新潟試験所ニュース

研究ノート

JICAの技術協力に参加して

インドネシア国砂防技術センター
インドネシア国砂防技術センター

 3月18日より29日まで秋山がJICAの短期専門家としてインドネシア火山地域総合防災プロジェクトの「土砂・水災害工学研修コース」に派遣されたのでここに報告します。
 インドネシアは日本と同様に環太平洋造山帯に位置し過去から火山噴火・地震・洪水など数多くの災害を被っています。このため、日本から1970年より技術移転が進められています。現在では火山災害が活発なメラピ山のあるジョクジャカルタに砂防技術センターが置かれています。
 今回は国内の自治体に所属する防災関係技術者に対して、防災事業と地域振興に関する講義や討論を行なった後、バリ島のモデルプロジェクトエリアの視察に参加しました。
 防災事業は人々の生命、財産を守ることが第一ですが、同時に生活水準の向上の役割も果たしています。例えば、砂防ダムなどの防災施設を有効活用し、灌漑用水や発電のために取水したり、あるいは施設が整備され安全度が高まり住宅地や耕地に利用できるなど、防災事業はその地域の振興に大きく寄与しています。
 研修コースでは主に日本での防災施設の多目的利用事例や、地域開発に寄与する防災事業の役割について紹介しました。

流雪流路工
流雪流路工

 防災施設の多目的利用法としては、飲料水や灌漑、水力発電などの取水施設の併用や、道路など交通のための施設の併用などがあげられます。また、林業などの地場産業と連携し、構造物の材料として利用する場合もあります。インドネシアでは農業が盛んなため、防災施設を灌漑用水の取水として多目的に利用している事例が多いのが特徴的です。
 豪雪地である日本の特徴として、流雪流路工についても紹介しました。最もインドネシアは熱帯で雪が降ることはないのですが、数mも積もる日本の環境や、家屋周辺の除雪方法、少しの工夫で快適な生活環境が得られる点などには非常に興味を持ったようでした。最後に流域規模での防災と地域開発(農業)について、日本とインドネシアの事例について討論を行い講義を終了しました。
  研修コースの最後はバリ島に移動し、現地視察を行いました。モデルプロジェクトエリアはバリ島の北東部(Tulamben)にあり、国際的なリゾート地である島南部からは車で3時間ほどかかります。当地は最近ではダイビングで知られるようになっていますが、観光ガイドブックをみてもほとんどが地名だけしか書いてありません。
 バリ島は観光地として有名ですが、農業もさかんに行われており、特に米作は日本でみられる風景と変わりありません。  

バリ島のライステラス
バリ島のライステラス

 モデルプロジェクトが行われているのはアグン火山(標高3,142m)北方のDaya川上流域で、アグン山を形成している地質年代が比較的新しく、周辺は浸透性の高い火山噴出物に覆われているうえ、島の他の地域に比べ年間降水量が約1,000mmと少ないため、普段は表流水がみられず乾期には半乾燥地帯のような状態になります。しかし、普段は水が流れていない川でも、雨期の集中豪雨では洪水や土砂災害が発生します。
 生活用水は沿岸部では海岸付近の湧水や井戸水を用いていますが、内陸では地下水位が低いうえ表流水がないため水の確保は容易ではありません。生活用水も雨期の降雨を貯留した貯水タンクの水しか利用できない場合が多く、生活環境は良好とはいえません。
 高標高部には稀に湧水がある場合がありますが、洪水などで取水施設が被害を受けたり灌漑に利用できるほどの量が確保できない状態で、農業も水田はなく比較的乾燥に強いマンゴー等の果樹やカシューナッツなどが主体です。

アグン山とDaya川上流部 アグン山と流路工
アグン山とDaya川上流部 アグン山と流路工

研修生と筆者
研修生と筆者

 ここでは砂防施設により災害を防ぐほか、緑化による侵食防止、緑化のための供給水の一部を地域で利用できるように、地下水の開発が計画されています。
 中流から下流にかけては砂防施設が整備されており、洪水の氾濫や、島を一周する道路橋の被害防止に役立っているほか、堆積した石礫を骨材としても利用し、地域振興に役立っています。

 最後に、当プロジェクトが成功し、地域住民の振興に寄与することを祈念いたします。

(文責:秋山)

 
   
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