新潟試験所ニュース

研究ノート

日米道路科学技術に関するワークショップに参加して

1.はじめに

 2002年11月にアメリカ合衆国で開催された「第10回日米道路科学技術に関するワークショップ」に参加する機会を得ましたので、その概要及び道路管理等について視察した状況を紹介します。
 本ワークショップはユタ州ソルトレイクシティで開催され、ワークショップ終了後、ワシントン州シアトルに移動し、意見交換・施設見学等を行いました。


2.日米道路科学技術ワークショップ

写真1 オリンピック開会式会場のユタ州立大学スタジアムから
写真1 オリンピック開会式会場のユタ州立大学スタジアムから

 本ワークショップは、「日米道路科学技術に関する実施取り決め」(1992年に調印、1997年再調印)に基づき、1992年から日米交互に毎年開催しているものであり、今回は「交通需要管理(TDM;Travel Demand Manage - ment and Operations:An Intermodal and Technology Based Approach)」をテーマとし実施されました。
 ユタ州ソルトレイクシティは2002年の冬季オリンピックの開催された都市であり、ユタ州の州都です。人口約18万人、豊かな自然と山々に囲まれた、整然とした町並みを持つ都市です(写真1)。ユタ州の人口は約220万人であり、Wasatchエリアと呼ばれる州の中心部では約150万人の人口を有しています。
 今回のワークショップは11月4日から6日まで実施され、日本からは国土技術政策総合研究所(国総研)の道路研究部中村部長をリーダーとし、国総研4名、国土交通本省道路局2名、そして独立行政法人土木研究所から筆者1名の計7名が参加しました(写真2)。米国側からは、米国交通省連邦道路庁 (FHWA:Federal Highway Administration)西地域局長のCristine Johnson博士、連邦公共交通庁 (FTA:Federal Transit Adminis-tration)第8地域局長のLee Waddleton 氏の他、ユタ公共交通局 (UTA:Utah Transit Authority)、ユタ州交通局 (UDOT:Utah Department of Transportation)等から20名以上の参加者がありました。

写真2 ワークショップ参加者
写真2 ワークショップ参加者

 11月4日(月)はユタ公共交通局の本部にて開会とプレゼンテーション、そして市内の現地視察、5日(火)、6日(水)にはユタ州交通局の交通管制センター(TOC:Traf- fic Operation Center)にてプレゼンテーション及び施設見学を行いました。
 初日に基調スピーチが行われ、米国側からDr. Christine Johnson局長により、ITSの基盤整備、関係機関の連携など交通流を円滑にするための方策について総括的な説明が行われ、それに続き、日本側の中村部長により転換期にある日本の道路行政の現状と今後の方向についての基調スピーチが行われました。
 参加者のプレゼンテーションとして日本側から、新交通システムの導入と路面電車の再活性化、日本における交通管理とTDM、プローブカーを用いた先進的な道路交通調査、カーシェアリングの実験的調査、VICSの普及とバスプローブシステムの実験的調査、そして筆者の、日本における冬期道路管理の新技術、が発表されました。米国側からは、ITSを用いた先進的な道路技術、ユタ州のインテリジェント交通システムの概要、米国における交通管理とTDM、事故管理と利用者への情報提供システム、ユタ州交通管理センターでの冬期道路管理、などの発表がなされ、それぞれの発表に対して活発な議論が行われました。冬期道路管理に関しては米国側からRalph Patterson氏による「ユタ州交通管理センターにおける冬期道路管理」が発表され、UDOTでは路面の状況を把握するため、大気センサー、路面表面センサー等を設置し、各気象要素、路温・凍結温度等を観測していること、これらのセンサーについては電源の確保が問題となっているとの指摘がありました。
 除雪については、路面状況、気象状況などがパソコン上で見られるようになっており、除雪クルーがそれを見て凍結防止剤散布等の判断を行い、出動する体制をとっているとのことで、除雪開始等の判断基準については、気温、路温、その他から判断しており、経験がものを言う部分があるとの説明がありました。

写真3 ユタ州交通管制センター
写真3 ユタ州交通管制センター

 冬期道路管理の水準については、すべり摩擦係数や走行速度などの指標を基に管理しているかどうか質問したところ、特に数値としての指標ではなく、市街地では路面を常に出す(black roadとの表現)、山岳部ではできるだけ路面を出すという形で管理しているとのことでした。なお、除雪クルーはUDOTの職員であり、ワークショップの当日も、職員に対する研修が行われていました。
ワークショップの期間中、ソルトレイクシティの路面電車とパークアンドライド施設の現地視察、ワークショップの会場となった交通管制センターの見学を行いました。
 UTAによる路面電車(TRAX−Light Rail System)は、オリンピックの際の重要な輸送手段として延伸、車両の増強等が行われ、低床式車両の導入を進めているが、すべての車両が低床式ではないため、車椅子等での乗車を考慮し、各駅ではスロープが設置されており、われわれが乗車している間にも車椅子での乗車がみられました。
 ソルトレイクシティではオリンピックによる交通集中等に備え全米でも有数の交通管制システムを構築してきており、ワークショップ2日目と3日目の会場となった交通管制センターはその核となる施設です(写真3)。
特にワークショップの会場となった会議室は、オリンピック期間中に各所属の担当者が集まり実際にオペレーションを実施した場所とのことでした。


3.ワシントン州シアトルにおける現地視察

写真4 セイフコフィールド・スタジアム近くからのシアトルの街並み
写真4  セイフコフィールド・スタジアム近くからのシアトルの街並み

 ワークショップ終了後、ワシントン州シアトルに移動し、ワシントン州交通局とワシントン州キング郡交通局を訪問しました。
 シアトルはイチロー、佐々木などの日本人選手で有名な大リーグ、シアトルマリナーズの本拠地であり、人口約60万人、ワシントン州で最大の都市であり(写真4)、ワシントン州は人口約600万人、カナダと国境を接しています。
 11月7日午前中、キング郡交通局にて、リアルタイム交通マネージメントシステム、インターネット・電子メールを活用した交通情報提供システム、ディーゼルハイブリッドバスシステム等について説明を受けました。
 午後、ワシントン州交通局において、州の交通の状況・対応策、ワシントン州交通局(WSDOT:Washington State Department of Transportation)とワシントン大学によるITSを活用した交通管理の取り組み等について説明を受けました。ワシントン州はアメリカでも降雪の多いところで、除雪に関してGPSで道路を確認しながら除雪するシステムの開発、雪崩の危険がある箇所におけるリモコン操作無人機械での除雪作業の実施、その他、路面温度の予測とその公表等の説明がありました。路面温度については、リアルタイムの路面温度と24時間後の路面温度の予測をインターネット上で公表しているとのことでした。説明後、交通管制センターの見学を行いました。


4.おわりに

 今回のワークショップおよび現地視察を通して、交通需要管理(TDM)を中心とし冬期道路管理に関しても、技術情報の交換が行われ、非常に有意義な機会となりました。


 (文責:武士)
   
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