新潟試験所ニュース

研究ノート

積雪地域における土砂の生産と流出現象


1.はじめに
図−1 調査対象地域
図−1 調査対象地域

 毎年融雪期には、全層雪崩による土砂の巻き込みや河川水の濁度増加など土砂の生産・移動現象が観察されます。これら積雪の影響については、雪食作用による崩壊地の変遷、雪崩地形の特徴や分布、浸食量など全層雪崩に関するものや、融雪水による土砂流出などの研究事例があります。
 これら積雪が関与した土砂の生産及び流出現象に関しては、豪雨による現象に比べ定量的な調査は少なく1) 、流域を対象とした土砂動態は不明な点が多いのが事実です。このため、土砂浸食が活発な流域において、土砂の生産・流出に対する積雪の寄与度について評価することが調査の目的ですが、今回は生産現象を中心に紹介します。

2.調査対象流域の概要と地形的特徴

図−2 対象地域の雪崩地形・崩壊地の分布
図−2 対象地域の雪崩地形・崩壊地の分布

 新潟・長野県境に位置する苗場山の西麓にある信濃川水系中津川支流硫黄川(流域面積13.2km2)・小赤沢川(同7.8km2)および中津川左岸にある鳥甲山東斜面の白沢を調査地に選定しました(図1)。
 調査地の最大積雪深は、小赤沢川下流の気象観測(国土交通省湯沢砂防事務所観測)によると180〜310cm(H10〜H13)で、概ね積雪期は12〜5月、非積雪期は6〜11月となっています。
 調査地を構成する地質は苗場火山の噴出物(第四系)である安山岩・玄武岩を主体とし、硫黄川流域には凝灰岩も分布します。硫黄川・小赤沢流域いずれも苗場火山体を開析する多くの地すべりが発達しています。 非積雪期の空中写真判読による地形的特徴として、硫黄川流域の高標高部稜線直下には雪食地に特有で線的な筋状地形や、面的な低灌木・斑状浸食地(雪崩地形)がみられますが、雪崩強度の大きい箇所にみられる樋状の地形(アバランチ・シュート)までは発達していません。これに対して、小赤沢流域ではこれらはほとんど存在せず、硫黄川流域では上流部に多数の崩壊地が存在しますが、小赤沢流域では少なく渓岸部の崩壊地が分布します。鳥甲山東斜面は中津川に沿って連続的に急勾配な斜面を形成しており、大規模な崩壊や崖錐・雪崩地形が発達し土砂生産が活発であるのが特徴的です(図2、写真1)。

写真−1 鳥甲山東斜面(白沢)の状況(H14.4)
写真−1 鳥甲山東斜面(白沢)の状況(H14.4)

3.調査内容

 融雪期(4〜5月)に空中写真撮影を行い、判読により全層雪崩の発生や土砂生産状況の広域的な把握を行いました。硫黄川・小赤沢川の流域内では、南北方位の裸地・崩壊地で12斜面を選定し、斜面浸食量、積雪グライド量の実測を降雪前と消雪後に実施しています。 また、浸食の活発な鳥甲山東斜面の白沢では、最上部の堰堤を基準に上流側において河川縦横断測量や全層雪崩のデブリに含まれる浸食土砂量の計測を行っています。

 

4.調査結果

図−3 土砂生産を伴う全層雪崩の分布
図−3 土砂生産を伴う全層雪崩の分布

4.1 広域的な土砂生産状況
 3時期の空中写真より判読した全層雪崩・土砂生産状況について図3に示します(鳥甲山東斜面は1時期のみ)。全層雪崩と土砂の生産箇所は渓岸、渓流上部にある崩壊地、雪崩地形と非常に調和的であるとともに、各年度とも同じ箇所において全層雪崩・土砂生産が発生する傾向にあります。概して西斜面より東斜面の方が雪崩規模が大きく浸食が活発であることがわかります。通常積雪地では季節風により東側に積雪が多く、傾斜が東西で異なる非対称山稜を形成する場合があり、密接に関係しているものと思われます。

4.2 全層雪崩による浸食量
 全層雪崩の浸食量に関しては、発生箇所が上流部であることがほとんどで、通常は情報を得ることが困難です。白沢では斜面直下に治山堰堤が設置されており、毎冬期に当地で規模の大きい全層雪崩が発生し、空中写真では最も土砂生産が著しいため直接的な計測を開始しました。
 全層雪崩による運搬土砂量については、小野寺(1990)2)より整理されており、国内の7事例では最大で8.0×103m3で、中小規模の全層雪崩では一度に101m3のオーダーであるが、火山性斜面に発生する大規模な全層雪崩で前記程度のオーダーに達することが示されています。本調査地では102m3レベルに達することが判明しています。全層雪崩発生地では毎冬このような土砂の生産があり、長期間でみた場合は相当な量になると考えられます。

4.3 積雪期における恒常的な土砂生産
 試験斜面のうち、継続的に実施している4斜面の浸食量変化を図4に示します。試験斜面では全層雪崩には至らず毎冬期の積雪グライド量は1〜4mでした。場所や時期により差異がありますが、積雪期・非積雪期ともに数mmの浸食を受けており、積雪期の浸食深が非積雪期を上回る傾向にあります。これらは積雪グライドや融雪水、凍結融解など冬期間における浸食量に相当しますが、消雪後に斜面下部に排土された土砂が連続的に堆積しており、積雪グライドの営力が主と考えられます。
 図5に4斜面での浸食量の平均と、積雪期の最大積雪量、非積雪期の降雨量との関係を示します。積雪量は平均密度0.35g/cm3として、降雨とともに水量換算で表しています。
 期間中は積雪の寄与度の方が大きいことがわかります。

図−4 斜面浸食量の推移 図−5 積雪・非積雪期の浸食量と水量の関係
図−4 斜面浸食量の推移 図−5 積雪・非積雪期の浸食量と水量の関係

 

5.まとめ

 当地においては、植生のない裸地や崩壊地において、積雪の存在だけで101〜100 mm程度浸食されており、一般的に言われている降雨による裸地の年間浸食量と同程度で、期間中は非積雪期と同程度以上の寄与度でした。全層雪崩の発生箇所ではより多くの土砂を生産していますが、これは雪崩地形・崩壊地上で毎年繰り返し発生します。土砂生産や流出に積雪が関係する事象として、他に雪泥流や融雪出水、積雪期間中の大雨による生産が考えられますが、いずれも情報は断片的で、積雪地においてはこれらを含め、積雪期間中の時系列的な動態の検討が課題です。

(参考文献)
1)水文・水資源学会編集出版委員会編(1998):積雪寒冷地の水文・水資源,p.123
2)小野寺(1990):雪と森林,p.38

 (文責:秋山)
   
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