研究の紹介

雪崩の現象を解析する!
     〜 雪崩の現地観測の新たな試み 〜

柵口地区 現地観測システム概要図
柵口地区 現地観測システム概要図
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2003.1.3 柵口地区 全層雪崩映像と雪崩振動データ
2003. 1. 3 柵口地区
全層雪崩映像と雪崩振動データ
航空レーザー計測データを用いた雪崩映像解析
航空レーザー計測データを用いた雪崩映像解析

 「平成18年豪雪」では、全国で100件の雪崩災害が発生し(国土交通省砂防部調べ)、うち集落を襲った雪崩災害は28件で20年ぶりに尊い人命が失われました。雪崩対策を検討する上で、雪崩の実態把握が不可欠ですが、雪崩再発の危険もあり、現地踏査は容易ではありません。また、降雪や風による雪面形状の変化や融雪による雪質の変化などもあり、精度の良い調査は少ないのが現状です。

 このため、雪崩・地すべり研究センターでは、1995年から北陸及び東北地方の雪崩斜面において、雪崩の発生記録を得るための雪崩映像観測と気象データの収集を11箇所で開始しました。現在は、観測地を
  ・ 新潟県糸魚川市柵口(ませぐち)地区
  ・ 新潟県糸魚川市寒谷(さむいだに)地区
  ・ 長野県白馬村白馬八方(はくばはっぽう)地区
  ・ 長野県飯山市信濃平(しなのだいら)地区
の4箇所に絞り、気象観測、積雪断面観測、雪崩による地震動の計測、雪崩衝撃圧の計測等を実施しています。
 雪崩現地常時観測により得られた雪崩動態映像からは、
  ・雪崩の発生時刻
  ・雪崩の発生形態(形状、雪質、全層・表層)
  ・雪崩の流下経路と規模
の判読・計測を行っています。従来は、雪崩の先端位置を時間の経過毎に判読し、地形図や空中写真上にトレースすることによって、雪崩経路及び速度等の情報を得てきました。最近では、航空レーザー計測を用いて、雪崩映像と同じ視点の鳥瞰図を作成し、雪崩の速度、幅、高さなどを定量的に算定する手法を試みており、従来では困難であった細かな解析が可能となりました。さらに、高密度な地形データを使用しているので、雪崩の動態解析も可能となりました。

 これまでに、流下距離2 .5kmも雪崩れ下った大規模なものを含む多数の雪崩動態映像が撮影されており、気象・震動データなどと照らし合わせながら解析を行っています。
 今後は、この手法を用いて今まで不明な点が多かった雪崩の発生及び運動機構を解明し、雪崩対策指針へ反映させていく予定です。


(問い合わせ先 : 雪崩・地すべり研究センター)
  ※ホームページで雪崩の動画がご覧いただけます。

洪水を事前に予測!
     〜 レーダ雨量を活用した新しい洪水予測技術 〜

     
新潟県刈谷田川及び五十嵐川流域の場所
新潟県刈谷田川及び五十嵐川流域の場所
2004. 7 大雨による洪水が発生しました
レーダ雨量計による1kmメッシュ雨量
レーダ雨量計による1kmメッシュ雨量例
2004. 7. 12〜7. 13 新潟県刈谷田川(太線左)・
五十嵐川(太線右)流域周辺(クリックで拡大)
降雨流出関係を算定する分布定数型流出解析モデル
降雨流出関係を算定する
分布定数型流出解析モデル

 近年、中小河川における洪水災害が頻発しています。梅雨・台風期に集中する中小河川の洪水を予測するためには、河川流域内の降雨量を的確に観測・予測することはもちろんのこと、降雨量と河川への流出量との間を高精度に関係づける「流出解析モデル」が必要となります。そこで、土木研究所水災害・リスクマネジメント国際センター(ICHARM)では、レーダ雨量計による観測・予測雨量を直接利用でき、流域スケールにかかわらず幅広く適用可能な新世代の流出解析モデルを開発し、関連技術を組み合わせて新しい洪水予測技術を開発しましたので紹介します。

 従来は、面積50km2あたり1ヶ所程度設置されている地上設置の雨量計による観測データに基づいて洪水予測を行うのが一般的でした。利根川・淀川のような大河川ではそれでも十分ですが、近年災害が頻発する中小河川では、局所豪雨の影響を捉えきれない可能性があります。そこで、全国を1kmメッシュで覆う観測網を持つレーダ雨量計による降雨観測データや最新の雨量予測データを直接入力できる分布定数型モデルを流出解析モデルとして採用しました。これにより、局地的豪雨の影響を見逃しません。また、流域の乾湿度(土壌水分量や地下水位等)を内部で考慮するモデルになっています。これらの特徴により、洪水予測の精度を安定して高めることができるようになりました。また、過去の水文観測資料が不十分な流域でもモデルを構築できるように工夫されており、中小河川や河川上流域・支流域の予測にも適用しやすくなります。
 その他、下流域で潮位や堰の操作の影響を受ける区間の水位予測の精度を高める仕組みや、リアルタイムでの観測値と予測値との差異を利用した誤差修正手法にも、新たに実用的な工夫を加えるとともに、洪水予測担当者が直感的に使いやすい入出力インターフェースを装備しました。

 以上の特長から、中小河川での洪水予測だけではなく、ダム群のより効率的な統合的管理や、上下流間、本川・支川間といった河川管理組織を超えた流域一貫での洪水予測情報の共有・提供といったニーズにも応えることができると期待されます。


(問い合わせ先 : ICHARM 水文チーム)