国立研究開発法人土木研究所
流域水環境研究グループ

土木研究所流域水環境研究グループは2チーム・1センターから構成されており、人の活動に伴い様々なインパクトを受ける河川や湖沼を対象に、生態系のメカニズムやその人為的影響・水質汚濁等の機構の解明、治水と環境を両立した河川管理手法、 汚濁物質のモニタリング、対策手法などに関する研究を行っています。

流域生態チームでは、河川・湖沼の生物・生態系および環境の保全や修復に関して、地形・物理環境・物質動態と生態系の関係の解明、生態系への影響評価手法、対策などの研究を行っています。

水質チームでは、 水域の水質リスク低減に向けて、環境水や下水処理水中の化学物質等の分析・モニタリング手法の開発、汚濁物質の挙動の解明、水生生態系への影響の評価、対策手法の開発等を進めています。

岐阜県各務原市にある自然共生研究センターは、実大スケールの実験河川・実験池を有しており、これらの施設を活用して河川流量、土砂供給量、川の構造改変に対する生態系の応答など、 多自然川づくり、流量・土砂管理に関する研究を行っています。

Members

役職 氏名 研究テーマ or 担当業務等
グループ長 中村 圭吾
  • 研究統括(グループ全体)
  • グリーンインフラ(SIP)
  • 生物多様性クレジット
上席研究員 田中 孝幸
  • 研究総括(流域生態)
上席研究員 岡安 祐司
  • 研究統括(水質)
センター長 森 照貴
  • 研究統括(自然共生研究センター)
特任研究員
(流域生態)
村岡 敬子
  • 環境DNAアーカイブを活用した河川環境モニタリングの高度化に関する研究
  • 環境DNAトレーサーを用いた流動観測技術および環境モニタリング技術の開発
  • 流域の生物多様性向上に資する局所的低水温域に関する基礎的研究
主任研究員
(流域生態)
鈴木 宏幸
  • 治水と環境に配慮した河道計画・維持管理に関する研究
  • 水辺空間の利用者特性の推定に関する基礎的研究
主任研究員
(水質)
諏訪 守
  • 安全な再生水利用のための病原微生物のモニタリング・対策手法に関する研究
  • 病原微生物の遺伝子情報を活用した下水放流水の安全性評価に関する研究
主任研究員
(水質)
平山 孝浩
  • 流量及び供給量変化に対応した流域規模での栄養塩管理技術に関する研究
  • 微生物データとAIの融合による下水処理モデルの革新的な改良に関する研究
  • 下水道から沿岸域にかけての水環境におけるマイクロプラスチックの複合的・慢性的な影響把握に関する研究
主任研究員
(水質)
北村 友一
  • 河川流量減少下における水質の監視及び管理に関する研究
  • 安全な再生水利用のための病原微生物のモニタリング・対策手法に関する研究
  • 病原微生物の遺伝子情報を活用した下水放流水の安全性評価に関する研究
  • 下水道から沿岸域にかけての水環境におけるマイクロプラスチックの複合的・慢性的な影響把握に関する研究
主任研究員
(水質)
村田 里美
  • 河川流量減少下における水質の監視及び管理に関する研究
  • 安全な再生水利用のための病原微生物のモニタリング・対策手法に関する研究
  • 水質変化に対応したダム貯水池・湖沼管理の高度化及び効率化に関する研究
  • 流量及び供給量変化に対応した流域規模での栄養塩管理技術に関する研究
  • 微生物データとAIの融合による下水処理モデルの革新的な改良に関する研究
  • 病原微生物の遺伝子情報を活用した下水放流水の安全性評価に関する研究
  • 下水道から沿岸域にかけての水環境におけるマイクロプラスチックの複合的・慢性的な影響把握に関する研究
主任研究員
(自然共生研究センター)
宮川 幸雄
  • 気候変動を見据えた流量の変動管理手法に関する研究
  • 河川における付着藻類を起点とした食物連鎖の変化に関する研究
主任研究員
(自然共生研究センター)
山下 政恭
  • 気候変動を見据えた流量の変動管理手法に関する研究
  • 良好な河川環境をもたらす地形条件の検討と指標の開発
研究員
(流域生態)
槐 ちがや
  • 生態系ネットワークを考慮した水生植物の保全手法に関する研究
研究員
(水質)
服部 啓太
  • 河川流量減少下における水質の監視及び管理に関する研究
  • 水質変化に対応したダム貯水池・湖沼管理の高度化及び効率化に関する研究
研究員
(水質)
水野 健太
  • 水質変化に対応したダム貯水池・湖沼管理の高度化及び効率化に関する研究
  • 流量及び供給量変化に対応した流域規模での栄養塩管理技術に関する研究
  • 微生物データとAIの融合による下水処理モデルの革新的な改良に関する研究
  • 下水道から沿岸域にかけての水環境におけるマイクロプラスチックの複合的・慢性的な影響把握に関する研究
研究員
(自然共生研究センター)
松澤 優樹
  • 中小河川における多自然川づくり支援システムの開発
  • 流域および河川環境の向上に資する遊水地の特性把握に関する研究
専門研究員
(自然共生研究センター)
中川 光
  • DXを促進する河川環境の広域管理技術に関する研究
  • 気候変動を⾒据えた流量の変動管理⼿法に関する研究
専門研究員
(自然共生研究センター)
溝口 裕太
  • 気候変動を⾒据えた流量の変動管理⼿法に関する研究
  • 中小河川における多自然川づくり支援システムの開発
専門研究員
(自然共生研究センター)
岡本 聖矢
  • 気候変動を⾒据えた流量の変動管理⼿法に関する研究
  • 河川における付着藻類を起点とした⾷物連鎖の変化に関する研究
交流研究員
(流域生態)
大嶋 悠也
  • 治水と環境に配慮した河道計画・維持管理に関する研究
交流研究員
(流域生態)
柞磨 祐紀
  • 環境DNAアーカイブを活用した河川環境モニタリングの高度化に関する研究
  • 環境DNAトレーサーを用いた流動観測技術および環境モニタリング技術の開発
交流研究員
(流域生態)
山本 怜南
  • 流域の生物多様性向上に資する局所的低水温域に関する基礎的研究
交流研究員
(水質)
小林 伸幸
  • 河川流量減少下における水質の監視及び管理に関する研究
  • 水質変化に対応したダム貯水池・湖沼管理の高度化及び効率化に関する研究
交流研究員
(自然共生研究センター)
齊藤 恭顕
  • 中小河川における多自然川づくり支援システムの開発
交流研究員
(自然共生研究センター)
向井 雄紀
  • DXを促進する河川環境の広域管理技術に関する研究
交流研究員
(自然共生研究センター)
大石 銀司
  • DXを促進する河川環境の広域管理技術に関する研究

Research

主要研究

R4~9

治水と環境に配慮した河道計画・維持管理に関する研究 (流域生態チーム)

近年、気候変動に伴う降雨災害の激甚化に対応するために、治水を目的とする河川整備が全国で進められています。一方で、良好な河川環境(河川生態系)を維持・向上させ、ネイチャーポジティブな川づくりを進めることも重要です。良好な河川環境の形成には、適度な出水撹乱が重要であることから、河道掘削をはじめとする河川整備を、生物の生息・生育・繁殖環境の保全・再生を行う機会ととらえ、適切に実行することが求められています。治水と環境が両立する河川整備の実現を目指し、航空レーザ測深(ALB)データやAIなどの最新技術を活用した河川環境モニタリング技術の開発や、植生繁茂メカニズムの解明、樹木の繁茂状況を考慮した水利解析手法の開発などの研究に取り組んでいます。

R4~9

河川流量減少下における水質の監視及び管理に関する研究 (水質チーム)

河川の水質管理では、気候変動による流量減少など新たなリスクに対する水環境の管理や水生生態系への影響を、事前に検討しておくことが重要です。そこで、気候変動による流量減少を考慮し、流域全体での影響を把握し、対策を講じるための研究に取り組んでいます。そこで、流域内での多様な化学物質の動きや、さまざまな排出源の実態を把握し、総合的な管理方法を構築しています。また、流量減少に対応した効率的な河川水質の監視および管理手法の開発にも力を入れています。

R4~9

安全な再生水利用のための病原微生物のモニタリング・対策手法に関する研究 (水質チーム)

平常時の水利用に加え、渇水時、災害時の代替水源として下水処理水の再生水利用が期待されています。安全な利用促進のため、病原微生物や化学物質に対しての安全性を確保する必要があります。本研究では、再生水の水質安全確保技術の提案を目的に、消毒耐性病原微生物や消毒副生成物に対応した新規消毒法としてUV-LED技術の開発や、再生水質安定化のための水質異常の自動検知と対策法の構築に取り組んでいます。

R4~9

水質変化に対応したダム貯水池・湖沼管理の高度化及び効率化に関する研究 (水質チーム)

気候変動に伴い、ダム貯水池・湖沼におけるアオコ・カビ臭等の水質障害が深刻化することが懸念されており、省人化の要請を踏まえたモニタリングの効率化やコスト・人的労力の軽減、ダム貯水池の水質改善効果の向上が求められています。 リモートセンシングや次世代シーケンサー等の新たなモニタリング技術の導入・活用法、表層・底層環境制御によるダム貯水池水質改善、ダム下流域への水質影響を踏まえた最適な水質保全設備の運用方法の研究開発に取り組んでいます。

R4~9

流量及び供給量変化に対応した流域規模での栄養塩管理技術に関する研究 (水質チーム)

沿岸域の栄養が不足する「貧栄養化」が進むと、ノリの色落ちや水産資源の減少が報告されており、今後の気候変動によってさらに深刻化することが懸念されています。瀬戸内海では、栄養塩の管理制度が導入され、一部の下水処理場では冬季に海への栄養塩供給を増やす季節運転(栄養塩管理運転)も行われていますが、下水処理場の安定運転や目標水質の設定に課題が残されています。そこで、気候変動に対応した栄養塩管理に貢献するため、下水処理場での安定した栄養塩供給の運転方法の提案や、放流先の影響を監視する方法の開発、適切な目標水質を設定できるような影響予測・評価技術の研究に取り組んでいます。

R4~9

DXを促進する河川環境の広域管理技術に関する研究 (自然共生研究センター)

河川環境に関する様々なデータを活用することで現況を評価し、環境の変化による生物多様性の応答について研究を進めています。具体的には、河川環境の良否について現況を評価するとともに環境目標を提案し、気候変動や事業による将来予測に基づいた管理手法をまとめ、流域を対象とした関係主体が迅速に情報共有できる簡略な評価・予測技術を開発しています。

R4~9

気候変動を見据えた流量の変動管理手法に関する研究 (自然共生研究センター)

渇水の頻発化、深刻化による流量変化が水環境、自然生態系に及ぼす影響が懸念されています。そこで、河川流量と生物多様性の関係性についての解析を行い、渇水を中心に流量の変動性が魚類等の生物に及ぼす影響について研究を進めています。

重点研究

R6~8

環境DNAトレーサーを用いた流動観測技術および環境モニタリング技術の開発 (流域生態チーム)

環境DNAを活用した環境モニタリング技術の開発として、環境DNAトレーサーを用いた流動観測技術の開発や、流動を考慮した環境DNA採水手法および外来種モニタリング技術の開発等に取り組んでいます。

R7~10

環境DNAアーカイブを活用した河川環境モニタリングの高度化に関する研究 (流域生態チーム)

これまで収集・保管してきた全国の環境DNAアーカイブを活用して、魚類環境調査の高度化や、魚類以外の分類群を対象とした環境DNA調査法の確立に向けた研究を進めています。

R7~9

微生物データとAIの融合による下水処理モデルの革新的な改良に関する研究 (水質チーム)

2050年までのカーボンニュートラルを目指す政策が進む中、下水処理場において、エネルギー消費量の削減や温室効果ガス排出の抑制等、運転管理の高度化が求められています。近年、次世代シーケンサーにより微生物の解析が進展し、運転管理の効率化や最適化に向けた課題解決の方向性が見えてきています。本研究は、既存の下水処理場水質予測モデルに、AIを用いて微生物種に重みを付けたパラメータを導出することで、精度向上を図り、実務に適応可能なモデルの開発を目指します。

R7~10

病原微生物の遺伝子情報を活用した下水放流水の安全性評価に関する研究 (水質チーム)

新型コロナウイルス感染症の流行が沈静化しても、他の感染症の流行が再燃する状況が続いており、感染症拡大防止のために下水処理場にて適切かつ早期対策の実施が必要です。本研究では、下水処理場での病原微生物の制御効果を新たな視点(遺伝子情報)から明らかにするため、高精度化した遺伝子情報による下水放流水の安全性の評価手法を確立し、公共用水域の健康リスクの低減を目指しています。

R5~7

下水道から沿岸域にかけての水環境におけるマイクロプラスチックの複合的・慢性的な影響把握に関する研究 (水質チーム)

近年⼈⼝増加や⽣活の向上に伴いプラスチック製品の使⽤が増えることで、マイクロプラスチック(MPs)の生成と水環境への汚染が懸念されています。他方で、世の中に存在する化学物質は数十万〜数百万種に上るといわれています。下⽔中にはその両者が流れ込むため、MPsに化学物質が吸着することにより、新たな汚染物質としてのリスクが考えられます。本研究では、下⽔中の新しい汚染物質の実態を把握し、それらが⽔⽣⽣物に与える複合的・慢性的な影響を明らかにすることに取り組んでいます。

R7~10

中小河川における多自然川づくり支援システムの開発 (自然共生研究センター)

災害復旧時等に提案される計画や設計の妥当性を評価するためには、多自然川づくりに係る技術やマニュアル類の知見を定量的な制約条件として整理する必要があります。さらに、中小河川では河川環境を評価する手法が確立されていないのが現状です。そこで、中小河川において、治水と環境が両立した河道計画および設計を技術的に支える「多自然川づくり支援システム」を開発しています。

基盤研究

R6~8

流域の生物多様性向上に資する局所的低水温域に関する基礎的研究 (流域生態チーム)

河川における局所的低水温域である湧水や流入支川などが、どういった場所に点在し、冷水性魚類等をはじめとする河川の生物多様性にどのような影響を与えているかについて明らかにすることで、魚類等の生息環境の保全のための研究に取り組んでいます。

R5~8

生態系ネットワークを考慮した水生植物の保全手法に関する研究 (流域生態チーム)

河川の水生植物は国内に生育する種のうち約30%が希少種であり、その群落は水生昆虫や鳥類の生息・採餌場となっています。一方で、水際に生育する水生植物は河川整備の影響を受けやすく、全国的に減少傾向にあることから、治水と環境の両立した河川管理を進める上で、水生植物の保全は重要な要素です。環境DNAや衛星画像、航空写真等を活用して、水生植物の種類と分布状況や、生育に適した環境を明らかにすることで、流域内の生育適地への移植等の、種の特性に応じた最適な保全⼿法の確立に向けた研究に取り組んでいます。

R5~7

河川景観に馴染む護岸ブロック判定に関する技術開発 (自然共生研究センター)

これまでの護岸ブロックを使用する基準は明度とテクスチャの2つのみで、数多くある護岸ブロックの中から現地景観に合うものを選定する根拠に乏しく、施工個所の景観に馴染みやすい護岸ブロックの条件を判定する技術が求められています。このため、河川景観に馴染む護岸ブロックの条件について検討を進め、写真等から判定できるシステムの開発を行っています。

R6~8

河川における付着藻類を起点とした食物連鎖の変化に関する研究 (自然共生研究センター)

河床の礫に付着する藻類(付着藻類)は、アユや底生動物など多くの生物を支える基盤エネルギー源ですが、変動が激しいために量や質に関する動態の知見は乏しいです。このため、河川事業による影響を理解するためには、付着藻類を餌とする食物連鎖について動態を含めた検討が必要です。そこで、付着藻類―底生動物―魚類間での相互作用を理解するために、付着藻類を起点とした食物連鎖の動態について研究を進めています。

R7~9

良好な河川環境をもたらす地形条件の検討と指標の開発 (自然共生研究センター)

「河川環境目標の設定」と「治水と環境が一体となった河道設計」には、良好な河川環境を有する地形を特定する必要があります。そこで、河川地形に関する指標を新たに開発した上で、良好な河川環境を有する河川地形を特定するための研究を行っています。さらに、河川地形がどのように変化するのか概況を予測できる技術の開発に取り組んでいます。

R7~9

流域および河川環境の向上に資する遊水地の特性把握に関する研究 (自然共生研究センター)

遊水地整備は、流域治水の施策の一環として全国で進められていますが、治水機能としての貯留量に比べ、環境に対する検討は優先順位が低くなっているのが現状です。そこで、全国の遊水地を対象に、計画洪水規模や土地利用形態と生物多様性との関係を明らかにし、環境面での設計・維持管理のポイントをまとめた事例集の作成を進めています。

挑戦的研究

R6~7

水辺空間の利用者特性の推定に関する基礎的研究(流域生態チーム)

水辺空間利用者数に影響のある要因を背後圏特性、河川特性、利用者満足度から抽出し、利用者数などの水辺空間の利用者特性を推定する手法について基礎的な検討を進めるとともに、水辺空間の利用者属性・利用形態の効率的な把握手法に関する研究を進めています。

戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)

R6~9

グリーンインフラ認証制度の検討・実装 及び グリーンインフラの導入・管理技術の開発(グループ長、流域生態チーム)

収集・分析したグリーンインフラ認証制度等に係る情報をもとに認証の制度設計検討を進めるとともに、自治体や企業・NPOに対する認証制度の実現に向けて具体化の検討を進めています。あわせて、グリーンインフラを推進させる手法として生物多様性クレジットなど環境価値のクレジット化についても日本に適した制度の検討を進めています。