研究成果の紹介

既設道路橋基礎の耐震性能評価手法
   〜耐震補強の優先付のための研究〜



地震における道路橋の被災事例 (上:1995年阪神大震災における橋脚の被災事例,下:1964年新潟地震における基礎の被災事例)


載荷実験終了後の杭の様子 (上:阪神大震災発生以前の道路橋示方書で規定されている設計法で設計された杭、下:阪神大震災発生後に改定された道路橋示方書で規定されている設計法で設計された杭).阪神大震災後に改定された道路橋示方書に準じて設計された杭の方が損傷が小さい。


          本研究の検討内容

 現在、日本には、約6万基という非常に膨大な数の道路橋基礎が存在します。この膨大な数の道路橋基礎を限られた期間・予算の中で効率的に耐震補強するためには、地震後の復旧活動に必要な路線との関係、地震の被害の大きさ等を考慮し、耐震補強の優先順位を決定する必要があります。そこで、この研究テーマでは、地震の時に基礎が受ける被害の大きさに着目し、道路橋基礎の耐震補強の優先順位を決定することを目的としています。
 基礎が地震時に受ける被害の大きさに影響する要因としては、建設の時に準拠した道路橋示方書がいつのものか、基礎が建設されている地盤条件・基礎に用いられている材料はどのようなものか、道路橋基礎の形式は何か等、様々なものがあると考えられます。本研究では、過去に行われた実験結果や被災事例を分析するとともに、必要に応じて計算を実施し、道路橋基礎が地震により受ける被害の程度を5段階のレベルに分類しました。そして、それぞれの道路橋基礎がどのレベルに該当するのかを、複雑な計算や検討を行うことなく、上記に示したようないくつかの要因(適用道路橋示方書、地盤材料、基礎形式等) に基づいて簡便に予測する方法を示すことができました。
 そもそも道路を安全・効率的に供用するためには、地震が発生した場合でも落橋等が起こらず、ある程度の性能を保持していることが不可欠です。そのため、道路橋は、所定の性能を確保するための設計・施工方法を示した道路橋示方書と呼ばれる技術基準に従って設計・施工されています。道路橋示方書は、道路橋の設計・施工に関する新たな知見が得られた場合や、大地震の発生により道路橋に要求される性能の見直しに迫られたときなどに改訂されます。例えば、平成7年に発生した阪神大震災は過去に類を見ない大地震であり、これ以降はこのような大地震に対しても安全であることが必要であると判断され、総じてそれ以前よりも耐震性能の高い橋を作るように改訂されました。一方、古い橋の場合は、現在の基準で要求されている耐震性を満足していないものもあり、これらについては耐震補強が必要となります。
 しかし、限られた予算や期間の中で、全ての橋梁について耐震補強を実施することは難しいのが現状です。また、大地震の切迫性が指摘されている昨今では、より緊急的な補強の実施が求められます。そこで、国土交通省により、緊急輸送路の橋梁耐震補強3箇年プログラムが平成17年度より実施されました。これは、地震時における救助・救援活動や緊急物資輸送のために重要な路線を選定し,その区間に対しては,甚大な被害を防止し,最低限必要な交通機能を確保できるように耐震補強を実施するというものです。具体的には,高速道路上の橋梁および特定された緊急輸送道路上の橋梁に対して,兵庫県南部地震と同程度の地震動に対しても落橋等の甚大な被害を防止することを第一としています。 
 3箇年プログラムは19年度に完了しましたが、次の耐震補強の戦略としては、基礎についても議論されることになると考えます。そのため、道路橋基礎の耐震補強の優先順位を決定する研究は非常に重要であり、この方法のさらなる精度の向上に努めています。



(問い合わせ先:CAESAR)

地球温暖化の影響により積雪寒冷地の水田で渇水の頻度が高まるかも
   
〜気象予測値から予測〜


図-1 検討のフローの概要

図-2 将来の流出時期の変化


図-3 ダムの水収支計算方法


図-4 将来のAダムの必要容量

 農学分野の多くの研究では、北海道内の稲作に対して将来の気候変動が与える影響は深刻なものではないと予測されています。しかし、これらの研究では灌漑用水が不足しないことが前提となっています。一方、水文学の分野では、温暖化が進むと融雪水の流出が早まると予想されています。北海道のような積雪寒冷地の稲作にとって雪は重要な水資源であるため、気候変動による積雪量や融雪時期の変化が稲作に与える影響を検討することは、将来の国内の食料安定供給にとって不可欠です。このような背景から、気象庁より気象予測値の提供を受け、北海道内の農業用ダム(Aダム)での2031年〜2050年の用水需給について検討しました。
 検討フローは図-1に示すとおりです。まずAダム流域から貯水池への流出モデルを作り、これに将来(2031〜2050年)の気温・降水量データを入力して、将来の流出量を予測しました。また、将来の灌漑期間中の降水量から有効雨量を計算し、水田での必要水量を算出しました。この両者からダムの水収支を計算しました。
 図-2は、1年を通しての積算流出量を近年(1991〜2000年)の現在値と将来(2031年〜2051年)の予測値で比較したものです。5月1日前後の曲線の勾配の大きな部分は、融雪流出を意味します。近年と比較すると、将来は3月ころから融雪の始まる年が見られるようになり、平均値でみても融雪流出が早まると予想されます。
 水田で必要水量が大きいのは、代かきや田植えの行われる時期です。現在は、この時期が融雪流出で河川流量の大きな時期に重なるため、融雪水が有効に利用されています。しかし将来は融雪流出が早まってしまうため、ダムの水収支が変化します。図-3のような水利用を想定し、水田地帯での用水量とダム集水域からの流出量を用いて、灌漑期間中のダムの水収支を計算したところ、図-4のような結果が得られました。将来の20年間に用水計画通りの作付がなされると、Aダムの現在の施設容量では渇水の頻度が高まるおそれがあると示唆されました。今後、この研究を足がかりとして、安定した用水供給方策について研究を進める予定です。



(問い合わせ先:寒地土木研究所 水利基盤チーム)