研究の紹介

河川堤防を液状化現象から防ぐ!


液状化による堤防の被害

液状化による堤防の変形イメージ(堤防の下の液状化層が押しつぶされ、横に広がっている)


固結工法による堤防の液状化対策

 河川堤防は、河川の水が堤内地に浸入することを防ぐための構造物で、堤防の高さが計画高水位よりも高くなるように造られます。しかし、地震が起こると堤防が沈下することがあります。もし、堤防の高さが河川水位よりも低くなってしまうと、地震で被害を受けた堤内地に河川水が浸入し、大きな二次災害を起こすことが考えられます。また、堤防に大きな沈下が生じる原因のほとんどが、堤防下の地盤の液状化であることが過去の経験から分かっています。このため、地震後の浸水による二次災害を防ぐためには、液状化による堤防の沈下を抑制するような対策を行う必要があります。
 堤防が液状化によって沈下するとき、図に示すように、堤防下の地盤が堤防の重さを支えきれなくなって押しつぶされ、横方向に広がるように変形します。液状化による堤防の沈下を防ぐためには、堤防直下の地盤の液状化を発生させないことが最も確実ですが、すでに造られた堤防の直下にそのような工事を行うことが困難です。このため、通常はのり尻付近に対策を施し、堤防の下の液状化層が横方向に広がるのを防止することで、堤防の沈下を軽減させる方法がとられます。対策工法には様々なものがありますが、代表的なものの一つとして、地盤にセメントを混合させて改良体を構築する工法(固結工法)があります。また、工事のコストを削減するため、改良体が格子状に造られることがよくあります。この改良体の寸法や強度等を決定するための耐震設計では、従来、中規模地震を想定していましたが、平成7年兵庫県南部地震や平成16年新潟県中越地震のような大規模地震に対してどの程度の安全性があるのか、どのように破壊するのか、必ずしも明らかになっていませんでした。そこで、堤防の下に設置された格子状改良体の地震時の安定性や破壊形態を調べるために模型実験を行いました。
 実験では、従来どおり中規模地震に対して設計された格子状改良体を堤防ののり尻付近に設置し、兵庫県南部地震クラスの大規模地震の振動を加えました。その結果は、以下のとおりでした。
@大規模地震に対して、格子状改良体を設置した場合と設置しない場合で堤防の沈下量に2倍程度の差が見られ、堤防の沈下を軽減させる効果が確認されました。
A大規模地震に対して、格子状改良体の損傷は確認されませんでした。中規模地震を対象として行われる従来の耐震設計でも、ある程度の安全性が確保されることが分かりました。
Bさらに大きな地震を与えると、格子状改良体に破壊が生じたが、破壊後に堤防の沈下量が増加しませんでした。
 今後は、さらに実験データを積み重ね、大規模地震に対する改良体の合理的な耐震設計法を提案する予定です。



(問い合わせ先:土質・振動チーム)

古い年代に建設された撤去橋梁を活用した臨床研究の取組みについて

     

(写真-1)ダンプトラック載荷試験

(写真-2)人力による振動試験

(写真-3)ひずみ計測のイメージ

(写真-4)床版の損傷

 土木研究所は構造物メンテナンス研究センター(CAESAR)を本年4月に設立したところですが、実際の橋梁の劣化損傷事例に係る問題解決のための研究の一環として、古い年代に建設された撤去予定の橋梁を活用して、挙動計測、劣化進行状況の非破壊調査、撤去部材の載荷試験などの臨床学的な研究を開始しました。
 日本では1960〜70年代の高度経済成長期に架けられた橋が多く、それらの橋がこれから高齢化し、適切な維持管理が必要になってくるため、古い年代の橋に着目しています。
 このたび、CAESAR設立後の最初の対象橋梁として、10月下旬に、北海道芦別市に位置する一般国道452号 旭橋を活用した調査試験を行いました。橋の概要は次のとおりです。

橋梁名: 一般国道452号旭橋(北海道芦別市)
供用開始: 昭和28年(1953年)
構造形式: 3径間連続鋼I桁橋(鉄筋コンクリート床版)

 調査試験では、旭橋にひずみゲージ等の計測機器を設置し、重量のあるダンプトラックを用いた載荷試験(写真−1)をしたり、橋の上で人が一斉にジャンプを繰り返すことによる振動試験(写真−2)をして、橋に生じる応力や振動を計測しました。
 今後も、実在の橋梁を対象に、橋全体の挙動計測や撤去した橋の部材強度試験などの調査研究を継続的に実施し、劣化損傷の進んだ橋梁の調査・診断方法を確立できるよう、研究を積み重ねていく予定です。



(問い合わせ先:CAESAR)

ガーベイジ(生ごみ)・バイオガスの道路パトロールカーへの適応性調査について
   〜CO排出量削減への取組〜

     

広域ごみ処理施設(リサイクリーン)

バイオガス精製のイメージ

CNG道路パトロールカーへの充填状況
(タンク容量:27m
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 寒地機械技術チームでは、ごみ処理施設から生産されるバイオガスで走行するパトロールカーを研究し、CO削減に取り組んでいます。
 本研究では、実質的なCO 削減と未利用エネルギーを有効に活用する際の低温積雪寒冷地における適応性調査を進めており、その状況について紹介します。
 中空知衛生施設組合(北海道:滝川市、芦別市、赤平市、新十津川町、雨竜町)が管理運営する広域ごみ処理施設(リサイクリーン)では、日々生ごみをメタン発酵処理しており、生成されたガーベイジ・バイオガスは、施設内の発電機やボイラーの燃料などに利用しています。しかし、月1万m 以上の余剰ガスが発生しており、通常は燃焼させ処分しております。この余剰ガスを精製圧縮充填装置(国土交通省北海道開発局保有)によって、CNG(圧縮天然ガス)対応車輌の燃料として活用する実験を行っています。車輌は、北海道開発局の道路パトロールカーとして、日々の道路巡回業務に使用しています。
 バイオガスは、生ごみなどの有機物が原料であり、食物連鎖を考えると光合成を行う植物が起源となることから、最終的にガスが燃焼されCO が排出されても、カーボンニュートラルであるとされています。寒地機械技術チームでは、実質的なCO 排出量を把握するために、排出ガスの分析を行いました。その結果、バイオガス使用時とガソリン使用時の成分を比較すると、バイオガス使用時の方が約30%削減されていることが解りました。また、バイオガスによる走行距離は6月下旬から開始し、11月末までに約6,300kmの実績があり、ガソリン約980リットル相当の節減を確認したところです。
 今後は、実際に年間を通して道路パトロールに使用することにより得られる走行距離や燃料消費量のデータを収集します。当チームとしては、それらのデータを基に経済性等を把握するとともに、積雪や凍結など積雪寒冷地ならではの課題や車輌の始動性、動力性能などの課題を抽出し、対応策を検討します。これらを通し、積雪寒冷地はもとより、全国的に展開できる適用モデルを提案することで、CO2 削減目標の達成に寄与していきたいと考えています。



(問い合わせ先:寒地土木研究所 寒地機械技術チーム)