ICHARM ニュースレター
International Centre for Water Hazard and Risk
Management under the auspices of UNESCO

Vol.2-No.3 2007年10月
  

このニュースレターは、 UNESCOの後援のもとで設立・運営される(独)土木研究所 水災害・リスクマネジメント国際センター(ICHARM:アイチャーム)の活動内容を広く関係者の皆様方に知っていただく目的で発行しているものです。

バックナンバー(ユネスコセンター設立推進本部が発行したものを含む)については こちらをごらん下さい。

 
- - 目次 - -
 
  1. センター長からのメッセージ
    修士課程「防災対策プログラム 水災害リスクマネジメントコース」開始について
  2. 紹 介
    1. 紀伊半島における津波対策
    2. 伊勢市におけるコミュニティー防災マップの紹介
    3. 「ライヌラー河洪水危機管理強化プロジェクト」の事前調査 (2007年8月19-9月1日(パキスタン))
  3. 研 究
    1. 第62回土木学会年次学術講演会 (2007年9月12-14日 広島)
    2. 湿地と持続可能性に関する国際セミナー2007(2007年9月4-6日 ジョホールバル(マレーシア))
    3. 平成19年度タイ国チャオプラヤ川・中国長江における流域水管理政策に関するシンポジウム(2007年9月6日 東京)
  4. 研 修
    1. 修士課程「防災政策プログラム 水災害リスクマネジメントコース」開始について
    2. 2007年度洪水ハザードマップ研修について
    3. 「総合津波防災研修」の開設について
  5. 報 告
    1. ESCAP/WMO台風委員会ワークショップ(2007年9月10-13日 バンコク(タイ))
    2. アジア太平洋地域ユネスコ水センター長会議 (2007年9月26−27日 バンコク(タイ))
  6. 寄稿
    1. コスタリカからの報告
  7. 今後の予定
 
1. センター長からのメッセージ
 

10月10日は、国際防災の日。毎年10月の第二水曜日を国際防災の日とすることは、国際防災十年(IDNDR)発足の国連総会決議に盛られ、その後国連防災戦略(ISDR)にも引き継がれてきている。今年も各国で防災に関する行事が行われたが、ICHARMでは、新たな水災害修士課程の発足と時を同じくし、記念すべき日となった。

ICHARM/PWRIと政策研究大学院大学(GRIPS)は、JICAの支援を得て、共同で災害政策修士プログラム、水災害マネジメントコースを発足した。10月4日、東京GRIPSでの入学式に続き、つくばICHARMで開講式が行われた。一期生は中国(3)、ネパール、インド、バングラデシュ(2)、フィリピン、日本(3)の計11人であるが、あいにくインドの学生は、この夏の大洪水の後始末で、来日が11月初めになるため、この日は10人の元気な若者の顔がそろった。国の洪水マネジメント計画からコミュニティの自助共助にも貢献できる、実践的で問題解決型の人材育成を目指している。

早速翌日から講義が始まった。経験豊富な大学教授、新進気鋭のポスドク、河川管理や水資源計画の専門家等、計52名の教授陣による、ある意味で夢の洪水修士コースである。基礎、演習、野外研修、修士論文を四本柱とする、意欲的なカリキュラムを組んでいる。ここで寝食を共にした有意の若者が、やがて世界各地で、ネットワークを組んで水災害防止の先頭に立ってもらえるものと期待している。

今年のノーベル平和賞は、Albert F. Gore前米副大統領に決まったが、ICHARMとしても心からの賛辞を送りたい。彼の主演映画「不都合な真実」は世界の温暖化対応の取り組み前進に大きな影響を与えた。続くStern卿のレポート、第4回IPCCレポート、ハイリゲンダムでのG8 などを経て、気候変化への緩和策と適応策の重要性は、世界各国で、21世紀最大の課題として認識され、取り組まれるようになってきた。まさに急展開である。

国連事務総長諮問委員会「水と衛生委員会」のもとに作られた「水災害ハイパネル」の第一回会合は、9月6日、東京で行われた。韓国水資源公団総裁のHan Seung-Soo氏が委員長、国連防災戦略事務局長のSalvano Briceno氏、世界水会議会長のLoic Fauchon氏が副委員長を務める委員会で、気候変化適応における水防災の重要性で意見が一致した。水災害の指標作り、洪水予警報の推進、ガバナンス問題への取り組みなどが話し合われ、第二回会合は来年1月韓国で行われることになった。

間断ない研究・教育活動のほか、10月29日から始まる洪水ハザードマップ研修、11月6日のICHARM講堂完成記念「2007年世界洪水速報シンポジウム」、12月3-4日に別府で行われるアジア太平洋水サミットに向けての準備など、たくさんの課題と取り組みながら、ICHARMの秋は深まっている。

 

水災害・リスクマネジメント国際センター
センター長 竹内 邦良

 
2. 報 告
 
i. 紀伊半島における津波対策
   

紀伊半島沿岸は、三陸沿岸とともに古くから津波被害を被ってきた地域のひとつです。特に、昭和19(1944)年12月7日の昭和東南海地震(M7.9)、昭和21(1946)年12月21日の南海地震(M8.0)では多くの人的・物的被害を出しました。

そして、近い将来には東海・東南海・南海地震の発生も想定されているため、各市町村においては防波堤、津波タワーなどの構造物的対策をはじめ、防災システムや防災教育、地域防災計画の策定がなされ、また自主防災組織が津波防災のために活発に活動している地域でもあります。

ICHARMでは、2007年6月頃に、ISDRの枠組みを活用した「総合津波防災研修」の実施を予定しており、実践的な研修プログラム作成に必要となる最新の津波対策の状況を把握し、現地行政組織に対するヒアリングを実施するため、紀伊半島各地の対策状況を調査しました。

ここでは、現地で実際に見た構造物対策に関して、それらの一部を紹介します。


1.『錦タワー』(三重県大紀町錦地区)

 
大紀町錦地区は人口約2500人(約1000戸)の、海と山に囲まれた地区です。奥尻島での津波被害等を契機とし、平成7年度から、地区内のどこからでも5分以内に高台に逃げられる避難路・避難所の整備が始まりました。しかし、奥川に囲まれた地区は周囲の高台に避難することが困難なため、避難タワーを平成10年に建設しました。平成11年には「第3回防災まちづくり大賞(消防科学総合センター理事長賞)」を受賞しました。  

津波の力を考えて円柱形になっており、船の衝突外力も考慮されています。収容可能人数は250人で、3箇所の登り口があり迅速に避難可能です。4階建てで屋上にも避難スペースがあり、普段は町民の憩いの場となっています。

 
錦タワー(大紀町錦地区)
 
錦タワー周辺の様子

2. 『津波避難タワー』と避難路(和歌山県串本町)
 
和歌山県の想定では、東南海地震・南海地震が同時発生した場合、発生後約6〜14分後には、串本町に津波第一波のピークが来襲し、最大津波水位は4〜8mに達すると予測されています。そのため、即座に避難できるように、町内の避難困難地域において津波避難タワーが4箇所設けられています。串本地区にあるタワーは、高さは約6mで最上部の避難ステージには約70名
 
収容できます。

また、大水崎区の自主防災会では、自主的に50万円を拠出し自ら避難路を設置し(2001年)、翌年度町が引き続いて整備した避難路があり、これにより避難時間を15分から6分に短縮しました。この取り組みは「防災功労者内閣総理大臣表彰」を受賞しています。

 
津波避難タワー(串本町串本地区)
 
避難路(串本町大水崎地区)

3.『廣村堤防』(和歌山県広川町)
 

和歌山県広川町は、1854年(安政元年)12月23日の安政東海地震(M8.4)と直後の24日に引き続き発生した安政南海地震(M8.4)で甚大な被害を受けました。

この時『稲むらの火』で知られる濱口梧陵は地震後、津波対策とともに失業者対策として私費を投じ堤防を建設し、4年がかりで完成しました(高さ5m、根幅20m、延長600m)。この堤防は、1946年の南海地震の際の津波からも町を守る役目を果たしました。

 また、毎年11月には堤防の近くで「津波祭り」が行われています。既に100回を越えるこの祭りは、地元の小学6年生と中学3年生が参加し、梧陵の功績に思いを馳せるとともに、津波防災の大切さを引き継ぐのに貢献しています。

 


廣村堤防(和歌山県広川町)

ここで紹介した対策は、見学した内の一部です。現地見学の詳細は近々ICHARMホームページで紹介する予定です。
   
 
ii. 伊勢市におけるコミュニティー防災マップの紹介
 

現在、日本においては571の市町村で洪水ハザードマップが公表されています。また、この他にも土砂災害や地震に関するハザードマップも多くの市町村で作成され、公表されています。これらハザードマップに関する活動は、ほとんどのケースにおいて国や自治体などの行政が主体となって行われています。

しかし、いくつかの市町村において、住民が主体となってハザードマップを作成し、災害に備えている事例があります。今回紹介する三重県伊勢市の宮後町、大湊町、東大淀町においては、住民自身の企画により町内のタウンウォッチングを実施し、災害発生時における避難に関連した危険な場所や消火栓、避難所等を自身の目で確認し、図に示すようなハザードマップ(コミュニティー防災マップ)を作成しています。このようなコミュニティー防災マップの特徴として、対象範囲が比較的狭いことと、詳細な情報が掲載されていることがあげられます。このマップでは、建物を一軒一軒まで見ることができ、「○軒隣の家の前に消火栓がある。」ということまで確認することが出来ます。

行政の作成した比較的広範囲を対象としたハザードマップを補完する形で、住民自身の手によりこの様なコミュニティー防災マップが作成されるというのは、コミュニティーベースの防災活動の一環として素晴らしい取り組みです。

 



宮後町のコミュニティー防災マップ、安全な避難路(緑のエリア)や狭い道路(オレンジのエリア)、トランスや消火器、ガス管、防火水槽、防災小屋等の位置が記載されている。

 

iii. 「ライヌラー河洪水危機管理強化プロジェクト」の事前調査 

   (2007年8月19-9月1日(パキスタン))

   

8月にパキスタン国「ライヌラー河洪水危機管理強化プロジェクト」の事前調査に水文チームの杉浦研究員が参加しました。

ライヌラー川は、パキスタン国の首都イスラマバードとその下流を流れる流域面積234.8km2の河川で、2001年には死者74名もの洪水被害が発生しています。これまでに日本は、水文観測設備、流出解析システム、

 

警報発令設備による予警報システムの設置を行いました。

今後はこれら設備を活用することとあわせて、パキスタン国の状況にあわせた避難計画の策定や関係機関の連携体制の構築、訓練等を通じた洪水の危険性や警報・避難に関する住民への周知が望まれます。

   
 
katarian橋 下流
 
ratta橋 下流
 
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3. 研 究
 
i. 第62回土木学会年次学術講演会 (2007年9月12-14日 広島)
   

9月12日から3日間の日程で広島大学において第62回土木学会年次学術講演会が開催されました。

国際普及チームの田中上席研究員は、「現地散水試験による流出・浸透特性の把握手法に関する検討」について発表を行いました。本研究は2003年に制定された特定都市河川浸水被害対策法の適用を受ける区域で、雨水浸透阻害行為を行う前の流出雨水量の最大値を算定する際に用いる土地利用形態ごとの流出係数を現場試験により求める場合の方法について開発したものです。

散水試験により降雨強度と安定浸透強度が簡単な関係にあることおよびこれとロジスティック曲線を用いて流出の時間変化を表すことが出来ることを示しました。

 

また、水文チームの今村研究員は、「鉛直方向流速分布推定式の考察」と題して、ADCP(Acoustic Doppler Current Profiler)及び水圧式水深流速計を用いて実際に洪水時の河川で観測されたデータをもとに、安芸の式・Bazinの式・対数分布式の3式についての特性を評価した一例を紹介しました。

現在浮子観測は安芸の式を基本とした更正係数を用いていますが、今回の検討ではそれぞれの流速分布式について水深・河道状況によって適合度が異なる傾向が確認されました。この結果から、その水深・河道状況に応じて最適な式を用いることにより流量観測精度の向上が図られる可能性があるということを示しました。

 

ii. 湿地と持続可能性に関する国際セミナー2007

   (2007年9月4-6日 ジョホールバル(マレーシア))

 

9月4-6日、マレーシア、ジョホールバルにおいて京都大学とInternational Islamic University Malaysiaが中心となって開催されたInternational Seminar On Wetlands & Sustainability 2007に国際普及チームの田中上席研究員が参加しました。3日間のセミナーの主題はマングローブでした。

日本から参加した琉球大学馬場繁幸(ばばしげゆき)教授、岐阜大学小見山章教授がキーノートスピーチを行いました。馬場教授は国際マングローブ生態系協会

 

事務局長も兼ねており、その活動もあわせて興味深い講演を行いました。また、小見山教授はマングローブ林の特徴やCo2との関係について意義深く重要な講演を行いました。田中は海岸植生による津波災害の軽減について発表を行いました。セミナー2日目にはユーラシア大陸最南端の地Tanjung Piai(ピアイ岬;ピアイはこの付近におおく見られる植物の名称)とマングローブ林に覆われたKukup島を視察しました。船舶の往来が非常に激しいマラッカ海峡にマングローブ林が突き出しているTanjung Piaiは近年海岸侵食が著しく、Geo-Tubeという構造物で侵食から守る努力が行われていました。

   
 

海岸侵食が進むTanjung Piai。マングローブ林とボードウォークが壊れ、沖合にはGeo-Tubeが離岸堤のように設置されている。その沖合にはおおくの船舶が行き交う。

 

高さ約20mのタワーから見たKukup島のマングローブ林

 
 

iii. 平成19年度タイ国チャオプラヤ川・中国長江における
   流域水管理政策に関するシンポジウム
   (2007年9月6日 東京)

 

土木研究所は「平成19年度 タイ国チャオプラヤ川・中国長江における流域水管理政策に関するシンポジウム」を2007年9月6日、東京にて開催しました。これは科学技術振興機構予算「人口急増地域の持続的な流域水政策シナリオ」中国長江の水政策シナリオの研究の活動の一つです。シンポジウムはタイ・チャオプラヤ川流域の水政策シナリオを研究している日本大学と共同で開催しました。それは、 遊水地問題など共通課題を議論し、 最新の政策課題の把握と

 

その課題解決のシナリオ分析を進めるためです。今回は長江の堤防建設と管理、遊水地の土地利用制度と実際の運用に焦点を絞り、長江水利委員会・水利水電科学研究院の3名に講演を依頼しました。

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4. 研 修
 
i. 修士課程「防災政策プログラム 水災害リスクマネジメントコース」開始について
   

ICHARMは、修士課程「防災政策プログラム 水災害リスクマネジメントコース」を今年度から新設し、2007年10月9日から講義を開始しました。(翌10月10日は、ちょうど『国際防災の日』でした。)

洪水を始めとする水関連災害は、世界中至る所で発生しています。今年においても、中国南部・イギリス・インド・ネパール・アフリカなどで大洪水が発生し、甚大な被害が発生しました。このような被害は、いかに現代社会が水災害に脆弱であるかを示しています。今後、これらの災害を引き起こす外力としての豪雨は、気候変化によりますます厳しさを増すと予想されています。  

このような状況に対処するためには、災害が頻発している発展途上国における洪水関連専門家の育成が喫緊の課題です。そのような専門家には、災害に対する平素からの備えや災害時の復旧・復興に対して技術的・社会科学的な見地から、災害マネジメントに必要な幅広い知識を習得することが求められています。  

このような要請に応えるため、ICHARMは(独)国際協力機構(JICA)、政策研究大学院大学(GRIPS)と連携して、標記の修士課程を新設しました。これは1年で学位を取得できる修士課程であり、初年度は、バングラデシュ・中国・インド・ネパール・フィリピン・日本出身の11人の学生が学びます。

10月4日には、ICHARM棟内会議室で、JICA筑波から青木眞所長、金子健二業務第一チーム長、松本明博業務第一チーム主任、また土木研究所とICHARMからは坂本忠彦理事長、竹内邦良ICHARMセンター長、真田晃宏研究企画課長、ジャヤワルデナ研究・研修指導監、寺川陽水災害研究グループ長、田中茂信上席研究員が出席して開講式を行いました。

 

 

来賓紹介の後、青木所長が挨拶を行い、研修生に対する歓迎の言葉と、本課程の概要紹介、並びに1年間の日本生活では勉強だけでなく様々な日本の自然・社会・文化等に興味を持つ必要性などが述べられました。  

続いて坂本理事長が挨拶を行い、その中で、本課程の目的として、社会的要請に必要な最新の技術を持って、国家政策における災害マネジメントの重要性を政策決定者に提示することができる専門家を育成することを挙げ、将来的には卒業生が災害対策の主導的専門家として、国家政策の立案と実行に参画することを期待していることを述べました。

続いて竹内センター長が挨拶を行い、これまで長年大学で数多くの入学生を迎えてきたが、初めて実務者の入学生を迎えて非常に嬉しく思っていること、また本課程は、洪水リスクマネジメントを扱うコースとして世界に類を見ないユニークなものであることなどを述べ、研修生を激励しました。

続いて研修生各自が自己紹介を行い、最後に研修生を代表してネパールから参加しているMitra BARAL氏が本課程に対する強い決意を述べ、開講式は終了しました。

研修生は来年の9月まで講義、演習、現地実習、個別研修等でICHARMを拠点として学習・研究活動を行います。ICHARMはより良い学習環境を提供すべく努力していく所存です。皆様のご理解、ご協力を頂きますようよろしくお願い致します。

 
式辞 (土木研究所 坂本忠彦 理事長)
 
式辞 (ICHARM 竹内邦良 センター長)
 
ii. 2007年度洪水ハザードマップ研修 (JICA地域別研修) について
   

2007年10月29日〜11月30日にかけて、2007年度洪水ハザードマップ研修を実施します。2004年度より始まった本研修も、今回で4回目となります。

今回の研修では、前回までと同様、東・東南アジア8ヶ国(中国、ベトナム、カンボジア、タイ、ラオス、マレーシア、インドネシア、フィリピン)の研修生16名と、タイと

 

スリランカからJICA研修とは別枠で受け入れる2名を加え、計18名の研修生を受け入れて実施します。研修カリキュラムについては、前回研修の課題や研修生からの意見を踏まえ、改善を行っています。特に、研修生の関心が高かったタウンウォッチングとマッピングのための演習については、優先科目として内容の充実に努めています。

 
iii. 「総合津波防災研修」の開設について
   

2004年12月のインド洋津波は、犠牲者約23万人という未曾有の大災害となりました。その原因としては、地震の規模自体が大きかったことはもちろんです が、沿岸国及び住民の津波災害に対する適切な知識と準備の欠如が挙げられます。

一方、"Tsunami"が国際用語となっていることが示しているように、日本は 津波に関して長い経験を有し、災害軽減策として湾口防波堤の整備や防潮堤、 避難タワーなどの構造物対策や、津波予警報システム・津波ハザードマップな どの非構造物対策、そして防災教育や地域防災計画策定がなされてきました。

このようなわが国の有する技術・経験を途上国に移転し、各国の津波対策に役立てていただくため、ICHARMでは、国連国際防災戦略(ISDR)の2カ年 (2007-2008)のプロジェクト「津波への抵抗力構築(Building Resilience to Tsunamis in the Indian Ocean)」の一つとして、「総合津波防災研修コース」開設を2008年に計画しています。

 

この研修の目的は、発展途上国における構造物対策や津波早期警報システ ム、地域防災計画を含めた、総合的な津波対策のために働ける人材の育成であり、研修生は、基礎的事項だけでなく、日本における総合津波対策の知識や技術および現場での対策事例を学習することになります。また、帰国後は、この コースを通じて学んだ情報や知識を担当者間で共有し、住民に対して啓蒙活動 を行うことも期待されます。

研修は、構造物対策・地域防災計画中心の『コースA』と、非構造物対策・ 防災システム・災害教育中心の『コースB』からなり、各コースとも6週間 (2008年6〜7月頃)を予定しています。対象国は、インド、インドネシア、モ ルジブ、スリランカの4カ国です。
候補者は、今後3年から5年にわたり総合津波対策を推進する組織のチーフまた は同等の地位にある政府関係者であり、各コースとも各国から2名ずつ(合計 16名)を研修生として迎える予定です。

今後、順次準備状況の進捗等について報告したいと思います。

 
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5. 参加した国際会議等
 
i. ESCAP/WMO台風委員会ワークショップ (2007年9月10-13日 バンコク(タイ))
 

2007年9月10日から13日の間、バンコクにて開催された表記ワークショップ(WS)に三宅上席研究員が出席しました。

1968年に設立された台風委員会は日本を含む14のメンバーで構成されており、気象、水文、防災の各WGに分かれ、情報交換や共同プログラムなどが活発に実施されています。三宅は水文WGにおいて各プロジ

 

ェクトの進行状況の確認、今後の方向性等をとりまとめる議長を努めました。水文WGにおいては洪水ハザードマップ(リード国:日本)、土砂災害の予警報(リード国:日本)、洪水予測モデルパフォーマンスの検証(リード国:韓国)、洪水予測モデルの適用(リード国:中国)、洪水予測のOJT(リード国:マレーシア)等活発な活動がなされています。また台風委員会では今後3分野が統合した活動を進めることで地域への貢献を高めることを指向しています。

 

ii. アジア太平洋地域ユネスコ水センター長会議 

   (2007年9月26−27日 バンコク(タイ))

   

9月26,27日の両日にわたって、ユネスコバンコク事務所において、アジア太平洋地域のユネスコセンター長会議が開催されました。会議には、当該地域でこれまでに設立されている5つのセンター(国際侵食堆砂研究・研修センター(中国)、東南アジア・太平洋地域湿潤熱帯水文センター(マレーシア)、都市域の水管理に関する地域センター(イラン)、カナート及び歴史的水理構造物に関する国際センター(イラン)、水災害リスクマネジメント国際センター(日本))及び近い将来の設立に向けて準備が進められている3センター(アジア太平洋地域生態水文学センター(インドネシア)、食料安全のための水に関する国際センター(オーストラリア)、持続的水管理センター(タイ))からそれぞれ代表者が参加するとともに、北京、ジャカルタ、サモア、ニューデリー、テヘランにあるユネスコ地域事務所から、水分野のエキスパートが参加しました。(カナート及び歴史的水理構造物国際センターについてはユネスコテヘラン事務所が代理))

ICHARMからは、寺川グループ長が出席し、ICHARMの活動概要を紹介するとともに、ユネスコセンター間のネットワークを活用した相互連携の具体化を呼びかけました。また、会議の中で日本水フォーラムの山口さんからアジア太平洋水フォーラムの枠組み及び12月3,4日に大分県別府市で開催が予定されている第一回アジア太平洋水サミットの概要について紹介がなされました。

今後、国際水文プログラム(IHP)の第7期計画(2008−2013年)を推進する観点からユネスコセンター間及び各ユネスコセンターとユネスコ地域事務所間の連携を強化することが期待されています。

 

ユネスコバンコク事務所玄関にて 
   
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6. 寄 稿
 
コスタリカからの報告 (JICA前研修コーディネーター 鶴田豊実氏)
   

初めまして。中米コスタリカ、グアナカステ県カニャス市にて、青年海外協力隊村落開発普及員として活動中の鶴田豊実と申します。

協力隊参加以前はJICA筑波支所の研修監理員として働き、2006年10月にICHARMにて「洪水ハザードマップ作成(FHM)」コースを担当致しました。FHMコースでは2度のタウンウォッチングを行うなど、住民参加型のソフト面での防災力強化が強調されていた点が印象的でした。ちょうどその頃に青年海外協力隊で、防災教育に関する要請が上がっており、興味を持って応募したところ派遣に至りました。

 6月下旬にコスタリカへ到着し、首都での語学研修、防災関連機関での研修を経て、9月初旬に任地カニャス市へ赴任しました。

 

カニャスは人口2万人ほどの比較的大きな街です。周辺には多くの川が流れ、上流での降雨により下流のコミュニティで度々洪水が起きています。そうした地域の状況を調査するため、現在はカウンターパートともに毎日担当コミュニティを訪問しています。またコスタリカでは10月9日から12日が防災教育週間に指定されており、各学校での防災訓練等の活動の企画も行っています。

まだ今後2年間の活動のイメージが固まらないのですが、焦らずに今年いっぱいの調査で課題を抽出し、2008年より本格的な活動を開始できればと思います。

 コスタリカは緑あふれる美しい国です。ぜひ遊びにいらして下さい。

   
 
マヌエルアントニオ国立公園内の海岸
 
カニャス近郊で地区安全委員会が最も活発なコミュニティ、ホテル地区。 過去に国家緊急災害対策委員会の支援でディザスターイマジネーションゲームのワークショップなどを行っている。
   
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7. 今後の予定
 

第1回アジア・太平洋水サミットが12月3日、4日、大分県別府市で開催されます。サミットのテーマは「水の安全保障:リーダーシップと責任」です。ICHARMは優先テーマB:「水関連災害管理」のリード組織を担当しています。

 
 

第2回洪水ハザードマップセミナーを2月上旬に中国で開催します。開催期間は3日間の予定です。

 
 

ICHARMは、11月6日(火)に、「ICHARM Quick Report on Floods 2007」をICHARM棟内講堂にて開催します。このシンポジウムでは、今年に中国・イギリス・インドで発生した洪水災害を対象に、それらに直接関わった専門家の当事者を招待し、災害の状況を報告して頂くとともに、世界における地球温暖化の影響と洪水災害減少に向けた各国の取../../index_j.htmlディスカッションを行います。

 
 

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