟まれた状態となっており、距離10〜50m間ではほぼ水平に連続し地表面に出ている部分も認められます。なお、この区域は現場では地下水位が高い状態となっており、ゾーン区分結果は現場の状況と一致しています。

図−2 二次元比抵抗探査による地下水調査結果
図−2 二次元比抵抗探査による地下水調査結果

 以上の結果、帯水層は、高密度電気探査から求められる地盤の比抵抗と、現地計測による地下水の水比抵抗から求められる可能性のあることが分かりました。

(文責:丸山)

写真-1 すべり測定車
写真-1 すべり測定車
(路面すべり測定車)

 雪国では冬の間、道路の上に圧雪や凍結が生じ、非常に滑り易い状態になります。
 新潟試験所ではこの様な状態を定量的に明らかにし、効果的・効率的な雪氷路面対策に役立てるための研究を実施しています。
 従来から路面の滑り易さは、すべり摩擦係数で表され、数値が小さいほどタイヤが滑り易い状態であることが分かります。この数値を計測する機器は簡易なものから大型なものまで各種ありますが、今回試験所では中型バスを改造した「路面すべり測定車」(写真−1)を製造しましたので紹介します。

図−1 摩擦係数と停止距離
図−1 摩擦係数と停止距離

 写真からも分かるように、前輪と後輪の間にすべり摩擦を測定する車輪が装備され、走
行中にこのタイヤだけを制動(ロック)させ
ることにより、雪氷路面のすべり摩擦係数を測定します。
 この方式は一般車両のタイヤが走行した箇所(わだち)のすべり摩擦係数が計れる他、車両重量が重いため、圧雪で路面が凸凹の場合にも比較的正確な計測が可能です。
 図−1にすべり摩擦係数と時速40qで走行する車両が停止するために必要な距離(制動停止距離)を示します。
 図からも明らかなとおり、摩擦係数が小さいと車は 急に止ま れなくな り、スリ ップ事故 や追突の 危険性が 高まります。

図ー2 路面状態と摩擦係数
図ー2 路面状態と摩擦係数

 図−2に平成10年度に新潟県中頸城郡妙高高原町の一般国道18号で観測した路面状態とすべり摩擦係数を示します。
 一般的に言われるように、氷板や圧雪路面
では摩擦係数が小さな値となり、危険な状態であることが分かります。ここで注目すべき点として、路面に少量の雪や氷の粒があり、水と混ざっている(シャーベット)状態でも摩擦係数が小さく危険な場合があるということです。
 運転者は シャーベッ ト状態では スピードを 出しがちな ため、対策 が必要とな ります。
 今年度は一般国道18号の新潟県妙高高原町二俣から長野県信濃町古間の間で雪氷路面のすべり摩擦係数を測定していきます。


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