新潟試験所ニュース

研究ノート

光ファイバセンサによる地すべり計測技術の検討

1. はじめに

 IT革命の時代と呼ばれ、情報技術の推進が叫ばれている昨今、光ファイバは、情報伝送の有力な手段として、全国的に普及してきています。また、最近では光ファイバ自体がセンサとしての特性を持つことが確認され、砂防・地すべりの分野においても、光ファイバによる各種計測技術に関する研究・開発が進められつつあります。
 新潟試験所では、地すべり災害への対応に着目し、試験地である沖見地すべり地において、光ファイバセンサを用いた地すべり移動把握、及びアンカ−の応力分布把握の適応性について検討を進めているところであり、本文では、その内容について紹介します。

図-1 錯乱光の周波数分布

図-1 錯乱光の周波数分布

2.光ファイバセンサの基本原理

 光ファイバに光パルスを入射すると、入射端方向へ反射される後方散乱光が生じます。図−1は散乱光の周波数分布であり、この後方散乱現象は、レイリー散乱・ラマン散乱・ブリルアン散乱などに分類されます。
 これまでの研究から、レイリー散乱は曲げひずみ、ラマン散乱は温度、ブリルアン散乱は伸びひずみの依存性が高いことが分かっており、センサの実用化がされつつあります。また最近では、光ファイバ自体に特殊な加工を施し、特定の波長の光のみを反射させ、その周波数変化によってひずみを計測する方法が提案されており、この技術を用いた温度計や水位計、加速度計等の開発も進められています。


図-2 光ファイバセンサ設置概要図

図-2 光ファイバセンサ設置概要図

3.光ファイバセンサの設置状況

 試験地では、地表面の変状をリアルタイムに計測するため、BOTDR(Brillouin OpticalTime Domain Reflectometer)を用いた光ファイバセンサを地面に敷設しています。また、アンカーの応力状態を計測し、長期的な維持・管理方法を確認するため、FBG(Fiber Bragg Grating)センサをアンカ−体及び受圧板に設置しています。なお、ファイバセンサ設置概要は図−2のとおりです。

1)地表面変位計測に関する検討

 地表面変位計測については、光ファイバを平面的に格子状(10mメッシュ)に配置し、地すべりによる地表変動をリアルタイムで計測することを目的として設置するものです。
 地表面の変位計測に用いるセンサは、単芯の光ファイバ(コア径10μm、クラッド径125μm)をステンレス管内に導入したものを用いています。また、ステンレス管には1mピッチごとに管内の光ファイバを固定するための締め付け箇所が設けてあり、その間では、光ファイバに0.2%歪に相当するプレテンションがあらかじめ導入されています。この構造によってその間に発生した歪が外側の区間に分散しないため、歪発生位置を1m間隔に限定して計測することができます。

写真-1 地表面変位計測センサ敷設状況

写真-1 地表面変位計測センサ敷設状況

 地表面変位計測センサの埋設状況を写真−1に示しました。地盤に固定せずに設置した場合には、地盤の動きによって多少張力が生じても、ファイバ自体が地盤内を移動することによって張力が分散され破断が回避されます。ただし、この方法では歪発生位置分解能が低下ことになります。逆に、ピンなどで完全に地盤に固定した場合は、歪発生位置分解能は向上するものの、局所的に歪が集中し、ファイバの破断を招くおそれがあります。
 これらについては、双方の敷設方法を実施するとともに、ファイバ交点に移動杭を設置することで、計測精度・長期観測両方の観点から、検討を進めていくことにしています。

2)アンカーの応力計測に関する検討

写真-2 アンカ−本体へのFBG歪計貼付状況

写真-2 アンカ−本体へのFBG歪計貼付状況

 アンカーの応力計測については、従来のセンサが数年で劣化することから、長期的な維持・管理を目的に設置するものであります。
 アンカー体については、自由長・定着長部分に、従来のひずみゲージに代わるFBG歪計を貼付けます(写真−2)。また、アンカ−体周辺のグラウト部分についても、アンカ−体に高さ10mmのゴム製台座を介し、埋込FBG歪計を取り付けます。
 受圧板については、コンクリート製受圧版は、工場内で配筋に埋込FBG歪計を固定して工場製作するものとし、鋼製受圧版は、直接FBG歪計を貼付けます。
 これらのファイバセンサと、従来のセンサ(歪ゲージ)を併設し、計測精度や耐久性などについて比較検討を進めていくことにしています。

4.最後に

 今回紹介した、地すべり地表面及びアンカ−への光ファイバセンサの設置は、まだ途中段階であります。よって、センサ設置後の観・解析結果に関しては、後日報告します。

(文責:吉田)

実験施設紹介
能生町柵口地区

能生町柵口地区

(リングせん断試験機)

1.はじめに

能生町柵口地区は、昭和61年1月に権現岳(標高1,108m)の中腹(標高850m付近)から大規模な面発生乾雪表層雪崩が発生し、集落までの約1.8kmを流下して、死者13人の被害が発生しました。
 その後、雪崩減勢工、誘導堤など砂防、治山施設が整備され、その後被害を及ぼすほどの大きな雪崩は起きていませんが、近年でも一冬平均で約50回の雪崩が発生しています。
 新潟試験所では、このような雪崩の頻発する当地において、自動観測システムを整備し2月より記録収集を開始したのでここに紹介 します。

2.観測システムの概要

 権現岳東斜面において、山頂から山麓まで標高別の3箇所(うち1箇所は新潟県観測)に気象観測設備を設置しました。計測項目は気温、風向風速、積雪深を基本とし、中腹部においては、日射量、放射収支等の気象観測や、気圧計、超音波風速計による雪崩の風圧測定も行います。

監視局舎内状況
監視局舎内状況

  また、月明かりでも観察可能な2台の高感度ITVカメラにより斜面の観測を行い、雪崩の動態を把握します。中腹部の流下域には震動計(上下、水平2成分)を設置し、雪崩発生検知のセンサーとしての効果検証を行うとともに、震動をトリガーとして雪崩発生前の蓄積画像と発生後から流下、停止までの状況の画像とを結合し、発生状況の動画を圧縮率が高く劣化が少ない形式の画像ファイルに
自動圧縮して保存します。
 以上の全ての記録は集落内に設置した監視局舎に集積して、データの一部はNTT回線を用いて新潟試験所まで転送します。
 雪崩は発生後に 調査されることが 多く、発生前から 停止までの状況が 不明な場合が多い ため、今後は雪崩 の発生前から停止 に至るまでの雪崩 の動態や気象条件 などが明瞭に把握 できると期待され ます。


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