研究成果の紹介

「道路トンネル技術基準(換気編)・同解説」が改訂されました


写真-1 道路トンネルの換気施設例

写真-2 供用中の道路トンネルでの実態調査状況


図-1 煤煙排出量の予測結果

 延長が比較的長く、交通量が多い道路トンネルなどでは、トンネル内において安全かつ快適な環境を確保するための換気施設(写真−1)が必要となります。道路トンネルの換気施設の設計は、「道路トンネル技術基準」という基準にもとづいて実施されています。実際の設計は、この基準の解説書である「道路トンネル技術基準(換気編)・同解説」((社)日本道路協会)に従って、交通量、トンネル延長などの諸条件と、小型車、大型車の自動車1台あたりから排出される煤煙と一酸化炭素の排出量をもとに、これらの濃度が定められた基準値をトンネル内において満たすように行われています。
 これまでは、平成14年に改訂された解説書をもとに設計を行っていましたが、従来から実施されている自動車排出ガス規制等により、自動車の性能が向上して排出ガス濃度が減少してきたことや、以前に比べて、国内における軽自動車の保有台数が増加してきたことなど、道路トンネルの換気施設を取りまく情勢が大きく変化してきました。そこで、これらを反映させた、より合理的な換気設計ができるように設計に用いている諸数値を見直す必要が生じました。
 土木研究所トンネルチームでは、換気施設の合理的な設計を行うために、下記の項目について実態調査や検討を実施してきました。今般、土木研究所で実施したこれらの成果を盛り込んだ「道路トンネル技術基準(換気編)・同解説 平成20年改訂版」が平成20年10月に改訂されました。
@煤煙の自動車1台あたりの排出量
 供用中の道路トンネルにおける実態調査(写真−2)を行い、煤煙や一酸化炭素等の自動車1台あたりの排出量の把握と予測を行い、換気施設の設計に用いる自動車1台あたりの煤煙排出量(図−1)を提案しました。
A煤煙排出量の速度勾配補正係数
 煤煙排出量は道路の縦断勾配と自動車の速度などによって変わるため、自動車の構成割合を考慮した、速度勾配補正係数を提案しました。
B自動車の等価抵抗面積
 自動車がトンネル内を走行することによって、空気を動かします。空気の動きの大きさによって、トンネル内の煤煙濃度が変わります。よって、近年の自動車の形状と車種の変化を考慮して、自動車がトンネル内の空気を動かす量を求めるための等価抵抗面積を提案しました。



問い合わせ先:トンネルチーム

港内結氷シミュレーションの開発


漁船が停泊する港奥部が結氷する

漁港における港内結氷状況とその対策案の例
[大津漁港(北海道豊頃町)]


港内結氷シミュレーション(現況再現)の例
[大津漁港(北海道豊頃町)]

 北海道の北部から東部にかけての港湾・漁港では、冬季に港内水面が凍る「港内結氷」が発生し、船舶の運航や漁船の出漁に支障を来したり、船体が損傷するなどの被害が発生しています。北海道の港が凍る要因は様々です。北海道の厳しい寒冷環境は勿論ですが、地域によって幾つかの特徴がみられます。オホーツク海に面した漁港・港湾では、流氷の影響もあり、日本海側では多量の降雪により海水の塩分量と水温が低下し、さらに降った雪が解けずにそのまま氷化する場合もあります。また、太平洋側では、あまり結氷しませんが、港形・構造によって非常に凍りやすい港があります。例えば、掘り込み式の大津漁港(十勝支庁豊頃町)では、閉鎖的な掘り込み式であるため、@熱容量が小さく直ぐに結氷する水温まで低下する、A外海との熱交換が少ない、B凍った氷が外海に排出・移動しにくい、等の事情により非常に凍りやすくなります。これは閉鎖的で浅い水たまりが凍りやすいのと同じ原理です。港内結氷による港の利用障害を低減するには、熱供給方式、新港形方式・新泊地の整備、発生した氷・氷晶を港外へ排除する方式などいくつかの対策が考えられますが、その整備効果を定量的に評価する方法論はありませんでした。
 当研究所では、港内結氷のメカニズムを明らかにするため、氷晶の発生機構、熱収支などの現地観測を実施している一方で、提案される対策工の効果の検討を支援するためのツールとして実用的な結氷シミュレーションを開発しました。これは、実際の気象条件を考慮し、雪・氷・水の3つの層を考え、各層の表面あるいは界面での熱収支から雪や氷の厚さを計算します。また、港内外の流れ場や、風や流れによる氷盤移動も同時に考慮し、平面的な結氷状況などを再現できます。事業への反映として、結氷対策が切望されていた前述の大津漁港において、本シミュレーションが活用されました。これにより、上述したような各種対策工の整備効果の比較検討を行い、現地に最も適した工法として、新泊地(港外近くの熱交換が盛んな水域に係留施設を確保)を整備することを提案し、事業化されました。さらに北海道東部の漁港での結氷対策の検討にも、本シミュレーションが活用されています。本研究成果は国外のジャーナル等にも掲載され、その有用性を海外にもPRしています。



問い合わせ先:寒地土木研究所 寒冷沿岸域チーム