研究成果の紹介

泥炭地盤の長期沈下を予測する
 
〜 泥炭地盤に造る土構造物のライフサイクルコスト縮減に向けた取組み 〜


北海道でよく見られる繊維質な泥炭


泥炭地盤における道路の沈下

泥炭地盤上に建設中の盛土に発生したすべり破壊


泥炭地盤上の道路のライフサイクルコストの概念

 泥炭は、枯れた植物が長年にわたり分解が不充分なまま堆積してできた非常に軟弱で特殊な土です。泥炭地盤における土木施設では、大きくて長期に継続する沈下や極めて低い支持力のために生じるすべり破壊など、非常に厄介な問題が生じます。寒地土木研究所では、前身である北海道開発局土木試験所の時代から、この問題を克服するための研究を行っており、既に泥炭地盤用の沈下予測式や強度算定式などを提案し、実務に広く活用されています。
 しかし、近年では、より安全・安心かつ経済的な社会基盤整備が求められており、泥炭地盤上の土木施設においても、効果的かつ効率的な対策工法の選定が従前以上に重要となってきています。この際、ライフサイクルコスト、つまり建設コストと維持管理コストのバランスを踏まえた対策工法を選定する必要があります。
 以上の背景を受けて、泥炭地盤の対策工法や維持補修による荷重の増加などを的確に反映できる長期沈下予測手法を開発するとともに、新工法・新技術の泥炭地盤に対する適用性を明らかにし、泥炭地盤における設計法・施工管理法を検討しました。
 その結果、建設後に地面が沈下する量をあらかじめ設定して建設費と補修費を予測することがライフサイクルコストの把握に必要なことが定量的にわかりました。つまり、泥炭地盤の長期沈下予測の重要性が改めて確認されたわけですが、従来の方法と比べてより精度が高く適用範囲も広い解析手法を確立することができました。さらに、新しい軟弱地盤対策工法を泥炭地盤に使用した場合の効果についても把握できつつあるところです。今後は、これらの研究成果を広く実務に使ってもらえるよう、「泥炭性軟弱地盤対策工マニュアル」の改訂を行う予定です。



(問い合わせ先:寒地土木研究所 寒地地盤チーム)

「道路トンネル観察・計測指針」が改訂されました
 
〜 現場での観察・計測を、安全で合理的なトンネル工事に活かす 〜


写真-1 トンネルでの観察・計測の実施例

図-1 トンネル工事での観察・計測の活用の概念


写真-2 切羽の安定性の確保が困難な例

 道路トンネルの本体構造に関する技術的な基準は、山岳トンネル工法を対象とした「道路トンネル技術基準」があります。その中では、吹付けコンクリート・ロックボルト・鋼アーチ支保工といった部材を組み合わせた「支保工」を使用する施工方法が標準と決められています。また、この基準の内容を具体的に解説した「道路トンネル技術基準(構造編)・同解説」が発刊されており、道路トンネルの設計や施工に従事する現場技術者の拠り所として活用されています。
 トンネル工事では、施工中の観察・計測の実施(写真-1に実施状況)とその結果の活用が、トンネル全体の安定や施工の合理化のために重要であると考えられ、この考え方は技術基準の中でも説明されています(図-1にトンネル工事での観察・計測の活用の概念)。そのため、観察・計測の重要性などを技術者が理解し、実務の参考となるよう、(社)日本道路協会より「道路トンネル観察・計測指針」が平成5年に発刊されました。
 指針の発刊後も、トンネルの施工時に発生する現象を観察・計測によって適切に把握し、その結果を施工に反映させることの重要性が一層認識されてきていると同時に、数多くのトンネルの建設が行われ、さまざまな施工の実績が蓄積されてきました。このような状況を踏まえ、トンネルチームでは、道路トンネルの観察や計測結果の活用に関連した検討を実施してきました。そして、平成21年2月に得られた研究成果が盛り込まれた「道路トンネル観察・計測指針」の改訂版が発刊されました。
 改訂された指針の中では、これまでに施工された道路トンネルのデータベースをもとに、トンネルを掘削している時の最先端の面である「切羽」で観察された岩石やその割目(亀裂)の状況、湧水などの情報を活用し、支保工を選択する定量的な基準を提示しました。
 これ以外にもトンネルの建設にあたって、安全かつ経済的な施工が可能となる探査方法について、その手法、結果の評価と活用に関する考え方についての記載を指針に追加しました。さらに、切羽の安定性を確保することが困難な場合(写真-2)、過大な土圧によって支保工が変形する場合での対策工法の事例や、対策工法への観察・計測結果の反映方法の記載も追加しました。



(問い合わせ先:トンネルチーム)